エンド・オブ・フォーマルハウト

まきえ

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<CHAPTER 03/一難去って/WORKING>

<Paragraph 3/依頼/Kannagi>

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「――以上となります」

 麗蘭が口にした内容を整理すればこうなった。


 
 彼女には高校生の一人娘がいた。名前は鈴蘭すずらん。あまり表情を表に出さない麗蘭とは違い、感情は豊かであり、良くも悪くも友人には恵まれているらしい。

 そんな娘が、高校の夏休みのときに問題が発生した。

 麗蘭は祖母から継いだノロの仕事の他にも、前から琉装を着て観光スポットのガイドや歌を歌うなどの仕事をしており、女手一つで娘を育てていることもあり夜も不在になることが多かった。その中、夏休みということもあり、麗蘭の目を盗んで鈴蘭が夜遊びに出ることも増えた。

 遊びの内容は、端的に言えば『肝試し』だった。若気の至りともいうが、この手の話はどこにでもある。夜な夜な有名な心霊スポットを周り、あそこが怖いなどと噂を立て、また別のグループが肝試しに訪れる。この連鎖は途切れることはなく、尾ひれも背びれもついて誇大になっていくのが世の常である。

 その中で、鈴蘭たちは多くの心霊スポットを周り、その結果、彼女に""があることが判明した。

 鈴蘭本人はそれが何かわからなく、実害はない。そのため発見が遅れ、鈴蘭の周辺でたびたび怪異的なことが起こり、その一端が影響してある事件が起こる。鈴蘭たちが肝試しをしていたグループの1人が、バイクを運転中に転倒して死亡した。未成年者がバイク事故で亡くなることは珍しいことじゃない。県内のニュースでもそれは触りだけ報道され、次第に話題は風化していったが、鈴蘭のグループだけが、怪異の仕業と慄いている様子だった。

 そして、なぜこの内容で夏喜に依頼があったのか。それは、鈴蘭たちが肝試しに訪れたところに、ユタの聖地が関係していることが挙げられた。

 公的な巫女である『ノロ』と同様に、民間の巫女である『ユタ』も沖縄県内では大きな影響力を持つ。『医者半分、ユタ半分』と言われるほど、自身の病や不幸をユタに診てもらい、何らかの対処を依頼する信仰者も未だ多くおり、文明の進化が久しい現代においてもそれは進行形で続いている。世襲制である『ノロ』と違い、ユタ家系であっても誰もが能力があるわけではないため、ユタにはその能力を開花させるための修行場が点在しており、信仰が高い地域は『聖域』として崇められ、言い換えれば恐れられている。

 ノロもユタも、聖地は男子禁制であり、認められた女性しか踏み入れてはいけない。その伝承が肝試しの良いスパイスとなっていることもあり、若い連中が無断で足を踏み入れることがたびたび発生していた。

 麗蘭はその地に鈴蘭たちグループも踏み入れていたことを知り、知覚化した"憑き物"の対処を思案していた。

 なら、なぜノロである麗蘭本人や、他のノロ、ユタが対処しないのか。それは、シャーマンとは本来、降霊に特化した霊媒師であることである。日本本土のイタコのように自らの身体に崇拝している神や先祖を降ろすことが生業であり、他者の霊的存在を祓うことは管轄外である。

 そして、ノロとユタは別の立場であることから、接触することはない。琉球王朝に仕えたノロと民間に信仰が厚いユタでは、明らかに立場が違う。そのことから、ユタ側がノロの血筋に手を出せず、ノロ側もユタの禍に干渉することはない。そのため、内々での解決が困難であることから、外部である魔法協会から夏喜に依頼が来た運びであった。



「――依頼は3つ。1つ目は鈴蘭の"憑き物"の排除、2つ目は発生源の特定、3つ目は浄化です」
「3つとは多いわね。1つ目だけでは不満?」

 夏喜とすれば、娘に憑いたものを祓うだけで十分ではないかと思っていた。それが、発生源を潰すとなると話が変わる。

「はい。わたくしはノロの立場として手を貸せません。ですが、母の立場としては、原因の糾明こそなければ心が休まりません。腹を痛めた子が、怪異の呪いがあるのは許せない。だからこそ、亡くなった祖母を恨みこそしました」
「おばあさんは関係ないのでは?」
「祖母からノロを継いだことで、わたくしが娘を護れない。世襲とは、世知辛いものですから」
「ふーん。そんなものかしら」

 カラカラと、夏喜がジョッキに注がれた茶色い液体をストローで混ぜた。鼻をくすぐる薬草の匂い。ジューダスはそれを3杯ほど飲み干していた。

「内容はわかったわ。困ってるみたいだから依頼は受けるわよ。下準備の一環だけど、娘の鈴蘭について聞かせてもらえるかしら」
「はい。鈴蘭は――すいません。電話が」

 そのタイミングで、麗蘭の携帯電話に着信が入った。着信画面を見て何かを悟ったのか、麗蘭がため息を漏らす。

「こちらは気にしなくていいわ。電話どうぞ」
「はい。では失礼して。はい、いつも申し訳ございません、麗蘭でございます。――」

 聞き耳を立てないように視線を逸らしている夏喜だが、耳はしっかりと麗蘭の方を向いていた。ジューダスも夏喜の性格を知っているため肩をすくめる。

「はい。はい。すぐに向かいます。申し訳ございません。はい。では失礼します」
「大丈夫? かなり下からだったわね」
「はい。お恥ずかしいながら、わたくしは一度ここで失礼します。娘のことで呼ばれてしまいまして」
「今の様子だと、何かやらかした感じね。警察から?」
「はい。夏喜様はお察しが良いようですね。はい。補導されてしまいました」
「それで引き取りに行くってわけね。・・・・・・そうだ。麗蘭さん、ちょっとお耳貸して」
「はあ・・・・・・」

 麗蘭に耳打ちし、なにかの交渉をしてる。面倒なことに首を突っ込もうとしているな、と察するジューダスは4杯目を飲み干していた。



_go to "Lily Of The Valley".
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