エンド・オブ・フォーマルハウト

まきえ

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<CHAPTER 03/一難去って/WORKING>

<Paragraph 14/ナンクルナイサ/Qué Será, Será>

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「――これから帰るよ。ああ、長らく宗次郎を預けて悪かったね、藍那」

『大丈夫よ~。宗ちゃん、すっごくいい子で、アーちゃんとも仲良しちゃんだから私もたのしいわ』

「あの子、わたしにも懐いてほしいけどな・・・・・・まあそこは気長に待つか。それじゃあ、また後で」

『は~い。ナッちゃん、気をつけてね~』

 携帯電話を切り、ポケットにしまう。レンタカーを業者に引き渡した夏喜とジューダスが那覇空港のエントランスへと入っていった。

 八重岳やえだけ通信基地前の広場での顛末は、鈴蘭に憑いていた"影"――善蘭を定着化することとした。

 触媒に使った鈴蘭のへその緒は"母体"との接続を意味し、魂の共有化・同一化として残すこととした。鈴蘭と善蘭、両者が双子であることが功を奏した結果であり、霊的なものを呼び込みやすい鈴蘭の体質もあることから、善蘭を守護核にすることで元の鞘になった。

 今まで善蘭の存在を知覚できていなかった鈴蘭ではあるが、結界内で氾濫した影に飲み込まれたことでわずかだが霊感に耐性ができたのか、今では自身につながっている善蘭の存在を認識している様子である。

「いやぁ、疲れたね今回。全身バッキバキだし、打撲だらけだよ」

 影に振り回された夏喜の身体には無数の打撲痕が残っていた。全身に巻いた包帯に治癒促進の術式を組み込むことで、無理のない治療を行っている。

「けど助かったよ、ジューダス。やっぱり悪魔祓いは君の管轄だ」
「お前、・・・・・・他に言うことがあるんじゃないのか」
「おや? 何のことかな?」
「とぼけるな。、――お前は確かに

 ジューダスの言う――善蘭の影が夏喜を挟み撃ちにした時、直撃の瞬間に夏喜の姿が消え、瞬きの間に背後を取っていた。あの行動自体、ジューダスにとって不可解なものだった。

 なぜなら、ジューダスが使用できる瞬間転移とはかけ離れた術式だったためである。

 彼の瞬間転移は、いうなれば光の如く高速移動で説明がつく。無詠唱の場合は移動しようとする先に魔力によるほころびが出る。詠唱込みの場合、そのロスが極限までなくなることで、擬似的な転移が可能となる。

 だが、夏喜が使用したものは、そのどちらでもない。少なくとも、ジューダスからはそう見えていた。コンマ1秒に満たない時間だが、確実に夏喜は世界から消失していた。

「そうだったかしら。転移は転移さ。あれだけギリギリを攻めたんだ、少しくらい消えることもあるんじゃない?」
「馬鹿言うな。それこそ異常事態だ。お前、何か隠しているだろう。そうだと言え」
「な、なによ。珍しく食い下がるじゃない。解決したんだからいいじゃない別に」
「お前、人の心配をそれで片付けるな。少なくとも、その後の動きが鈍った件もだ。あれでは、命がいくつあっても足りんぞ」
「あー。発作ね。あれ困るよね。あれはまじ焦った」

 適当に話す夏喜に半ば呆れているジューダスの前に、見覚えのある人影が2つ現れた。

「お待ちしておりました、夏喜様、ジューダス様。今回の件、本当にありがとうございます」

 出会ったときと同じような琉装を召した麗蘭と、カジュアルな服装を着た鈴蘭が空港まで見送りに来ていた。鈴蘭の後ろには、赤子のような形をした善蘭の姿も見える。

「悪いね、わざわざ送別に来てくれたのか」
「はい。依頼料の件もありますので」
「ママ、直球すぎ・・・・・・」
「ははは。けど、麗蘭。君はあの時、鈴蘭を守るために動いた。本来ノロの立場としては静観を決め込んでいたのにだ。やっぱり、仕来りよりも"家族"を選んだんだね」

 ユタの聖地からの影響も受けた善蘭の件に干渉しないようとしていただけに、あの時の行動は夏喜も驚いていた。けど、後にその意味も知ることになる。

「君は、まだを遂げていなかったんだね。イザイホーは12年に一度、30歳以上の女性が行う。そして、次のイザイホーは再来年だ。なら、君はまだ正式にはノロではないはず」

 夏喜の指摘通り、麗蘭はノロとして正式に襲名するために必要な儀式イザイホーを経験していない。だからこそ、彼女の行動自体を咎める理由がない。形はどうであれ彼女の選択は、今回の問題においていい方向に進んだと夏喜は捉えていた。

「事情も形式も、母と子の繋がりの前では穴だらけさ。すべてを投げ捨ててでも、その関係だけは壊しちゃいけない。わたしの友達にもそういう家族がいるよ。だから、君たちに出会えてよかった」

 親子の形は人それぞれであり、それでもそれを維持しようとする気概は重要である。

 子のためにすべてを捨てる親がいれば、子のためでも仕来りに縋ろうとする親もいる。

 その中で見つけた親子の姿に、夏喜は自分に足りないものはなんだろうと考えていた。

「報酬の件は仲介者に通しておいてくれ。なあに、雑費はこっちで処理するよ。なんせ、わたしにはいくらでも出してくれるパトロンがいるからね」

 じゃあねと、手を上げて出発保安検査場へと歩みを進めた。しのぶ別れもさっぱりと、見送りに来た2人があっけを取られる。

「夏喜様、少々お待ちを。ことづけがございます」

 麗蘭の呼びかけに歩みを止めて振り返った。

「夏喜様、状況判断は不明ではございますが、『棺桶』にはご注意ください」
「『棺桶』?」
「うちも、ママと同じ夢を見た。燃える『棺桶』に気をつけて」
「日本は火葬の国だし、棺桶は燃えるものでは?」
「はい。ですが、『棺桶』は凶夢と出ました。ですので夏喜様、どうか『棺桶』にはご注意くださいませ」



 麗蘭と鈴蘭からの内容が不明な忠告を受けて別れ、沖縄の地を離れる飛行機へと乗り込んだ。空へと上がっていく金属の船から見る風景は、清々しいほど晴れていた。



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