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仕事が終わった時には夜の10時を少し回っていた。パソコンを閉じて会社を後にする。
帰り道にコンビニで軽く夜ご飯を購入し、ビニール袋を持って帰路に着く。
十字路を曲がった所で花澤里穂は足を止めた。
自分の住むマンションの下でスーツ姿の男女が立っていた。服装からすぐに警察だと理解できた。
ー落ち着いて。大丈夫。
心の中で自分を落ち着かせて何事も無かったように再び歩き出す。
数メートル進んだ所で花澤は呼び止められた。
「花澤里穂さんですね?」
スーツ姿の男が胸ポケットから警察手帳を取り出して自分は原彰良だと名乗る。隣の女も同じく前田綾と名乗った。
「加藤洋介さんについて少しお伺いしたい事があるんですが」
「はあ……」
「2ヶ月程前に加藤洋介さんのマンションに来てますよね?」
心臓が跳ねる。あの時は監視カメラに顔が見えないように帽子を被っていた筈。警察がそこまで調べている事に驚きながら、花澤は眉を寄せて怪訝な表情を作る。
「えぇ、行きましたけど……」
「どのような用件で家に?」
「あの時は…同窓会の後に奥様を交えて食事をしようと誘われたので行っただけですけど……それが何か?」
刑事と目が合う。真正面からじっと見つめられ思わず体が固まる。すぐに深呼吸をして悟られないように肩をすくめた。
「失礼ですが、加藤洋介さんとはどういうご関係でしょうか?」
「加藤さんは大学の先輩です。さっきから何です?加藤先輩に何かあったんですか?」
「あ、もしかして、まだニュースご覧になってないんですか?」
「え……?」
何かを言おうとした前田を原が手を出して制止する。二人の刑事はお互い目を合わせてこちらを向いた。
「夜遅くに伺ってしまい申し訳ございませんでした。また日を改めて来ます」
「お仕事帰りでしたね。遅くまでご苦労さまでした」
頭を下げて踵を返し二人の刑事は歩いて去って行く。あまりに呆気ない終わり方にぽかんと立ち尽くしてしまった。
はっとして携帯を取り出し加藤麻耶に電話を掛けた。少し待って電話口から力のない声が聞こえてきた。
「あ、麻耶さん。里穂です。夜遅くにごめんなさい」
「あぁ、里穂さん。どうしたの?」
先ほど警察官が加藤について尋ねて来た事を伝えた。麻耶はしばらく黙っていたが次に聞こえてきたのはすすり泣く声だった。
待っている間、心の何処かで何時かの朝に見たニュースが微かに嘘であって欲しいと願っている自分が居たが、麻耶のすすり泣く声で全て確信に変わってしまった。
「一昨日の夜、仕事から帰って来たら……あの人ベッドの上で死んでたのよ」
「え……?」
それからどうやって家に戻って来たのか良く覚えていない。いつの間にか通話も終わっているようだった。
せっかく買ったコンビニのご飯も食べる気が湧かなくなった。
ソファーに鞄を放り投げて力なく座る。
頭の中でぐるぐるとあの時の記憶が思い起こされた。
ーそれがあんたの願い?叶えてあげるよ
「あの時の……あの人が言ってた事って、冗談かと思ってた……」
あの時、雨に打たれるのもどうでも良くなってアテもなく歩いていた時。傘を差し出してくれた人に案内され、入った喫茶店。
雨宿りしながら話した内容にその人は嫌な顔せず最後まで聞いてくれた。それが嬉しくで泣きながら言ってしまった。
言ってはいけない事をー
「あんな奴……死んでしまえばいいのに」
捨て台詞のように吐き出してしまった。だがカウンターの向こうに立つ人はにこりと微笑んで、静かにコーヒーを里穂の目の前に置いた。
「その願い、叶いますよ」
・
帰り道にコンビニで軽く夜ご飯を購入し、ビニール袋を持って帰路に着く。
十字路を曲がった所で花澤里穂は足を止めた。
自分の住むマンションの下でスーツ姿の男女が立っていた。服装からすぐに警察だと理解できた。
ー落ち着いて。大丈夫。
心の中で自分を落ち着かせて何事も無かったように再び歩き出す。
数メートル進んだ所で花澤は呼び止められた。
「花澤里穂さんですね?」
スーツ姿の男が胸ポケットから警察手帳を取り出して自分は原彰良だと名乗る。隣の女も同じく前田綾と名乗った。
「加藤洋介さんについて少しお伺いしたい事があるんですが」
「はあ……」
「2ヶ月程前に加藤洋介さんのマンションに来てますよね?」
心臓が跳ねる。あの時は監視カメラに顔が見えないように帽子を被っていた筈。警察がそこまで調べている事に驚きながら、花澤は眉を寄せて怪訝な表情を作る。
「えぇ、行きましたけど……」
「どのような用件で家に?」
「あの時は…同窓会の後に奥様を交えて食事をしようと誘われたので行っただけですけど……それが何か?」
刑事と目が合う。真正面からじっと見つめられ思わず体が固まる。すぐに深呼吸をして悟られないように肩をすくめた。
「失礼ですが、加藤洋介さんとはどういうご関係でしょうか?」
「加藤さんは大学の先輩です。さっきから何です?加藤先輩に何かあったんですか?」
「あ、もしかして、まだニュースご覧になってないんですか?」
「え……?」
何かを言おうとした前田を原が手を出して制止する。二人の刑事はお互い目を合わせてこちらを向いた。
「夜遅くに伺ってしまい申し訳ございませんでした。また日を改めて来ます」
「お仕事帰りでしたね。遅くまでご苦労さまでした」
頭を下げて踵を返し二人の刑事は歩いて去って行く。あまりに呆気ない終わり方にぽかんと立ち尽くしてしまった。
はっとして携帯を取り出し加藤麻耶に電話を掛けた。少し待って電話口から力のない声が聞こえてきた。
「あ、麻耶さん。里穂です。夜遅くにごめんなさい」
「あぁ、里穂さん。どうしたの?」
先ほど警察官が加藤について尋ねて来た事を伝えた。麻耶はしばらく黙っていたが次に聞こえてきたのはすすり泣く声だった。
待っている間、心の何処かで何時かの朝に見たニュースが微かに嘘であって欲しいと願っている自分が居たが、麻耶のすすり泣く声で全て確信に変わってしまった。
「一昨日の夜、仕事から帰って来たら……あの人ベッドの上で死んでたのよ」
「え……?」
それからどうやって家に戻って来たのか良く覚えていない。いつの間にか通話も終わっているようだった。
せっかく買ったコンビニのご飯も食べる気が湧かなくなった。
ソファーに鞄を放り投げて力なく座る。
頭の中でぐるぐるとあの時の記憶が思い起こされた。
ーそれがあんたの願い?叶えてあげるよ
「あの時の……あの人が言ってた事って、冗談かと思ってた……」
あの時、雨に打たれるのもどうでも良くなってアテもなく歩いていた時。傘を差し出してくれた人に案内され、入った喫茶店。
雨宿りしながら話した内容にその人は嫌な顔せず最後まで聞いてくれた。それが嬉しくで泣きながら言ってしまった。
言ってはいけない事をー
「あんな奴……死んでしまえばいいのに」
捨て台詞のように吐き出してしまった。だがカウンターの向こうに立つ人はにこりと微笑んで、静かにコーヒーを里穂の目の前に置いた。
「その願い、叶いますよ」
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