【誰も知らない拳で、世界をひっくり返す――最底辺高校生、無双ランクアップ物語】

あめかわ しげる

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第1章「目覚めの喧嘩」

第1話「RANK-BATTLE、発動」

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春。
濁った東京の空。
遠くでサイレンが鳴る。
それは、日常の一部みたいに蓮の耳を通り過ぎた。

 

神崎蓮――。
この街に溶け込んだ、どこにでもいる平凡な高校二年生。
運動神経も、頭脳も、顔も、特別な何かはない。
クラスの中でも、誰にも注目されることなく、
静かに座っているだけの存在だった。

 

今日も、
何事もない平和な一日が、
終わるはずだった。

 

だが――。

 

昼休み。
教室中に、奇妙な通知音が響き渡った。

 

「ピコン」
「ピコン」

 

次々と鳴るスマホの音に、
教室内がざわめく。

 

蓮も、
ポケットからスマホを取り出した。

 

画面に、
奇妙な文字列が表示されていた。

 

【RANK-BATTLE 公式通知】
【あなたのレート:未登録】
【第一回全国ランキング戦、発動】

 

「……は?」

 

蓮は、思わず声を漏らした。

 

周囲を見渡すと、
皆、スマホを凝視している。
顔を上げた友人の一人が、
興奮したように叫んだ。

 

「マジかよ……!! ついに始まった!!」

 

「全国レートバトル、本当に来たんだ!!」

 

「これ……テレビで言ってたやつか? あの、高校生限定の……喧嘩ランキング!?」

 

喧嘩――
だが、それはもはや不良だけのものではなかった。

 

【個人戦】
【素手限定】
【エントリー&承認制】
【勝敗に応じてレート増減】
【全国・都道府県・校内ランキング更新】
【連勝ボーナスあり】
【三回バトル拒否で降格ペナルティ】

 

細かいルールが並ぶ中、
一文が、蓮の脳に焼き付いた。

 

【レート戦での成績に応じて、スポンサー契約、メディア露出、特別待遇あり】

 

「……スポーツみたいな扱いかよ」

 

誰かが笑った。

 

確かに、
喧嘩バトルは、
いまや半ば”新スポーツ”として持ち上げられつつあった。

 

「勝ち上がれば、金も名誉も得られる」
「負ければ……まあ、普通に惨めだな」

 

興奮と、不安が入り混じる空気。

 

蓮は、
そっとスマホを伏せた。

 

(関係ない。俺には関係ない)

 

強いやつだけの話だ。
選ばれたやつらだけの。

 

自分は違う。
そう思っていた。

 

だけど――。

 

運命は、
容赦なく蓮を引きずり込んだ。

 

 

***

 

放課後。

 

帰ろうとした蓮の前に、
数人の男たちが立ちはだかった。

 

同じ高校の、
見覚えのない連中。

 

「おい、お前もレート登録されたんだろ?」

 

そのリーダー格がニヤニヤ笑いながら近づく。

 

「お試しだ。ちょっと手合わせしようぜ」

 

蓮は、
無意識に後退った。

 

「……俺、バトルする気ないんだけど」

 

「は? 拒否すんの? 三回拒否で降格だぞ? 最底辺からスタートってわけだ」

 

周囲で、
笑い声が弾けた。

 

「まあ、どうせ最初から最底辺だろうけどな」
「一撃で終わるぜ、こんな雑魚」

 

冷たい汗が背中を伝う。

 

(やめろ……やりたくない……)

 

拳を握る。
だが、
震えていた。

 

男たちが、
にじり寄る。

 

空気が、
重くなる。

 

踏み込んできた。

 

「っ――!!」

 

無意識に、
蓮の拳が、
男の顔面を捉えた。

 

肉が潰れる音。
骨が軋む感触。

 

男の身体が、
横っ飛びに吹き飛んだ。

 

教室裏のコンクリートに、
重い音を立てて叩きつけられる。

 

「っ……あ、あぁ!?」

 

周囲が、
凍りついた。

 

蓮自身も、
自分の拳を見つめた。

 

(……なに、これ)

 

震えていたのは、
恐怖じゃなかった。

 

“熱”だった。

 

腕の奥、
身体の中心から、
何かが、
熱く、激しく、
暴れ出していた。

 

「テ、テメエェ!!」

 

別の男が突っ込んできた。

 

蓮は、
無意識に身体をひねった。

 

拳が、
腹部にめり込む。

 

呼吸を奪われた男が、
泡を吹いて崩れ落ちた。

 

(俺は……)

 

初めて気づいた。

 

自分の中に、
ずっと眠っていたもの。

 

拳一つで、
世界を壊せる力。

 

「――ははっ」

 

蓮は、
笑っていた。

 

自分でも知らなかった顔で。

 

誰も知らなかった。
神崎蓮の拳を。

 

そして、
これが、
世界をひっくり返す最初の一撃だった。
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