【誰も知らない拳で、世界をひっくり返す――最底辺高校生、無双ランクアップ物語】

あめかわ しげる

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第1章「目覚めの喧嘩」

第10話「赤城蒼真との最終決戦」

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夕方、校舎の裏――
神崎蓮は、ひとり静かな空気の中で立ち尽くしていた。

 

ただひとつ、
自分の拳を見つめる。
ぎゅっと握りしめて。

 

その拳の中に、
どれだけの想いが込められているのか。

 

(――明日、決着をつける)

 

どこかで響く騒がしい足音。
誰かが近づいてきた。

 

「蓮、いたのか」

 

その声に、
蓮は一度だけ振り向く。

 

「詩音……」

 

詩音は、
ゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「明日、赤城と戦うんでしょ?」

 

「……ああ」

 

蓮は、短く答える。

 

「赤城蒼真。あいつと戦うって、
 最初は怖かった。でも――」

 

「でも?」

 

詩音は、
静かに蓮を見つめていた。

 

「でも、今は怖くない」

 

「怖くない?」

 

詩音が驚いた顔をする。
その顔に、蓮はふっと笑みを浮かべた。

 

「怖いけど、怖くないんだ」

 

その言葉が、
詩音の胸に刺さったのか、
一瞬、彼女は黙り込んだ。

 

「――蓮、絶対に負けないでね」

 

詩音の目が、
ほんの少しだけ潤んでいた。

 

「……勝つよ」

 

蓮は、
その目をしっかりと見つめ返した。

 

「俺が戦うのは、赤城蒼真。
 誰のためでもない。ただ、自分のために」

 

詩音は、
少しだけ安心したように頷く。

 

「そう……なら、
 ちゃんと、帰ってきてね」

 

その言葉に、
蓮は黙って頷く。

 

「必ず」

 

その時、
遠くから歓声が上がった。

 

何かが、
どこかで騒がしく動き始めている。

 

「お前、何か知ってるのか?」

 

「……知らないけど」
詩音は、少しだけ身構えた。

 

「ただ、気をつけて」

 

「気をつける?」

 

詩音が、再び蓮をじっと見た。

 

「勝つためには、何でもする奴がいる。
 でも、その先には、もう二度と戻れない何かがある」

 

「……それは、俺の問題だ」

 

蓮は、静かに答えた。

 

「俺が選んだ道だ。それでも進む」

 

その言葉に、
詩音はもう何も言わなかった。
ただ、
少しだけ背中を押すように、
蓮に微笑んだ。



その後、
蓮は一人、再び校舎裏に戻った。

 

月明かりが、
何もない校舎を淡く照らしている。

 

赤城蒼真との戦い。

 

勝てば、
全てが変わる。
負ければ――

 

その時、
後ろから足音が近づいてきた。

 

「――おい」

 

振り向くと、
そこに立っていたのは、
あの、最強の男――赤城蒼真だった。

 

「お前、明日俺と戦うんだろ?」

 

赤城は、
冷徹な目をしていた。
だが、その目の奥に、
ほんのわずかな興味を浮かべているのが見えた。

 

「お前の強さ、見させてもらった」

 

「……見ただろ」

 

「でも、俺には、まだ足りない」

 

赤城の声が低く響いた。
その声には、
挑戦と冷徹な誓いが込められていた。

 

「お前の弱さが、俺にとっては一番の敵だ」

 

その言葉に、
蓮は拳を強く握りしめた。

 

「――明日、決着をつけよう」

 

赤城は、静かに言った。

 

その瞬間、
蓮の心の中で何かが弾けた。

 

(俺は、負けない)

 

その強い意志を、
心の奥底に刻みながら、
蓮は黙って立ち尽くしていた。

校内は異様な静けさを帯びていた。
バトルリーグの最終戦を目前に控え、全校生徒がその行く末を見守る中、
神崎蓮は一人、屋上に立っていた。

 

夜空に浮かぶ月は、
その冷たい光で校舎の屋根を照らしている。

 

蓮は拳をしっかり握りしめ、
その感触に集中していた。

 

(明日――あいつと戦う)

 

赤城蒼真。

 

その名前だけで、
蓮の中で何かが鳴り響く。

 

強さ――

 

それだけではない。

 

冷徹で、計算高い、
その圧倒的な存在感に、
これまで自分が持っていた”強さ”を、
どこかで見下ろされている気がしていた。

 

(でも、俺は絶対に負けない)

 

何があっても、
俺は負けない。

 

その決意を固めたとき、
突然、足音が響いた。

 

「蓮」

 

振り向くと、
そこには玲奈が立っていた。

 

いつもと変わらない表情で、
静かに彼を見つめている。

 

「……玲奈、こんな時間に」

 

「気になって、来た」

 

玲奈の声は、
普段の冷静さを保っているが、
その奥にある”何か”を、蓮は感じ取った。

 

「……明日、赤城と戦うんだろ?」

 

「……ああ」

 

「勝つ自信はあるの?」

 

その質問に、
蓮は少しだけ考え込んだ。

 

「正直、分からない」

 

「でも、俺は俺の力を信じる。
 それだけだ」

 

玲奈は、
じっと蓮を見つめた。

 

その目には、
どこか、
遠くを見つめるような不安があった。

 

「……無理しないで。
 あなたには大切なものがあるから」

 

その言葉に、
蓮は少し驚いた。

 

「大切なもの……?」

 

玲奈は、
しばらく黙っていたが、
ゆっくりと口を開いた。

 

「あなたの強さは、
 戦うことで証明するものじゃない」

 

その言葉に、
蓮は心の中で何かが動いた。

 

「でも、戦わなきゃ、
 俺の強さは何も意味を成さない」

 

「だから、
 私は言いたいの」

 

玲奈は、
その表情を少しだけ柔らかくして、
低い声で続けた。

 

「自分を大切にして」

 

その言葉に、
蓮は胸が痛くなるのを感じた。

 

自分を大切に――
その言葉は、
戦いの中で忘れかけていた”何か”を思い出させてくれるようだった。

 

(俺は、何のために戦うんだ?)

 

その問いが、
頭の中に浮かんだ。

 

「玲奈……」

 

「蓮」

 

ふと、
玲奈が一歩近づいてきた。

 

その距離は、
無意識に縮まっていった。

 

「……俺、負けたくない」

 

「うん、分かってる。でも――」

 

玲奈は、
目を閉じて、
ゆっくりと息を吐いた。

 

「私はあなたを信じてる。
 だから、
 あなたがどんなに強くても、
 心の中だけは忘れないで」

 

その言葉に、
蓮は言葉を失った。

 

ふと、
玲奈の手が、
蓮の手に触れた。

 

その瞬間、
蓮の胸は、
強く打ち鳴った。

 

「――気をつけてね、
 蓮」

 

その小さな声に、
蓮は力強く頷いた。

 

「ありがとう」

 

それだけを言い、
玲奈は、静かにその場を後にした。

 

その背中を見送った後、
蓮は再び拳を握りしめた。

 

(絶対に、勝つ)

 

その覚悟を胸に、
蓮は屋上を後にした。
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