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当然というべきか、ルイは有り余る魅力で領民からも人気だ。彼が愛嬌たっぷりの若い子や物怖じしないオメガの子と話しているのを見かけると、ちくちくと嫉妬心が煽られてしまう。
(僕はどうしちゃったんだろう? すでに夫なのにさ!)
経験したことのない心の揺らぎに、シェリールは振り回されっぱなしだ。ルイの変化や挙動不審なシェリールを、使用人たちがどう思っているのかは不明である。
なんだか生温かい目で見られている気がするのは、気のせいだよね?
「シェリール、疲れていないか? あともう少しだ」
ぼんやりとしているうちにだいぶ進んだらしい。
森の奥深く、蹄の音が吸い込まれるような苔むした小道を抜けると、突如として視界が開ける。目の前には、崖を這うようにして静かに流れ落ちる細い滝があった。
月光の細滝という名のとおり真っ白な水流が、昼間でも月明かりが差し込んでいるかのように白く輝いて見える。滝壺は透き通るような青さを湛え、舞い上がる細かい飛沫が木漏れ日に反射して宝石のように輝いている。
「すごい……綺麗……!」
「本当だな。日によっては地元の人で混雑すると聞いてたんだが、今日は誰もいないみたいだ。よかった……」
シェリールはルイに続いて馬から降り、ゴツゴツとした岩場に立つ。水の音は激しい轟音ではなく、まるで無数の鈴を振るような穏やかな調べだった。
季節は夏の盛りを迎えている。喉の渇きを覚えていたシェリールは、その場で屈み込んで手を水に浸した。キンと冷たい水が気持ちいい。そのまま両手で掬い、口元に運んだ。
「ん~っ……美味しい~!」
「……おい、確かカップが馬荷に……って早速言わんこっちゃないな!」
「え?」
ルイの視線を辿って自分の胸元を見ると、水が跳ねてシャツが濡れてしまっていた。慣れないことをしたせいだけど、気にするほどでもないと思う。
でも少しはしたなかったかもしれない。想像以上に素敵な場所だったから、我ながら気分が高揚してしまっているのを実感する。
カップを取りに行くと言ったルイは、シェリールに「ほら」と手を差し出した。ひとりで岩場を歩くと転ぶとでも思っているのだろうか?
信用がないなぁと思いつつ、差し出された手を無視する選択肢はない。
結局手を握られたまま馬を繋いだ場所へ戻って、柔らかな芝生の上に敷き布を乗せた上にシェリールは座らされる。
座ってみて初めて、足腰がとても疲れていることに気づいた。久しぶりに長時間乗馬したからだろう。ルイってよく人のこと見てるなぁ。
シェリールの馬の鞍につけられている布袋は、出発する前にベリエが用意してくれたものだ。慣れた様子でルイが中身を取り出している。敷き布や木製のカップ、それに軽食もあるらしかった。
素晴らしい景色、頼りになる格好いい夫、美味しい水と空気。ああ、なんて贅沢なピクニックだ!
ルイが水を汲んで持ってきてくれて、シェリールは存分に喉を潤した。
食べて飲んでしばらく休むと、今度はうずうずしてくる。ここは涼しいけれど汗もかいたし、目の前には天然のプールがある。
「ねぇ、ルイ! 泳いできてもいい?」
「……泳げるのか?」
「見たことはあるけどやったことない!」
「やめとけ」
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