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元・貧乏貴族は旦那さまを誘いたい!
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ふんふん、ふ~ん
麗らかな日差しが降り注ぐなか、おれは鼻歌を歌いながらバルコニーで裁縫をしていた。生家を出てここに来てから、土に塗れるような仕事はない。
白い肌はもともと日光に弱く外でも長袖を着るほどだったけど、さすがにずっと家にこもっているとたまには外に出て太陽の光を浴びたくなる。
しばらくすると気を遣った侍女たちが日除けを用意してくれたが、それでも手元は明るかった。ちくちくと慎重に縫い目をつけていく。
「ジューノ、なにしてるんだ?」
「マウォルス様!もうすぐ、リベルの誕生日でしょう?だから、洋服を作って贈ろうと思って。姉上には及ばないけど、こう見えて裁縫は得意なんです」
リベルというのはミナーヴァ姉上の娘で、おれの姪っ子だ。部屋の方から現れたマウォルス様を座ったまま見上げて「ふふん」と胸を張ると、眩しそうに目を細められる。マウォルス様もさいきんはこの優しい顔が板についてきた。プラチナブロンドの髪が光に透けて、精悍な顔立ちを彩っている。
(……いいお父さんになりそう)
心のなかで呟く。
結婚してから避妊薬は飲まず、何度かいっしょに発情期を過ごしたけれど、いまだに愛し子の訪れはなかった。この国では愛する夫婦のもとに神が愛し子を授けるという言い習わしだ。……愛し合ってるのになぁ。
でも、マウォルス様の父親だったアヴェンティーノ伯爵のところにも不仲ながら訪れたんだから、神がちゃんと選別しているのかは怪しい。
おれの身体がおかしいのだろうか。一時期飲んでいた避妊薬はちゃんとしたものを入手してくれていたし、もう影響は残ってないはずだけど……
そういえばマウォルス様の父親は、おれを無理やり発情させ番にしようとした事件のあと警吏に引き渡され、その後忽然と姿を消した。逃亡かと捜索されていたのだが、数日後に遺体となって発見されたらしい。犯人はわかっていない。
恨みを買いすぎたんだ、とマウォルス様は悲しそうな顔をしていた。
アヴェンティーノ伯爵邸にはオメガの被害者はひとりも残っていなかった。そして私室の奥には、かつて亡くなった奥方の絵が大事にしまわれていたそうだ。彼が何を考えていたのか、知る者はいない。
……とまぁそんなことがあって、マウォルス様が伯爵として家督を継ぐことになった。唯一の息子なんだから、当然といえば当然だ。
だけど成人後すぐに家を出て騎士として身を立てていたマウォルス様は、すでに騎士団内でも重要な人物となってしまっていた。副団長がいなくなっては困る、という多くの嘆願があり、特例で騎士を続けることになったのだ。
伯爵領は遠縁の親戚に管理してもらっている。いずれはマウォルス様と一緒に領地の方へ移り住まないといけないかもしれないが、先の話だ。
つまりいま暮らしているこの屋敷はアヴェンティーノ伯爵家の王都邸、という扱いとなっている。マウォルス様は騎士の仕事のかたわら、領地と手紙のやりとりをしたり使者の相手をしたりと忙しそうだが、おれの暮らしはほとんど変わっていない。
いちおう伯爵夫人だから礼儀作法を習ったりもしているが、腐っても貴族。ある程度は身についているからそれほど大変でもない。しかもオメガである番を外に出す貴族はほとんどいないらしく、マウォルス様も基本的にはおれにも家にいてほしいそうだ。
……おれになにも言わずにここへ連れてきて軟禁したくらいだもんなー。それが苦じゃないどころか、理想の生活と思えた自分はかなり楽天的かも。
「すまないが、領地から至急確認が必要な仕事が入ってしまった。午後の外出はまた今度でもいいか?」
「はい!お仕事がんばってくださいね」
またかぁ。
マウォルス様の久しぶりの休日は、一緒に王都の街を歩いてくれるという約束だった。おれ一人で行かせるという選択肢はないらしい。そりゃおれだって、マウォルス様と一緒のほうがぜったい良い。
しかし近ごろは、予定を決めても当日に仕事が入ってしまって中止になることが多いのだ。マウォルス様はおれから見れば体力おばけだけど、睡眠時間も短くなるとさすがに心配だ。
結婚してから寝室は一緒だけれど、一緒に眠りにつくことは最近ほとんどない。だからちょっと……ご無沙汰なのも寂しい。
発情期はちゃんと付き合ってくれるものの、あのときは記憶が曖昧になるからなぁ。前後不覚になってかなり恥ずかしいことを言って……している自覚はあるから、それはそれでいいのかも。
もう少し時間に余裕のあったときは、おれが起きているときにマウォルス様が寝室にやってきて、発情期じゃなくても肌を重ねることはときどきあった。
おれもマウォルス様も健康な男子だ。三ヶ月に一度ほどの発情期だけじゃ……全然足りない。ましてや想いが通じ合ってからは、マウォルス様の碧い瞳に見つめられるだけでドキドキして、どうしようもなく抱かれたくなってしまうのだ。
普通の夫婦がどうなのかわからない。もしかして、おれって淫乱なの?
ちょっと不安になってきて、ミナーヴァ姉上とやりとりしている手紙に書いて相談した。姉上はおれの親代わりでもあり、先生でもある。そろそろ返事が来るころだ。
麗らかな日差しが降り注ぐなか、おれは鼻歌を歌いながらバルコニーで裁縫をしていた。生家を出てここに来てから、土に塗れるような仕事はない。
白い肌はもともと日光に弱く外でも長袖を着るほどだったけど、さすがにずっと家にこもっているとたまには外に出て太陽の光を浴びたくなる。
しばらくすると気を遣った侍女たちが日除けを用意してくれたが、それでも手元は明るかった。ちくちくと慎重に縫い目をつけていく。
「ジューノ、なにしてるんだ?」
「マウォルス様!もうすぐ、リベルの誕生日でしょう?だから、洋服を作って贈ろうと思って。姉上には及ばないけど、こう見えて裁縫は得意なんです」
リベルというのはミナーヴァ姉上の娘で、おれの姪っ子だ。部屋の方から現れたマウォルス様を座ったまま見上げて「ふふん」と胸を張ると、眩しそうに目を細められる。マウォルス様もさいきんはこの優しい顔が板についてきた。プラチナブロンドの髪が光に透けて、精悍な顔立ちを彩っている。
(……いいお父さんになりそう)
心のなかで呟く。
結婚してから避妊薬は飲まず、何度かいっしょに発情期を過ごしたけれど、いまだに愛し子の訪れはなかった。この国では愛する夫婦のもとに神が愛し子を授けるという言い習わしだ。……愛し合ってるのになぁ。
でも、マウォルス様の父親だったアヴェンティーノ伯爵のところにも不仲ながら訪れたんだから、神がちゃんと選別しているのかは怪しい。
おれの身体がおかしいのだろうか。一時期飲んでいた避妊薬はちゃんとしたものを入手してくれていたし、もう影響は残ってないはずだけど……
そういえばマウォルス様の父親は、おれを無理やり発情させ番にしようとした事件のあと警吏に引き渡され、その後忽然と姿を消した。逃亡かと捜索されていたのだが、数日後に遺体となって発見されたらしい。犯人はわかっていない。
恨みを買いすぎたんだ、とマウォルス様は悲しそうな顔をしていた。
アヴェンティーノ伯爵邸にはオメガの被害者はひとりも残っていなかった。そして私室の奥には、かつて亡くなった奥方の絵が大事にしまわれていたそうだ。彼が何を考えていたのか、知る者はいない。
……とまぁそんなことがあって、マウォルス様が伯爵として家督を継ぐことになった。唯一の息子なんだから、当然といえば当然だ。
だけど成人後すぐに家を出て騎士として身を立てていたマウォルス様は、すでに騎士団内でも重要な人物となってしまっていた。副団長がいなくなっては困る、という多くの嘆願があり、特例で騎士を続けることになったのだ。
伯爵領は遠縁の親戚に管理してもらっている。いずれはマウォルス様と一緒に領地の方へ移り住まないといけないかもしれないが、先の話だ。
つまりいま暮らしているこの屋敷はアヴェンティーノ伯爵家の王都邸、という扱いとなっている。マウォルス様は騎士の仕事のかたわら、領地と手紙のやりとりをしたり使者の相手をしたりと忙しそうだが、おれの暮らしはほとんど変わっていない。
いちおう伯爵夫人だから礼儀作法を習ったりもしているが、腐っても貴族。ある程度は身についているからそれほど大変でもない。しかもオメガである番を外に出す貴族はほとんどいないらしく、マウォルス様も基本的にはおれにも家にいてほしいそうだ。
……おれになにも言わずにここへ連れてきて軟禁したくらいだもんなー。それが苦じゃないどころか、理想の生活と思えた自分はかなり楽天的かも。
「すまないが、領地から至急確認が必要な仕事が入ってしまった。午後の外出はまた今度でもいいか?」
「はい!お仕事がんばってくださいね」
またかぁ。
マウォルス様の久しぶりの休日は、一緒に王都の街を歩いてくれるという約束だった。おれ一人で行かせるという選択肢はないらしい。そりゃおれだって、マウォルス様と一緒のほうがぜったい良い。
しかし近ごろは、予定を決めても当日に仕事が入ってしまって中止になることが多いのだ。マウォルス様はおれから見れば体力おばけだけど、睡眠時間も短くなるとさすがに心配だ。
結婚してから寝室は一緒だけれど、一緒に眠りにつくことは最近ほとんどない。だからちょっと……ご無沙汰なのも寂しい。
発情期はちゃんと付き合ってくれるものの、あのときは記憶が曖昧になるからなぁ。前後不覚になってかなり恥ずかしいことを言って……している自覚はあるから、それはそれでいいのかも。
もう少し時間に余裕のあったときは、おれが起きているときにマウォルス様が寝室にやってきて、発情期じゃなくても肌を重ねることはときどきあった。
おれもマウォルス様も健康な男子だ。三ヶ月に一度ほどの発情期だけじゃ……全然足りない。ましてや想いが通じ合ってからは、マウォルス様の碧い瞳に見つめられるだけでドキドキして、どうしようもなく抱かれたくなってしまうのだ。
普通の夫婦がどうなのかわからない。もしかして、おれって淫乱なの?
ちょっと不安になってきて、ミナーヴァ姉上とやりとりしている手紙に書いて相談した。姉上はおれの親代わりでもあり、先生でもある。そろそろ返事が来るころだ。
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