惚れ薬をもらったけど使う相手がいない

おもちDX

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1.いけすかない騎士

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 あのいけすかない騎士に惚れ薬なんて、使ったとしても使われたとしても……想像しただけで気持ち悪い。

「はぁ……」

 シュエが薔薇色の唇を小さく開いてため息を吐くと、通りがかった男がひとり、振り返ってちらと見てくる。そんな反応はもう慣れきっていて、シュエは気にしていなかった。
 艷やかな髪と同じチョコレート色をした長い睫毛を伏せ、手のひらにちょこんと乗った薬包紙を見つめている。

 薄い紙に包まれているのは、桃色の粉薬だ。施療院で薬を取り扱っているシュエはこんな色の薬を見たことがないし、貴族が夜のお供に使う媚薬だと言われたほうがよっぽど信じられるのだけれど。

「惚れ薬って、言われてもねぇ。信じる人いないでしょ」

 シュエにこれをくれた人は、何とも怪しい自称魔女だった。

 王都テュッレーの施療院で働いているシュエが、街外れの家まで薬を届けた帰りのことだ。日の落ちかけた森のそばで白い髪の小柄な老婆が蹲っていたため、慌てて近寄った。

 鬱蒼と木の生い茂った森は『迷いの森』とも言われていて、もしや迷ってしまったのかと思ったのだ。
 しかし近づいてみれば、老婆はのんびり道端の石に腰掛けているだけだと気づき、シュエは踵を返そうとした。その背中にしわがれた声がかかる。

「そこのあんた、惚れ薬はいらないかい?」
「?……いりませーん」

 惚れ薬なんて得体の知れないものを、あげると言われて受け取るほどシュエは素直な性格じゃない。呆けた老人だったか……とすげなく断るも、老婆はしつこかった。

「まぁまぁ、そう言わず。使いやすく改良したから、間違いないよ!」
「間に合ってるんで」

 本当に、シュエは相手に困っていない。たとえ男にしか興味がないとしても、不自由してない。
 まっすぐ長いチョコレート色の髪に、雪のように白い肌。吊り目気味だが美人と言われる容姿を見て、どうして惚れ薬が必要だと思うのだろうか。

 生意気にもそんなことを考えながら声の主を振り返ると、老婆はいつの間にかシュエの真後ろに立っていた。
 驚きにビクッと肩を揺らす。少し離れていたはずなのに……足音、しなくなかった?

 ぽかんとするシュエの手に薬包紙を握らせた老婆は、魔女だと名乗った。

「これは試作品なんだが効果は間違いない。飲んでから、一番初めに声を掛けた相手に魔法がかかる。効果は六時間あるから、うっかり間違えて変な人に話しかけないように。……まぁ、あんたなら大丈夫か」
「だから惚れ薬なんて、必要ないって……」
「恋人はいないんだろう?」
「…………」

 なんで知ってるんだ、という顔をしてしまってから、鎌をかけられただけだと気づく。ふんと笑った老婆にイラッとしながらも、シュエは今度こそ街の中心へ向かって歩き出した。
 こんなの、家に帰ってから捨ててやる。

「捨てたらタダじゃおかないよ! あんたの嫌いなやつに惚れ薬を飲ませて、あんたを惚れさせてやるからね」
「最っ低」

 聞こえないように捨て台詞を吐いたのは、最後に言われた脅し文句がけっこう効いたからだ。
 例えば……あのムカつくグラースに六時間だけでも自分が惚れてしまったりしたら、最悪じゃない?
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