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本編
5.
しおりを挟む――結婚当初、実は一度だけ試したことがある。愛のない結婚でも、お互いに若くて性的なことに興味があったのは否めない。
「初夜……してみるか?」
「……うん」
レーシュは素直に頷いて、ラツィエルに押し倒されるまま身を預けた。ラツィエルは挿れるほうをやりたいと言い、レーシュはそれにも頷いた。ラツィエルのことは嫌いじゃないが、正直勃つとは思えなかったからだ。
しかしまあ、実際の行為は今思い返しても全てがぎこちなく、お互いに手探りだった。
やってみたいという思いと、机上の閨知識のみ。前戯はよく分からないのですっ飛ばして二人は繋がろうとした。
――しかし……
「い、痛い痛い痛い!」
「う……少し我慢できないか?」
「むりっ、死ぬー!」
痛いとは聞いていたけど、裂けそうになることがこんなにも恐ろしいなんて。レーシュは泣きそうな顔でラツィエルを見上げた。
「やめとくか?」
「……うん」
一応ラツィエルの方は勃っていたので、性的な興奮状態にあったと思うのだ。しかし彼は挿入を諦め、素直に引いてくれた。
事後の空気はかなり気まずかったけれど、無理やり最後までしようとしなかったことにレーシュは深く安堵し、彼への信頼度が増した。
それ以来、二人の間で「この形式的な結婚に夫婦の営みは必要ない」というのが暗黙の了解となった。ラツィエルの性欲は外で発散してきてくれていい、とレーシュは本気で思っている。
最後までできていたら、一応は祈りに行ってみたかもしれない。レーシュは胎樹という生命の神秘に興味があった。
周囲は当然レーシュが胎樹に通っていると思っているし、「どんな感じなの?」と聞かれるたび困っていたのも理由の一つだ。
(別れる前にもう一回くらいしてみてもいいかも……)
気を遣ったテットが話題を逸らしてくれたおかげで、レーシュはまた思考の海に沈んでいた。みんなが立ち上がって自席に戻っていくことに気づき、のそのそと自分も机の上を片付ける。
「レーシュ、口元にパンくずついてるよ」
「どこ? 取って」
ミンテの方に顔を近づけて顎をつき出すと、「うわあっ」と声を上げてミンテは後ずさる。不思議な反応にぱちぱちと瞬いていれば、なぜか怒った口調で叱られてしまった。
「自分で取りなよ! 唇の右のほうだから。そう……そこそこ。はぁ、普段どんだけ旦那さんに甘やかされてんの?」
無事にパンくずを見つけたレーシュは、「んん?」と首を傾いだ。こんな風に言われたことは一度や二度ではない。
けどわからない。旦那さんに甘やかされる? 今の行動のどこが??
プラチナの後れ毛がさらりと揺れ一瞬ミンテの目を奪うも、ミンテはぶるぶると頭を振って「怖っ。好みじゃないってのに……」とぶつぶつ言いながら自席に戻っていく。
よく分からないけれど、不用意に他人へ顔を近づけるなとラツィエルにも言われたことがある気もする。それが良くなかったんだろうな、とちょっとだけ反省してレーシュは思考をぱたりと閉じた。
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