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本編
15.
しおりを挟むそれよりも何よりも、男なのに貞操の危機に陥って、下級生に助けられてしまったことが恥ずかしくてたまらなかったのだ。
しかも彼の言い分によると、あの教師には妻子があるらしい。レーシュは自分が遊び相手にされそうだったのだと気づき、地味にショックを受けていた。
もしかして、あちこちからプロポーズされるのも真剣な意味ではなく、愛人にしたいってこと?
レーシュだって真剣に考えることなくお断りしていたけれど、自分が見目のいい愛人程度の人間だと思われているとすれば、すごく品性を貶められたような屈辱を感じる。
もうゴットフリート君にも会わないだろうし。逃げて、なかったことにしよう。
と、思っていたのだが……。その後ここまで危機に陥る事件は起きなかったものの、何度もレーシュは彼に遭遇し、何度もしつこい生徒から救ってもらった。
レーシュだって、顔を覚えれば相手が少し遠くにいても見つけられる。
逆に校内で彼が女子生徒に囲まれているところを発見して「ふーん」と思うだけで通り過ぎたり、告白現場に遭遇してしまい素知らぬふりで逃げてみたり。すれ違う機会は意外に多かった。
その後会ったときになぜか不満げな顔をされたりして、いつの間にか気安く会話するようになっていた。ラツィエルと呼びレーシュと呼ばれ、被っていた猫はすぐどこかへ行ってしまった。
お互い方向性は違えど他人から言い寄られがちなのは理解していたから、同士のような仲間意識が芽生えていたのもある。
そうしてあっという間に卒業の時期が訪れ、レーシュはラツィエルに提案されたのだ。
「結婚しないか? 俺たち」
ラツィエルは女性にちやほやされること自体は嫌いではないようだった。あれだけ身だしなみにきちんと気を配って、学園の制服にもチーフで差し色を入れたりしてクールに着こなそうとする人が、注目を浴びたくないわけがない。
しかし騎士を目指している身で、まだ結婚はしたくないという。一年後ラツィエルも卒業が迫ってくれば、レーシュのように相手が強硬手段に出てくることもあり得ないと言い切れない。
女性相手だとなおさら、責任問題が発生してくるので面倒くさい。伯爵家の次男である彼は、間違っても兄より先に子を作らないようにしたいという。
レーシュも文官として王宮への就職が決まっていたものの、恋愛のいざこざで仕事に影響が出るのは真剣にご勘弁願いたい。学園なら卒業という逃げ道があった。しかし就職先から逃げるのはすなわち無職になるということだ。
考えた先の結論は一つだった。
「賛成。結婚しよう。――費用はそっち持ちで」
「はいはい」
こうして、レーシュは卒業と同時に伴侶持ちとなり、ラツィエルは学生結婚を決めて学園を揺るがしたのである。
一緒に住み始めてから、ラツィエルは何度かレーシュにキレた。口喧嘩もたくさんやったが、結果的にお互い譲歩し合って――ほぼラツィエルが我慢しているだけとも言える――心地好い距離感で十年も一緒にいることができた。
それを「離縁しても問題ない」と思いつきで判断したことは、もしかしたら……早まった考えだったのかもしれない。
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