三十歳になったので離縁を提案したら旦那様の様子がおかしい

おもちDX

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本編

29.色々な愛の形

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「はぁ? 旦那さんが優しすぎるって……おれは、いったい何を聞かせられてるわけ?」

 あれから二日休んで――もう一日休めというラツィエルと押し問答の末――レーシュは職場に復帰した。
 睡眠不足と栄養不足もあったのだろうが、ラツィエルがレーシュの心を軽くしてくれたことがきっかけで元気になったような気もする。ちょっと最近様子のおかしい旦那様の功績だ。

「いや、どう考えてもおかしいんだよ。僕に優しくしたって意味なくない?」
「伴侶を愛してるから以外に理由って必要? おれにはレーシュの思考回路がわかんねー……」

 いや、愛してるという前提がそもそも間違ってるんだってば。と、心のなかでミンテに反論してレーシュはコーヒーカップを傾けた。

 職場復帰してすぐの休息日だ。レーシュはミンテを誘って、王都で近ごろ流行っているコーヒーハウスにやってきている。
 コーヒーハウスといっても貴族向けの高級店から庶民向けの店まであり、ランクは中間くらいの店にした。テラス席がメインで雑多な印象がありつつも、提供しているコーヒーの種類が多いのだ。

 コーヒーが好きなラツィエルに影響されてレーシュもたまには飲んでみるかと思ったのだけれど、結局ミルクと砂糖がたっぷりでクリームまで乗ったスペシャルドリンクを頼んでしまった。

 美味しいけど、「それはコーヒーじゃない」とかラツィエルに思いっきり否定されそうだな……とレーシュはしかめっ面を想像しながら、唇の上についたクリームをぺろりと舐める。

 髪はラツィエルにきっちりと結ってもらい帽子を被り、服も地味な色合いのものを選んでもらった、というか勝手に選ばれてしまった。
 伊達眼鏡越しに馬車通りを眺めると、久しぶりにすっきり晴れているからか人通りはとても多い。「それで!」と話しかけられて、レーシュは視線をミンテに戻した。短いミントグリーンの髪が風にふわふわと揺れている。

「ハニエル様、元気だって? 旦那さんから詳しく聞いてるんでしょ」
「ああ、うん。明日にも復帰されるらしい」
「よかったぁ……! レーシュまで倒れちゃうし、やっぱり監督する人がいないとね」

 その節はご迷惑を、とレーシュは頭を下げる。一つに結ったプラチナホワイトの髪がさらりと肩から落ち、目撃した隣テーブルの男性がコーヒーを服にこぼして「わちゃ!」と声を上げた。

 先日会ったときもハニエルは元気そうに見えたし、医官からの快癒宣言があるまでは妻がハニエルをベッドから出さなかったという。なんだか自分とラツィエルの攻防のようだ。

「でもミンテがみんなのこと引っ張ってくれたじゃない。次期宰相になっちゃうかもね?」
「いやおれ平民だよ? 義理とはいえ息子のレーシュが適任でしょ」
「平民とか関係なくハニエル様は指名しそうだけどね。僕はもう離縁するつもりだしさぁ……」
「っはぁあ!?!?」

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