三十歳になったので離縁を提案したら旦那様の様子がおかしい

おもちDX

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本編

35.ご主人様、夜遊びの時間ですよ!

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 レーシュはぶつぶつ言いながらラツィエルの斜め後ろを歩いている。
 いつもと違って地味な色合いで、質素なデザインのお仕着せを着ていた。眼鏡はかけているが、夜なので帽子を被るほうが変だということで、髪の色をくすませる粉までかけられている。

 反対に堂々と歩くラツィエルの格好は華やかな都市貴族そのものだ。
 しかし彼のいつもの装いとは違って、少し垢抜けない若そうな印象をもたせている、らしい。微妙なニュアンスの違いなんてレーシュにはわからない。

「なんで僕がラツィエルの従者役なんだよ……」
「お前はどうしたって目立ちすぎる。服はなんでもいいって言ってたじゃないか」
「服はどうでもいいけど。頭のこれが気持ち悪いし、喋らず黙って見てろってのが不満!」

 振り返ったラツィエルが、はぁと露骨に面倒くさそうな顔をしている。レーシュが口を窄めて気取った髪型をした男を見上げると、引っ詰めた髪の上にポンと手を置いて宥めてきた。

「はいはい、早く終わらせて帰ろうぜ。第一レーシュは演技なんてできないだろ……」
「できるし」

 事務補佐は普段外に出ることが全くない仕事なので、レーシュは今回の調査に張り切っていた。しかしラツィエルから目立たず後ろにいろと厳命されては、不満に思わずにはいられない。
 しかしながら、遊び人の貴族とその従者という設定でもうここまで来てしまったので腹を括るしかなかった。

 夜に賑わう裏通りに入ると、人通りが増えたので口を噤む。レーシュは土地勘がないのも確かなので、ラツィエルの後を離れないようについて行った。
 人にぶつからないようスイスイと間を通り抜けていく大きな背中を追いかけるだけなのは、正直楽で助かる。

 夜の王都の街は昼間とは違った匂いがする。濃度の高い香水と、煙草の匂い。街灯はいくつも立っているが、足元や細い路地の先は見えづらい。

 まるで全く知らない街に出てきてしまったような感覚がして、レーシュは心細さにこっそりとラツィエルのコートの裾を掴んだ。
 すぐに気づいたのかぴくりと首の後ろの筋が動いたが、言い咎められることはなかった。大方、はぐれられる方が面倒だと思っているのだろう。

「ジュノンさん! すみません、待ちましたか?」
「いいや、来たところだ。……さすが、衣装持ちは見事に馴染んでるね」

 ラツィエルが声を掛けたのは、空色の短い髪をオールバックにまとめている偉丈夫だ。その隣にいるミンテのバディで、第二騎士団の一人である。
 この中では最年長のため、ラツィエルも丁寧に接しているのがレーシュにとっては新鮮だった。一応歳上なのにレーシュには全く敬う様子を見せない男も、職場の先輩にはきちんと敬意を払えるらしい。

 夜なので予定を合わせやすく、四人は同じ日に調査をすることにしていた。
 少し離れた場所に見える三階建ての建物に、そのサロンは入っているという。どの窓もカーテンが引かれていて、中の様子を窺い知ることはできない。

 レーシュはさりげなく視線を向けて建物を観察しながらも、さっそく始めようというミンテの言葉に耳を傾けた。

「おれたちは西側で聞き取りをするから、レーシュたちは東側……焼き菓子店がある方をお願い。ここに戻ってくる必要はない。ある程度話を聞けたら、帰って明日報告し合おう」
「マグノリアの香油店の方がミンテとジュノンさんってことだね」

 レーシュが確認するように言い、先日の打ち合わせで地図に雑に書き足した情報を頭に思い浮かべる。他にもどこにどんな店があるか、今日確認しておきたい。

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