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本編
88.レーシュも分かっている
しおりを挟むハニエルが手紙を開封し、みんなにも聞こえるよう読み上げてくれた。差出人は、やはりレーシュを攫った犯人だ。
レーシュの身柄は犯人の元にあり、解放してほしくば麻薬調査から手を引くよう要求している。二日後の深夜に指定した場所へハニエルが一人で来れば、レーシュはその翌朝に王都のどこかで解放されるらしい。
断ってもいいが、断るとレーシュを輪姦してから殺す。ハニエルが一人で来なかった場合も同じ。
ラツィエルはそれを聞いた瞬間「ふざけるな!」と叫んでしまったが、ハニエルのひと睨みで口を噤んだ。
「ここにいない犯人に煽られて、冷静さを失ったら相手の思う壺だよ」
「…………」
「でも、ハニエル様が行くだけで麻薬調査から手を引くって保証になるかしら? 書面でも交わすとか?」
「わからないの? ……口封じをするつもりなんだよ。ハニエル様を」
「そうだろうねぇ」
「「っそんな……!」」
ビナーの疑問にミンテが答え、ハニエルが同意する。ビナーとテットが悲鳴のような声を上げ、ラツィエルも声こそ出さなかったが背筋を冷たいものが駆け下りた。
レーシュのために行ってくれと言えばハニエルが殺され、危ないから行くな、あるいは自分もついていくと言えばレーシュが殺されてしまう。
そもそもレーシュが本当にそこにいて約束通り解放してもらえるのか、今はまだ無事なのかも怪しいところだ。八方塞がりの状況に頭が痛くなる。
(本当に最低のやつらだな……!)
「私は行くつもりだよ。交渉は得意なんだ」
「ハニエル様、駄目に決まってるじゃないですか! もちろんどちらも死なせられません。手紙になにか犯人の手がかりはないですか?」
行くと言うとは思っていたが、ハニエルが交渉する余地を与えられるとは思えない。ミンテが即座に否定し、ハニエルから手紙を受け取る。そのとき封筒の中からもう一枚の紙がふわりと落ちてきた。
『私は無事です。お父様が、助けてくれることを信じています。怖くてなみだがとまりません。 レーシュ』
「ご丁寧に、レーシュからの手紙が入ってたのか。確かにレーシュの字だけど……」
「レーシュらしくない文面だな」
「犯人に言われたとおり書いただけなんじゃないの?」
レーシュが交換条件をどこまで知らされているのかは分からないが、ハニエルに甘えるような言葉や怖いとか泣くとか、レーシュがあえて書くとは思えない。
わざわざ涙で滲みを作る丁寧さだ。本当に泣きながら書いたのなら可哀想だが、うまく想像できない。
ラツィエルはレーシュの状況を想像しながら手紙を凝視した。怖いのは間違いないだろう。しかしハニエルが読むとわかっていて、この殊勝な内容を自分で考えて書いたのか?
逆さまからじっとレーシュの字を見つめていると、どうしても違和感を覚える部分に気づく。
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