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フルヴィエール伯爵領は王都に隣接した好立地にある。王室に献上するほど品質の高いワインの名産地で、ミネットの眼下にはのどかな葡萄畑が広がっていた。
「……先輩……」
家に帰ってきて数日、ミネットはいつになく暗い気持ちで過ごしていた。休暇中に先輩に会えるなんて初めてのことで嬉しい。だけどその目的は、妹との婚約だ。
ため息をついてばかりの息子を両親は心配したが、ミネットは口をつぐんでいた。婚約について、まずは妹から話を聞きたかったのだ。
「はぁ……」
「せっかくの休暇なのに、暗いのね」
「カルミナ!」
「ミネット、会いたかった~!」
カルミナは発情期で部屋に籠り、帰宅後もまだ会えていなかった。ようやく会えた双子の片割れに、ミネットは思わず抱きつく。
似た顔貌の二人が見つめ合う。よかった……元気そうだ。ミネットの方が少し背が高く、カルミナの髪は緩くウェーブしている。それくらいの違いだと思っていたけれど。
「カルミナ……成長したねぇ」
「でしょっ!? もう一生ぺたんこだと思ってた!」
「あはは。どっちでも可愛いけど。もう間違えられることはなさそうだね」
一年前には目立たなかった胸の膨らみが、今やドレスの胸元を押し上げている。女の子の成長ってすごい。ミネットが双子ならではの嫌味のなさで指摘すると、カルミナは嬉しそうに胸を張った。
天真爛漫なカルミナと話していると楽しくて、気分が上向く。久しぶりに笑った気がするなぁ。
「ミネットも背が伸びた! でも、痩せちゃったんじゃない? 儚げで綺麗さは増してるけど……体調大丈夫なの?」
「ああ……うん。それより、カルミナ。リヨン男爵家の次男と結婚するんでしょう?」
「はぁ? まさか! 私はまだ結婚したくないもの」
「えっ」
その返答は予想と大きく異なるものだった。リヨンはレヴリー先輩の家名だ。
カルミナは、この婚約を望んでいないってこと……?
ミネットはすばやく考えた。先輩や両親が望んでいても、妹が望んでいないなら自分は妹を応援したい。
だって、やっぱり先輩のことが好きなのだ。綺麗さっぱり諦めようとしても、休暇に入ってから思い出すのは先輩のことばかり。
格好良くて優しくて、ユーモアもあって……マントは厳重に保管してあるが、監督生バッチは毎日矯めつ眇めつ手の中にある。
「私、さいきん葡萄の品種改良に熱中しててね。農家の娘さんがまだ小さいんだけど、アルファで。それで……」
「カルミナ。僕は協力するよ! だから、僕にも協力して!」
「え?」
ミネットは僅かな可能性に賭けることにした。先輩が挨拶に来るのは五日後。この縁談が破談になってもいいと覚悟さえすれば、自分がカルミナのふりをして会えばいいのだ!
それで、なんとか先輩を誘惑して……妹じゃなくミネットでもいいと言わせることができれば。
――もしかしたら……先輩はミネットでもいいと、思ってくれるかもしれない。
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