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すうすう静かな寝息を立てるアネラを見つめ、リノエルは目を細めた。
長いローズブロンドを指先で梳くと、朝靄の隙間から差し込んだ柔らかな光に透け、金糸のように煌めく。
屋敷の外はかなり冷え込んでいるだろう。ほとんど山の中で人も少なく、静かで落ち着く場所だ。
寂しい思いをさせてしまったと思うが、この地にアネラを隔離することができて本当に良かった。
――初代国王と同じ黒髪を持つ子に、神話は引き継がれる。
王族の中でただひとり黒髪を持って生まれたリノエルは、十六歳になったとき父王にも秘密で神官長によって神殿の奥へと連れて行かれた。
小さく神聖な空気に包まれた祭壇で祈りを捧げるよう言われ従うと、頭の中に怒涛の記憶が流れ込んできたのだ。
日本という国で高校生だった「俺」のこと。日々の学校生活や、マイナーな性的指向を持ち悩んでいたこと。
それだけなら「こんな世界があるのか」と驚いただけで済ませるところだったが、特に衝撃を受けたのは「俺」が好きだったノベルゲームの内容だった。
そこはリノエルの生まれた国を舞台としていた。主人公は男爵家の少女で、第二王子のリノエルは彼女と恋に落ち、彼女の協力を得て第一王子を倒し、国の頂点に立つ。
信じられないストーリーだったものの、悪巧みをして国を混沌へ導こうとする第一王子の行動はいかにもあり得そうだったし、なによりそこには愛するアネラがいた。
妖精と呼ばれる美貌と清らかな心を持つアネラは第二王子の婚約者だったが、ストーリー上は悪役令息として断罪され死刑となる。
さらっと語られていた内容に怒りが湧いたけれど、荒唐無稽だと無視することはできない。
異世界の記憶を得てから、リノエルは実際にこの国がストーリーに沿って動こうとするのをはっきりと感じた。
リノエルは考えた。断じて、このゲームのストーリーどおりになってはいけない。
第一王子はいずれ倒すべきだが、少女が聖女であろうと興味はないし、アネラを死なせるなんてあってはならない。
アネラを守ることを最優先とし、リノエルは密かに準備を進めた。数年間国が荒れるのはわかりきっていたことだったため、アネラは密かに逃がすことにした。
嘘をつき、彼を傷つけるのは胸が引き裂かれるような思いだった。
だが物語の強制力というものなのか、国外追放としたところで第一王子派からの襲撃があったのも事実だ。万が一の準備をしていたおかげで暗部のナールに救わせることができたが、報告を聞いたときは肝が冷えた。
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