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あっさりと毒気を抜かれ、ため息をつく。むしろこんな路地で倒れたままでいたら、身ぐるみはがされてしまうかもしれない。
だから男を助けることにした。よっぽど疲れているらしい重い体を起こすのを手伝い、財布を拾って渡し、強い風であちこちに飛んでいった書類を拾い集めた。
そのとき内容を読むつもりはなかったのだが、ちらっと見えた内容が気になってしまった。最後の一枚を男に渡すとき、余計かと思いつつ伝えておく。
「すまない……助かった。ありがとう少年」
「この帳簿、計算は合ってるけど、市場の物価と乖離してますよ。たぶん横領か……流通ルートのどこかで中抜きされてますね」
「は……?」
ぽかん……と呆気に取られた顔は、ずいぶんと可愛らしかった。明らかに歳上なのにそう感じるのは変だと思ったけど、美形だからこそギャップに目を奪われたのだ。
「じゃ。お仕事がんばってくださいね」
「……待ってくれ! 君、名前は? 私の元で働かないか?」
「え?」
ぐっと腕を引かれ、振り返った先で目にしたのはキラキラと少年のように目を輝かせる男の顔だった。
――それからは怒涛のような日々だった。僕は王宮という信じられない場所で職を得て、二年後にカルディア様は宰相補佐官から宰相となった。
(まさか……セフレになるとは思わなかったけど)
何度も食事に誘われて、仕事以外のこともたくさん話して。十八歳の誕生日に家に誘われたときも躊躇わなかった。好きな人に抱かれるってどんな感じなんだろう、と期待していたほどだ。
カルディア様は優しく、時に激しくて、職場では決して見せない一面に僕は夢中になった。愛の言葉を囁かれることもないし周囲には秘密の関係だったけれど、それで満足だった。
男同士の恋愛は一般的でインサニア王国では結婚もできるものの、子どもが作れないためよほど本気じゃない限り『遊び』と捉える人が多い。血を繋がないといけない貴族はなおさらだ。
いつか終わりが来ると思っていた。カルディア様は次男とはいえ貴族だし、王国で国王に次ぐ権力を有している。夜会などに出れば有力貴族から娘を紹介されるのは当たり前だとメイドの噂話から知っていた。
「ああ、でも、寂しい……」
終わってみれば、ぽっかりと心のなかに穴が空いてしまったみたいだ。
きっかけがなかったから、ずるずると付き合い続けてしまった。これは神様が僕に与えた罰に違いない。あんなにも素晴らしい人を、三年間も独占してしまったのだから。
込み上げてきた涙に、思いのまま声を上げる。悲しくて悲しくて、胸が張り裂けそうだ。
「うわーん!」
「おいおい兄ちゃん、大丈夫か? ……っ! そそる顔してんなぁ」
突然肩に手を置かれ、声を掛けられた。カウンターのテーブルに突っ伏していた顔を上げると、髭面の男が目を見開く。
涙で視界が潤んでいるから、男がにやりと嗤ったことには気づかなかった。
(頭がふわふわする……)
僕は頭をスッキリさせるため、目の前の酒をぐびぐびと飲み干した。カンッとカウンターに酒杯を置いて、口の端にこぼれた酒を舌で舐め取る。
「んー……」
「エッロ……いーい飲みっぷりじゃねぇか! ほらほら、これも飲め。奢ってやる!」
やけに喉が乾いて、差し出された酒をどんどん飲んだ。頭が重いなと感じて初めて酔っているのかもと思ったが、もう遅かった。眠くて眠くて、意識がプツリと途切れる。
「いい商品が手に入ったぜ……」
だから男を助けることにした。よっぽど疲れているらしい重い体を起こすのを手伝い、財布を拾って渡し、強い風であちこちに飛んでいった書類を拾い集めた。
そのとき内容を読むつもりはなかったのだが、ちらっと見えた内容が気になってしまった。最後の一枚を男に渡すとき、余計かと思いつつ伝えておく。
「すまない……助かった。ありがとう少年」
「この帳簿、計算は合ってるけど、市場の物価と乖離してますよ。たぶん横領か……流通ルートのどこかで中抜きされてますね」
「は……?」
ぽかん……と呆気に取られた顔は、ずいぶんと可愛らしかった。明らかに歳上なのにそう感じるのは変だと思ったけど、美形だからこそギャップに目を奪われたのだ。
「じゃ。お仕事がんばってくださいね」
「……待ってくれ! 君、名前は? 私の元で働かないか?」
「え?」
ぐっと腕を引かれ、振り返った先で目にしたのはキラキラと少年のように目を輝かせる男の顔だった。
――それからは怒涛のような日々だった。僕は王宮という信じられない場所で職を得て、二年後にカルディア様は宰相補佐官から宰相となった。
(まさか……セフレになるとは思わなかったけど)
何度も食事に誘われて、仕事以外のこともたくさん話して。十八歳の誕生日に家に誘われたときも躊躇わなかった。好きな人に抱かれるってどんな感じなんだろう、と期待していたほどだ。
カルディア様は優しく、時に激しくて、職場では決して見せない一面に僕は夢中になった。愛の言葉を囁かれることもないし周囲には秘密の関係だったけれど、それで満足だった。
男同士の恋愛は一般的でインサニア王国では結婚もできるものの、子どもが作れないためよほど本気じゃない限り『遊び』と捉える人が多い。血を繋がないといけない貴族はなおさらだ。
いつか終わりが来ると思っていた。カルディア様は次男とはいえ貴族だし、王国で国王に次ぐ権力を有している。夜会などに出れば有力貴族から娘を紹介されるのは当たり前だとメイドの噂話から知っていた。
「ああ、でも、寂しい……」
終わってみれば、ぽっかりと心のなかに穴が空いてしまったみたいだ。
きっかけがなかったから、ずるずると付き合い続けてしまった。これは神様が僕に与えた罰に違いない。あんなにも素晴らしい人を、三年間も独占してしまったのだから。
込み上げてきた涙に、思いのまま声を上げる。悲しくて悲しくて、胸が張り裂けそうだ。
「うわーん!」
「おいおい兄ちゃん、大丈夫か? ……っ! そそる顔してんなぁ」
突然肩に手を置かれ、声を掛けられた。カウンターのテーブルに突っ伏していた顔を上げると、髭面の男が目を見開く。
涙で視界が潤んでいるから、男がにやりと嗤ったことには気づかなかった。
(頭がふわふわする……)
僕は頭をスッキリさせるため、目の前の酒をぐびぐびと飲み干した。カンッとカウンターに酒杯を置いて、口の端にこぼれた酒を舌で舐め取る。
「んー……」
「エッロ……いーい飲みっぷりじゃねぇか! ほらほら、これも飲め。奢ってやる!」
やけに喉が乾いて、差し出された酒をどんどん飲んだ。頭が重いなと感じて初めて酔っているのかもと思ったが、もう遅かった。眠くて眠くて、意識がプツリと途切れる。
「いい商品が手に入ったぜ……」
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