5 / 14
5.
奴隷の扱いは粗悪というほどでもなかった。商人らしく珍しい物や人を手当たり次第集めていて、貴重なものは大切に扱っているつもりのようだ。
まぁ、いい商品になると思えば他国から人を攫ってきたり、戦争中の他国からどさくさに紛れて国宝級の聖遺物を盗んできたりと善性にはかなり欠けるが。
闇オークションが開催される日まで暇を持て余して商人やその部下と会話していると、ひとつ分かったことがある。どうやらメルギトゥルは今、インサニア王国ともう一つの隣国トリスティス王国から進軍されている最中のようだ。
え!? と大きな声を上げてしまったが、商人たちは「まあ、国が潰れれば俺たちは別の国で商売するだけだ」と気にしていない。
そんな危機感がなくていいのだろうか。外には出られないため、王都の雰囲気などはわからない。
僕が一番びっくりしてしまって、しばらく考え込んでいた。なぜなら数週間前まで政治の中枢ともいえる場所にいたのに、他国へ攻め込むなんて話は聞いていなかったからだ。
インサニア王国は比較的豊かな国で、好戦的でもない。メルギトゥル王国に攻め込んでも、あまりメリットがあるとは思えない。
しかし理由もなく戦争を起こすなんてもっとあり得ないから、はっきりとした要因があるのだろう。メルギトゥルが宣戦布告をしたとか、インサニアにとって大事なものを奪ったとか。
(なんだろ……主要な辺境の砦とか、王族の誘拐とか? トリスティスはインサニアの友好国だから、協力しているだけの線もあるな)
こうなってしまったら、王族に買われるのはまずい。二国から進軍されてメルギトゥルが無事だとは到底思えないからだ。国の動向が気になるのはただの職業病だと自分に言い訳をして、僕は当たり障りのない貴族に買われることを切に願った。
◇
国の中心にある王都の一市民には、戦争なんて実感がない。けれど徐々に軍が王都へ近づいてきているとあって、噂を聞くことはあった。
本当にこの国は大丈夫なのか。僕は闇オークションの開催さえ危ぶんでいたが、中止の知らせは来ずついに当日を迎えてしまった。
「……すげえ」
「どうだ! この見えそうで見えない透け感! 高級娼館に金を払ってまで職人を紹介してもらったんだ」
目の前には透けるほど薄い生地を何枚にも重ねた服(?)があった。
南国の踊り子のような衣装で、上は胸元だけを隠す布地を巻きへそは丸出し、下はゆったりとしたパンツスタイルだ。パンツ部分は脚の線が見えるほど薄いが、その下に小さな下履きを履く。
よ~く見れば大事な部分も少し透けて見えそうなのだけれど、会場の薄暗さと舞台上だけを照らす照明の下でならぎりぎり見えないと太鼓判を押された。
自慢げな商人に対し、僕は血の気が引いて倒れそうだった。
(こんなの、まんま性奴隷じゃん!?)
まずい。そういう役目もあると考えていたとはいえ、いいとこの使用人みたいな衣装を期待していた。完全に見解の不一致が起きていたと、今さら知っても遅い。
商人のおじさんは鼻の下を伸ばして「さあ、着てみてくれ!」と促してくる。
もう会場の裏に来ていて、自分の順番が回ってくるのを待つだけだ。ここで抵抗して、どうなる?
……どうにもならないな。着るか。
諦めの早さは僕の長所だと言えよう。さっと諦めて、そこから出来ることを探すしかない。
僕はパパッと着替えて、隅に置かれていた鏡で自分の姿を確認した。
「うわあ……」
(冴えない男がこれを着て、本当に魅力的に見えると思ったのか? あの商人、絶対に儲かってないだろ)
髪は下ろしたほうがいいと言われていたため肩下までふわふわと覆っている。この纏まりの悪い髪をカルディア様はよく「可愛い」と言ってくれていたから、自分で思っているよりいい髪なのかもしれない。
まぁ、いい商品になると思えば他国から人を攫ってきたり、戦争中の他国からどさくさに紛れて国宝級の聖遺物を盗んできたりと善性にはかなり欠けるが。
闇オークションが開催される日まで暇を持て余して商人やその部下と会話していると、ひとつ分かったことがある。どうやらメルギトゥルは今、インサニア王国ともう一つの隣国トリスティス王国から進軍されている最中のようだ。
え!? と大きな声を上げてしまったが、商人たちは「まあ、国が潰れれば俺たちは別の国で商売するだけだ」と気にしていない。
そんな危機感がなくていいのだろうか。外には出られないため、王都の雰囲気などはわからない。
僕が一番びっくりしてしまって、しばらく考え込んでいた。なぜなら数週間前まで政治の中枢ともいえる場所にいたのに、他国へ攻め込むなんて話は聞いていなかったからだ。
インサニア王国は比較的豊かな国で、好戦的でもない。メルギトゥル王国に攻め込んでも、あまりメリットがあるとは思えない。
しかし理由もなく戦争を起こすなんてもっとあり得ないから、はっきりとした要因があるのだろう。メルギトゥルが宣戦布告をしたとか、インサニアにとって大事なものを奪ったとか。
(なんだろ……主要な辺境の砦とか、王族の誘拐とか? トリスティスはインサニアの友好国だから、協力しているだけの線もあるな)
こうなってしまったら、王族に買われるのはまずい。二国から進軍されてメルギトゥルが無事だとは到底思えないからだ。国の動向が気になるのはただの職業病だと自分に言い訳をして、僕は当たり障りのない貴族に買われることを切に願った。
◇
国の中心にある王都の一市民には、戦争なんて実感がない。けれど徐々に軍が王都へ近づいてきているとあって、噂を聞くことはあった。
本当にこの国は大丈夫なのか。僕は闇オークションの開催さえ危ぶんでいたが、中止の知らせは来ずついに当日を迎えてしまった。
「……すげえ」
「どうだ! この見えそうで見えない透け感! 高級娼館に金を払ってまで職人を紹介してもらったんだ」
目の前には透けるほど薄い生地を何枚にも重ねた服(?)があった。
南国の踊り子のような衣装で、上は胸元だけを隠す布地を巻きへそは丸出し、下はゆったりとしたパンツスタイルだ。パンツ部分は脚の線が見えるほど薄いが、その下に小さな下履きを履く。
よ~く見れば大事な部分も少し透けて見えそうなのだけれど、会場の薄暗さと舞台上だけを照らす照明の下でならぎりぎり見えないと太鼓判を押された。
自慢げな商人に対し、僕は血の気が引いて倒れそうだった。
(こんなの、まんま性奴隷じゃん!?)
まずい。そういう役目もあると考えていたとはいえ、いいとこの使用人みたいな衣装を期待していた。完全に見解の不一致が起きていたと、今さら知っても遅い。
商人のおじさんは鼻の下を伸ばして「さあ、着てみてくれ!」と促してくる。
もう会場の裏に来ていて、自分の順番が回ってくるのを待つだけだ。ここで抵抗して、どうなる?
……どうにもならないな。着るか。
諦めの早さは僕の長所だと言えよう。さっと諦めて、そこから出来ることを探すしかない。
僕はパパッと着替えて、隅に置かれていた鏡で自分の姿を確認した。
「うわあ……」
(冴えない男がこれを着て、本当に魅力的に見えると思ったのか? あの商人、絶対に儲かってないだろ)
髪は下ろしたほうがいいと言われていたため肩下までふわふわと覆っている。この纏まりの悪い髪をカルディア様はよく「可愛い」と言ってくれていたから、自分で思っているよりいい髪なのかもしれない。
あなたにおすすめの小説
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
【完結/番外編準備中】
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
----------
追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中