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その夜、帰ってきたカルディア様に僕は素知らぬ顔で夕食を提供して、早々に寝室へと引っ込んだ。淡々としすぎて怒っていると思われたかもしれない。……いや、確かに僕は怒っているのだ。
これまで僕に言い寄る人が出てこないよう周囲を牽制しまくって、カルディア様が結婚相手候補としてモテモテなのも噂が僕の耳に入らないよう情報統制されていた。
僕が別れを告げたあとも居場所を把握しようとして、攫われたと知ったあとは国を巻き込んでメルギトゥルに攻め込んだ。もちろん国家の私物化と言われないよう理由も用意されていた。
僕は退職さえなかったことにされ、知らないうちに宰相補佐官に任命されていたのだ。
それを理由に「重要な官吏を攫ったことはインサニア王国への宣戦布告に値する」として、友好国のトリスティス王国まで巻き込み戦争に持ち込んだのだ。合同軍としたのは圧倒的な数で早々に決着をつけるためだった。
(いくらなんでも、カルディア様は優秀な頭脳を変なことに使いすぎっ!)
そこまで知ってしまえば、カルディア様の気持ちは僕にだって分かる。だから、今日中に決着をつけることにした。
(またこれを着ることになるとは……ってか、まさかカルディア様が持って帰ってきてるとは思わなかったな……)
僕は自分の姿を見下ろして「うぅ、」と情けない声を出した。いま身に纏っているのは、かつてメルギトゥルで髭面の商人が用意した透ける踊り子衣装だ。無駄に高級品なため肌触りは良いし透ける部分も艷やかに見える。
なぜこんな格好をしているのかというと、アロと話した結果、今夜はカルディア様を押し倒して僕の気持ちを知らしめてやろうと思いついたのだ。
このへんてこな衣装が似合うかどうかは別として、性的魅力は増している……と信じたい。
「せめてもう少し若くてピチピチだったら……」
「――フェレス、ここにいたの、か……」
ないものねだりな独り言をこぼしていたとき、寝室の扉が前触れなく開いた。ぱっと振り返れば、カルディア様は僕の姿を見て目を丸くし、固まっている。
(ひ、引かれた……? いや、自分を信じろ。ここまで来てしまったら、やるしかない!)
気合いを入れてから、カルディア様が逃げないように腕を掴む。ぐいぐい引っ張るとヨロ、ヨロ……と歩く。
頭の回転は早いはずなのに放心している彼を寝台のそばまで動かしてから、僕はトンッと彼の肩を押した。押し倒したかったけど、カルディア様は寝台の端に腰掛けた形になった。身長差が大きいため力にも差がある。仕方ないだろう。
まあ、これでもいい。向かい合うようにして太ももの上に跨がってみても、カルディア様はされるがままだ。
「えいっ」と心のなかで掛け声をして、彼の唇に自分のそれを重ねた。小さくリップ音が鳴った。
「カルディア様。カルディア様のことが好きです」
「は……?」
どうして信じられない、という顔をするのかな。僕は僕の態度から、とっくに自分の気持ちが伝わっていると思っていた。
しかしそうじゃなかったことを今日知った。……これまで、気持ちを言葉にして伝えてこなかったのが原因なんだろう。
「あなたに拾われて、僕は初めてまともな収入を得る職業につきました。立場は天と地ほどに違うし、大切な恩人なのに……気づけば好きになっていて。初めて抱かれたときも嬉しくてたまらなかった」
あのとき、カルディア様も怖かったのだろうか。僕は怖かった。好きだと口にして、自分は違うと否定されることが。
「ずっとセフレの立場に甘んじて、それでもあなたを独占できることが幸せでした。でも、あなたが婚約すると噂を聞いて、身を引く決心をしたんです」
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