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そういうことか、と瑞は納得した。確かに逢坂のギャップは、元が注目を浴びているからこそ噂の対象になりそうだ。
瑞はさっき「自慢しちゃうかも」と言った。きっとその部分に対して、「やめろ」と叫ばれたのだ。
あのイケメンが家族になることを自慢してやろうかな、とほとんど冗談で話したつもりだったけれど、確かに無遠慮すぎたなと思う。
丞さんが転職してまでこの街に引っ越してきた理由は、もしかしたら逢坂が学校で嫌な目に遭っていたからかもしれない。逢坂の素はこっちで、学校での姿は逢坂を守る鎧の役目を果たしているように見える。
完璧すぎる鎧だけど、その中身は繊細な人間だ。
瑞は立ち上がって、俯いている逢坂の前で屈んだ。逆光で表情はよく見えないけれど、向こうには自分の顔が見えているはずだからニコッと笑いかける。
「おれさ、約束する。絶対に学校で言わないよ。家族になるってことも、逢坂が家では本来の姿で過ごしてるってことも。へへ、なんかスパイダーマンみたいだな。かっこいいじゃん」
「っ……!」
薄明りのなかでも、逢坂が目を見開いたのがわかった。怒っているわけではなさそうな反応に勇気をもらって、畳みかける。
「だから、仲良くしてくれると、嬉しいなー……だめ?」
自分がやっても可愛くはないだろうけど、コテンと首を傾げ上目遣いで見上げる。これは身長が低めな瑞の癖でもあった。
友だちに「それやめろ」とよく言われているが、無意識にやってしまうのだ。
「……桔都でいい」
「え! 名前で呼んでいいってこと?」
逢坂、もとい桔都が頷くのを見て、心臓が音を立てて跳ねる。胸の中では花が咲き誇るような喜びが広がっていき、瑞の表情にまで伝わる。
決して懐かない動物が触るのを許してくれたような心地だった。
(……これがツンデレ!!)
「きっと。ふふ、照れるなぁ。じゃあおれのことも瑞って呼んでな?」
「……みず、き」
「ふふふふふ」
頬がにまにま緩むのを止められない。そのまま「帰ろう」と手を差し出すと、自分よりも一回り大きな手が重なる。桔都が立ち上がる勢いで瑞も引っ張り上げられた。
間近に立つと頭一つ分は背が高い。街灯の光が当たる頬は、少し赤らんでいるようにも見えた。
逢坂家に帰ると、少しは心配していたのか母が真っ先に出迎えてくれた。瑞と桔都の間の方を見て、ニコニコする。
「ずいぶん仲良くなったのねぇ」
「あっ!」
「…………」
なんと、公園から手を繋いだままここまで帰ってきてしまったらしい。子どもじゃないんだから……と恥ずかしくなって慌てて手を外すと、知らないうちに手にかいていた汗がすうっと冷えた。
手を洗ってきてね、と踵を返した母はずいぶん機嫌が良さそうだ。きっと丞さんに報告するのだろう。
瑞が廊下をトコトコ歩き出すと、鳥の雛のように桔都がついてくる。
しばらくきょろきょろしながら歩いてから、洗面所の場所は家主に聞けばいいじゃんと今さらながらに気づく。しかも桔都に尋ねてみれば、だいぶ手前の方だったみたいだ。
先に手を洗いながら、瑞は口を尖らせる。
「言ってよ。もう」
「……僕が弟でいい」
「まじっ? 誕生日いつ!?」
丞さんに似たところがあるのか、桔都も唐突に話題を変える。でも瑞はまんまと喜び、石鹸の泡を飛ばした。小さなシャボン玉がふわふわと漂う。
「八月十二……」
「夏休み中じゃん! 一緒にお祝いしような~!」
四人でケーキを囲むイメージが脳裏に浮かぶ。二人では到底叶わない、ホールケーキだ。
家族が増えるって楽しいな……と初めて瑞は実感した。
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