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5.王子様に恋するモブ町娘
あれよあれよという間に話は進み、母と丞さんは結婚した。
書類上母は逢坂という苗字に変わり、瑞は途中で苗字が変わるのは避けたいということで高校卒業後に丞さんと養子縁組することになった。
瑞が一方的にではあるがあんなに兄弟兄弟と言っていたのに、結局まだ本当の兄弟にはなれないらしい。でも実のところ書類上の話はどうでも良くて、瑞が兄で桔都は弟だとお互いが認めた事実に意味があるのだと思う。
再婚だからと結婚式やハネムーンもない。「すれば?」と訊いたけど四人で暮らす日常が幸せなんだと言われてしまえばそれ以上言うことはなかった。
母も丞さんも、幸せの閾値が低すぎる。しかし小さなことでも幸せを感じられる方が幸せなのだと、瑞も知っていた。
籍を入れた日は家族四人で焼き肉を食べに行った。
完全に高校生の息子たち向けのチョイスで申し訳なかったけれど、「好きなだけ食べていいよ」と丞さんが言ってくれたので「ひゃっほう!」と調子に乗ってしまった。桔都が瑞の皿に焼けた肉をどんどん入れてくれるため、食べすぎたのはあいつも同罪だ。
――そして……ついに、めちゃくちゃ大変だった引越し作業まで終えました!
「こんにちは。今日からよろしくお願いします!」
「これからはただいま、だね? 瑞、奏海、四人じゃ手狭だと思うけど今日から遠慮なく過ごしてくれ」
「…………」
丞さんから呼び捨てで呼ばれるとドキドキする。こんな素敵な人がお父さんだなんて嬉しいけれど、瑞はまだ恥ずかしくて「丞さん」と呼んでいる。
それにしても、この豪邸を「手狭」と呼ばわるとはさすがだ。
昨日まで母と瑞は「あんな大きなお家、掃除も大変そうよねぇ……」「大丈夫、おれも手伝うから!」と励まし合っていたのに。
母の纏う空気がピリつき、初の夫婦喧嘩が勃発……!? と束の間怯えたのだが、絶妙なタイミングで桔都が「お茶、入ったよ」と声を掛けてくれたので助かった。
瑞と同じ楽観的な母が本気で怒ることなんて滅多にないし、丞さんもかなり温厚に見えるけれど。元相良家は喧嘩に敏感なのである。
「出前でそばでも取ろうか?」
「そばくらいなら茹でるから! 丞さんがそう言うと思って、持ってきたの」
家事代行サービスを使ったりしながら男二人でなんとかやってきたからか、丞さんは母に家事を強要しないところがいい。お金もあるためなんでも外注しようとするのだが、節約志向が染みついた母は意識改革を始めていくつもりらしい。
母は四人分の家事をやる気満々で、仕事もフルタイムから時短に変えた。これまで走り続けてきたのだから、丞さんに甘えて少しはゆっくりすればいいのに。ま、母には母なりの思いがあるのだろう。
ソファにいた瑞はすでに我が家の心地でくつろぎながら、遠慮なく我が儘を言ってみる。
「おれ、天ぷらも食べたーい」
「えぇ……さすがに材料が足りないわ。自分で買ってきなさい」
「桔都、一緒に行く? 海老天食べたくない?」
こくん、と隣で頷いたのを見て、瑞は立ち上がった。引越しで精神的には疲れ切っているはずなのに、なんだろう。本当に小さなことが幸せで、顔に笑みが浮かんでしまう。
相変わらずなジャージ姿の桔都と連れ立って歩き、海老天の値段を見て「高!」とか言いながら、四本買って家に帰った。
書類上母は逢坂という苗字に変わり、瑞は途中で苗字が変わるのは避けたいということで高校卒業後に丞さんと養子縁組することになった。
瑞が一方的にではあるがあんなに兄弟兄弟と言っていたのに、結局まだ本当の兄弟にはなれないらしい。でも実のところ書類上の話はどうでも良くて、瑞が兄で桔都は弟だとお互いが認めた事実に意味があるのだと思う。
再婚だからと結婚式やハネムーンもない。「すれば?」と訊いたけど四人で暮らす日常が幸せなんだと言われてしまえばそれ以上言うことはなかった。
母も丞さんも、幸せの閾値が低すぎる。しかし小さなことでも幸せを感じられる方が幸せなのだと、瑞も知っていた。
籍を入れた日は家族四人で焼き肉を食べに行った。
完全に高校生の息子たち向けのチョイスで申し訳なかったけれど、「好きなだけ食べていいよ」と丞さんが言ってくれたので「ひゃっほう!」と調子に乗ってしまった。桔都が瑞の皿に焼けた肉をどんどん入れてくれるため、食べすぎたのはあいつも同罪だ。
――そして……ついに、めちゃくちゃ大変だった引越し作業まで終えました!
「こんにちは。今日からよろしくお願いします!」
「これからはただいま、だね? 瑞、奏海、四人じゃ手狭だと思うけど今日から遠慮なく過ごしてくれ」
「…………」
丞さんから呼び捨てで呼ばれるとドキドキする。こんな素敵な人がお父さんだなんて嬉しいけれど、瑞はまだ恥ずかしくて「丞さん」と呼んでいる。
それにしても、この豪邸を「手狭」と呼ばわるとはさすがだ。
昨日まで母と瑞は「あんな大きなお家、掃除も大変そうよねぇ……」「大丈夫、おれも手伝うから!」と励まし合っていたのに。
母の纏う空気がピリつき、初の夫婦喧嘩が勃発……!? と束の間怯えたのだが、絶妙なタイミングで桔都が「お茶、入ったよ」と声を掛けてくれたので助かった。
瑞と同じ楽観的な母が本気で怒ることなんて滅多にないし、丞さんもかなり温厚に見えるけれど。元相良家は喧嘩に敏感なのである。
「出前でそばでも取ろうか?」
「そばくらいなら茹でるから! 丞さんがそう言うと思って、持ってきたの」
家事代行サービスを使ったりしながら男二人でなんとかやってきたからか、丞さんは母に家事を強要しないところがいい。お金もあるためなんでも外注しようとするのだが、節約志向が染みついた母は意識改革を始めていくつもりらしい。
母は四人分の家事をやる気満々で、仕事もフルタイムから時短に変えた。これまで走り続けてきたのだから、丞さんに甘えて少しはゆっくりすればいいのに。ま、母には母なりの思いがあるのだろう。
ソファにいた瑞はすでに我が家の心地でくつろぎながら、遠慮なく我が儘を言ってみる。
「おれ、天ぷらも食べたーい」
「えぇ……さすがに材料が足りないわ。自分で買ってきなさい」
「桔都、一緒に行く? 海老天食べたくない?」
こくん、と隣で頷いたのを見て、瑞は立ち上がった。引越しで精神的には疲れ切っているはずなのに、なんだろう。本当に小さなことが幸せで、顔に笑みが浮かんでしまう。
相変わらずなジャージ姿の桔都と連れ立って歩き、海老天の値段を見て「高!」とか言いながら、四本買って家に帰った。
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