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19.寂しい
会話に割り込んできたのは本物の王子様……ではなく王子スタイルの桔都だった。いつの間に移動してきたのだろうか、瑞の腰に手を添え左側に立っている。
「瑞、スマホ出して」
「ひぁ、あ……うん」
なにに駄目と言われたのか分からなくて瑞が首を傾げていると、耳元で囁かれた。低くていい声が直接吹き込まれ、思わず腰が抜けそうになる。
「山岸、エアードロップでいいよな?」
「お、おう」
「瑞も。ほら、これで“受け入れる”を選択して」
「うん」
なぜか桔都主導でとてもスムーズに写真の共有がされる。こんなに便利な機能が存在したのか、と瑞の目からポロリと鱗が落ちた。
「ありがとう!」と笑顔で傍にいる桔都を見上げたとき、パシャというチェキの撮影音が聞こえた。
「あ、すみません」
「これ、もらっていい?」
勝手に撮ったことを謝った岸多は、顔を真っ赤にして「どうぞ」と桔都にまだ画像の浮かび上がってきていない写真を渡す。瑞も見たかったのに、桔都はすぐポケットに仕舞ってしまった。
「桔都、あれ、いいの?」
「あー……悪い、戻るわ。あとで瑞のクラス見に行くな」
「うん!」
気づけば教室の前方にいた女子たちと、廊下の外から桔都を見ていた男女の視線がこちらに突き刺さっている。「誰あの女……男?」という言葉が聞こえてきて、ちょっと申し訳なくなった。
(すみませんねぇ、男らしくもないモブ顔で)
学校の桔都はみんなのものなんだろう。でも家に帰れば瑞だけの弟だ。
向けられる嫉妬の視線を無視して、瑞は撮影エリアを下りた。
衣装を脱ぐとメイク落としシートとやらで顔をさっぱりさせ、秀治と友人のクラスでやっている喫茶室に向かう。秀治は考え事をしているのかしばらく喋らなかったけど、文化祭の騒々しさがあっという間に違和感を押し流していく。
後夜祭まで、めいっぱい楽しもう!
瑞の順番が回ってきて展示監視員をしている教室に、華やかな男女三人組がやってきた。華やかさの定義は人によると思うが、総じて顔が整っていてお洒落、かつ男子は背が高く、女子はメイクもヘアセットも完璧だ。
「なにここ、写真展?」
「おー。本田の写真を見たくてさ、付き合ってよ」
瑞のクラスにいる華やか仲間の写真を見に来たようだ。喋っている男女の後ろに立つ桔都が、ちらりと視線を向けてきて瑞にウインクをした。
(うっ……さすが、かっこいい!)
薄暗い教室なのに、特大の流れ星が瑞のもとへ届いたみたいだった。ウインクが似合う男子高校生なんて、芸能人以外で見たことがない。ちなみに瑞はどうやっても両目を瞑ってしまうタイプの人間である。
一緒に暮らしていても憧れの気持ちを抱いてしまうのは仕方がないと思う。あんなに繊細で内向的な一面を持っているにもかかわらず、これほど華麗に変身できる桔都は本当にかっこいい。
桔都は瑞の写真を見つけたらしく、唇の両端が上がっていく。ぶっちゃけ暇なので、瑞はそっと立ち上がって隣に立った。
「いい写真じゃん」
「へへ、ありがと。星凪に感謝しないとね」
“Summer Memories”とタイトルに書かれた写真は、カリフォルニアディズニーで星凪に撮ってもらった家族四人の後ろ姿だった。自分で撮った写真じゃないんかいと突っ込まれそうだとは思ったけど、文化祭なんてなんでもアリだ。
後ろ姿でも桔都だとわからないような写真を厳選し、セピア風の加工をかけてある。郷愁を誘う懐かしさとポップなお洒落さが共存した写真に、友人からの評判は上々だ。両親も素敵だとしきりに褒めてくれた。
文化祭が終わったら家に飾ろうと思っているくらい、瑞もお気に入りの一枚だ。
へらへら笑っていると、桔都がなにかに気づいたようで瑞の頭へと手を伸ばす。どうやら写真館で使ったピンがまだ残っていたらしい。外されると前髪がひと房落ちてきた。
「まだついてた。気をつけろよ」
「まじか、サンキュー!」
なにに気をつければいいのか分からなかったけれど、頷いておく。
――そのとき、ゾクッと背筋に嫌な感じが走って瑞は背後を振り向いた。
(……ん?)
桔都と一緒に来ていたボブヘアの女子が瑞を睨んでいる……気がしたのは一瞬で、彼女は「もう牧のライブ始まっちゃうから行こ!」と二人の男子に声を掛けている。
桔都と目線だけで「ばいばい」と言い合って、瑞は隅っこの椅子に移動する。画廊風の教室は薄暗くて、桔都と話せた満足感もあり、ちょっとだけ居眠りしてしまった。
「瑞、スマホ出して」
「ひぁ、あ……うん」
なにに駄目と言われたのか分からなくて瑞が首を傾げていると、耳元で囁かれた。低くていい声が直接吹き込まれ、思わず腰が抜けそうになる。
「山岸、エアードロップでいいよな?」
「お、おう」
「瑞も。ほら、これで“受け入れる”を選択して」
「うん」
なぜか桔都主導でとてもスムーズに写真の共有がされる。こんなに便利な機能が存在したのか、と瑞の目からポロリと鱗が落ちた。
「ありがとう!」と笑顔で傍にいる桔都を見上げたとき、パシャというチェキの撮影音が聞こえた。
「あ、すみません」
「これ、もらっていい?」
勝手に撮ったことを謝った岸多は、顔を真っ赤にして「どうぞ」と桔都にまだ画像の浮かび上がってきていない写真を渡す。瑞も見たかったのに、桔都はすぐポケットに仕舞ってしまった。
「桔都、あれ、いいの?」
「あー……悪い、戻るわ。あとで瑞のクラス見に行くな」
「うん!」
気づけば教室の前方にいた女子たちと、廊下の外から桔都を見ていた男女の視線がこちらに突き刺さっている。「誰あの女……男?」という言葉が聞こえてきて、ちょっと申し訳なくなった。
(すみませんねぇ、男らしくもないモブ顔で)
学校の桔都はみんなのものなんだろう。でも家に帰れば瑞だけの弟だ。
向けられる嫉妬の視線を無視して、瑞は撮影エリアを下りた。
衣装を脱ぐとメイク落としシートとやらで顔をさっぱりさせ、秀治と友人のクラスでやっている喫茶室に向かう。秀治は考え事をしているのかしばらく喋らなかったけど、文化祭の騒々しさがあっという間に違和感を押し流していく。
後夜祭まで、めいっぱい楽しもう!
瑞の順番が回ってきて展示監視員をしている教室に、華やかな男女三人組がやってきた。華やかさの定義は人によると思うが、総じて顔が整っていてお洒落、かつ男子は背が高く、女子はメイクもヘアセットも完璧だ。
「なにここ、写真展?」
「おー。本田の写真を見たくてさ、付き合ってよ」
瑞のクラスにいる華やか仲間の写真を見に来たようだ。喋っている男女の後ろに立つ桔都が、ちらりと視線を向けてきて瑞にウインクをした。
(うっ……さすが、かっこいい!)
薄暗い教室なのに、特大の流れ星が瑞のもとへ届いたみたいだった。ウインクが似合う男子高校生なんて、芸能人以外で見たことがない。ちなみに瑞はどうやっても両目を瞑ってしまうタイプの人間である。
一緒に暮らしていても憧れの気持ちを抱いてしまうのは仕方がないと思う。あんなに繊細で内向的な一面を持っているにもかかわらず、これほど華麗に変身できる桔都は本当にかっこいい。
桔都は瑞の写真を見つけたらしく、唇の両端が上がっていく。ぶっちゃけ暇なので、瑞はそっと立ち上がって隣に立った。
「いい写真じゃん」
「へへ、ありがと。星凪に感謝しないとね」
“Summer Memories”とタイトルに書かれた写真は、カリフォルニアディズニーで星凪に撮ってもらった家族四人の後ろ姿だった。自分で撮った写真じゃないんかいと突っ込まれそうだとは思ったけど、文化祭なんてなんでもアリだ。
後ろ姿でも桔都だとわからないような写真を厳選し、セピア風の加工をかけてある。郷愁を誘う懐かしさとポップなお洒落さが共存した写真に、友人からの評判は上々だ。両親も素敵だとしきりに褒めてくれた。
文化祭が終わったら家に飾ろうと思っているくらい、瑞もお気に入りの一枚だ。
へらへら笑っていると、桔都がなにかに気づいたようで瑞の頭へと手を伸ばす。どうやら写真館で使ったピンがまだ残っていたらしい。外されると前髪がひと房落ちてきた。
「まだついてた。気をつけろよ」
「まじか、サンキュー!」
なにに気をつければいいのか分からなかったけれど、頷いておく。
――そのとき、ゾクッと背筋に嫌な感じが走って瑞は背後を振り向いた。
(……ん?)
桔都と一緒に来ていたボブヘアの女子が瑞を睨んでいる……気がしたのは一瞬で、彼女は「もう牧のライブ始まっちゃうから行こ!」と二人の男子に声を掛けている。
桔都と目線だけで「ばいばい」と言い合って、瑞は隅っこの椅子に移動する。画廊風の教室は薄暗くて、桔都と話せた満足感もあり、ちょっとだけ居眠りしてしまった。
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