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瑞の学校の後夜祭は、運動場で開催される生徒会主催の盆踊りだ。
櫓を設置し提灯が吊るされた夏祭り全開の雰囲気のなか、流行りのアニメソングやポップスに合わせて踊る。緩いなりに最後の最後まで本気で楽しむのがこの高校の伝統で、この文化祭に憧れて受験を決める中学生もいるのだそうだ。
しかし後夜祭で一番盛り上がりを見せるのが、裏で行われる告白大会だった。そこかしこで誰かが誰かを呼び出し、呼び出され、密やかに告白して恋が実ったり破れたりする。
一年のうちカップル成立数が一番多い日と言われているとかいないとか。誰が言い出したんだろ、これ。
瑞たち地味グループには縁がないものかと思いきや、「俺、好きな子に告白してくるわ」と秀治がどこかへ行ってしまった。秀治が気になっている子の話は時々聞いていたけれど、同じクラスのため振られたときにキツイと本人が言っていたのに。
多分、勝算があると見込んだのだろう。むしろそうであってくれ……!
瑞が心の中で告白の成功を祈っているうちに、他のメンバーは「うぉ~! 秀治がんばれ~!」「彼女できたらムカつくけど、がんばれ~!」などと叫びながら櫓の方へ踊りに行ってしまった。好きなアニソンが流れ始めて、テンションが変な方に振り切っているらしい。
瑞は好きな人こそできたことはあるものの、女子と付き合いたいとあまり具体的に考えたことがない。
人との繋がりの儚さや、人は簡単に豹変するということを、親の離婚から学んでしまっていることが原因かもしれない。もちろん、悲観的になっているつもりはないのでいつかは……!
だから友だちに彼女ができて悔しいと思うこともない。それよりも秀治が休み時間や休日に会ってくれなくなったら嫌だな、と感じてしまうのだ。
自分はお子様なのだろうか。
「はぁ、なんか寂しいな……」
祭りの終わりって、なんだか切なくなる。文化祭も夏休みの延長のような気がしていたから、週末を挟めば今度こそ日常の学校生活が戻ってくる。
家族と過ごす時間が増え、特に桔都とたくさん遊んだ一ヶ月。幸せすぎて、なにかの拍子で壊れてしまうんじゃないかと少し怖いくらいだった。
瑞がぽやんと考え事をしながら立っていると、視界の端に桔都が見えた。瑞は桔都ならどこにいてもすぐ見つけられる。
いつもの取り巻きはおらず、制服姿に着替えたらしい桔都はひとりで校舎の方へ向かって歩いていく。
どこへ行くんだろ? 無性に気になって、瑞の足は追いかけるように動いた。
運動場を出るとあちこちにくっついた人影があって、手を繋いだり、キスをしてるっぽい人たちもいてビクッとする。祭りの雰囲気がそうさせるのか、みんな大胆だ。
桔都は玄関から正面にある広い交流スペースに入って行った。この段階になってようやく、桔都が誰かに呼び出されたもしくは呼び出したんじゃないかと思い至る。
(追いかけてきちゃ、駄目だったかも……)
「佐倉、話って?」
呼び出された方だったようだ。立ち聞きは良くないとわかっているものの、桔都の声を聞いて瑞はスッと目の前が暗くなっていくのを感じていた。
佐倉はテニス部の女子で、誰もが認める美人さとそのお淑やかさから姫と呼ばれている。実際家がお金持ちらしく、立ち居振る舞いも高校生とは思えないほど洗練されている。
「私ね、もうわかってると思うけど……桔都くんのことが好きなの。私たち、付き合わない?」
いやだ、聞きたくない。目眩がして、思わず壁に体を預ける。
瑞の脳裏に、桔都と佐倉が隣り合って並ぶ姿が浮かんだ。……お似合いすぎる。
二人が付き合ったら、さっき見たカップルたちみたいにくっついていちゃいちゃするのだろうか。放課後や休日にデートをして、家族とは違う特別な関係を築いていくのだろうか。
(佐倉さんが、桔都の、『特別』に……)
瑞は足元が抜け落ちたような不安に、泣きそうになった。なんとか足を踏ん張って、外に向かって歩き出す。桔都の返事を聞く勇気はない。
秀治のときには感じなかった独占欲が身の内に渦巻いて暴れ出しそうだ。どうして桔都のときだけこんな気持ちになるのか、わからない。
胸は杭が刺さっているみたいにズキズキと痛み、背筋には氷を当てられたように寒気がして、全身がどんどんと冷たくなっていくような気がした。
(この気持ちは……なに……?)
外に出ると、夏のけだるさを纏った風が瑞を包み、移ろいゆく季節の予感が心を揺り動かす。運動場の盛り上がりと、密やかに楽しむ恋人たち。恋の生まれようとしている瞬間。
瑞はどこにも属せない孤独を感じ、しばしそこで立ちすくんでいた。
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