君のために異世界転移したってこと

おもちDX

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6.

 息苦しくなってきて小声で懇願した俺を見て、クインスは口を覆っていた手を頬にずらした。腹に回っていた手は服の中に侵入してくる。
 その顔には勝利を確信したような、優越の微笑みが浮かんでいる。腹から全身にかけて肌が粟立つ。

「可哀想なのために、の君がひと肌脱ぐ番だ」
「あ……」

 クインスの手の意図をわかっていたものの、事実を知りたいが為に我慢していた。しかし彼の望むものとそれに付随する餌を見せつけられて、俺は躊躇った。
 俺には神子の力もないし、貴族の持つような権力もない。想を救うためには、クインスに身を任せるのが最短ルートに思えてくる。

「ふふふ、ずっとセイ君に触れたいと思ってたんだ……」
「っひ」

 頬擦りされて、喉が引き攣る。初めてが好きでもないやつで、しかも男に掘られるなんて……

「無理無理無理無理!!! きめぇよオッサン!」

 危なかった……うっかり騙されるところだった。年若い青年に性行為を迫ろうとする奴が、年若い神子を可哀想だから救いたいだなんて矛盾しすぎだろ。

 俺はクインスの腕の中から身体を捻って抜け出そうとした。だが恐ろしいことに、全力の拒否は全く響いていない。頭を振り、両手両足を暴れさせてもびくともしない身体にぞっとする。
 服の中に入った手は俺の薄っぺらい胸をまさぐり、耳元に生温い息が拭きかかる。気色悪さに吐き気がした。

「やめっ、やめろ! おい! さっきの騎士、廊下にいるんだろ! 助けてくれ!!」
「かぁわいい。はぁっ、抵抗されると余計燃えるんだ……セイ、あの騎士は助けに来ないよ? 爵位は私のほうが遥かに上だからね」

 クソ身分制度め!! 尻に硬いものが押し付けられているのを感じる。え、まじで俺、こいつにヤられるのか……?
 嫌々でも抱かれたらワンチャン想を助けてもらえる? それなら、もう……

 圧倒的力の差に、一瞬諦めかけた。クインスは俺の身体から力が抜けたのを感じ取りさらに調子に乗る。
 壁に身体を押し付け、また顔を寄せてくる。頬を紅潮させた男は目を閉じ、タコのように唇を突き出した。

「んーーー……」
「やっぱキメェ! てめぇとヤるなら想の方が何万倍もマシだ!」

 ――ゴンッ、ガッッ

 「先輩!!!」

 俺がクインスに頭突きをかますのと、いつの間にか来ていた想がクインスの頭に椅子を振り下ろしたのは同時だった。同時に二方面からの攻撃はかなり効いたらしい。クインスの身体はドシン! と音を立てて床に倒れた。
 
 え、やば。死んだ……? と思ったものの、キショいキス顔のまま幸せそうに目を回していたので放置することにする。正当防衛だろ。

「逃げよう。――って、想! 血が!」
「こんなのは平気です。成悟先輩こそ、どうしてここに!? 大丈夫なんですか!?」

 床に血が流れていることに気づき、一瞬クインスかと思ったが……見れば出どころは想の脚だ。長い服の裾に隠れているけど、無理やり剣を引き抜いてきたに違いない。俺が訊いても、想もテンパって質問してくるから会話は一向に進まなかった。

「とにかく、部屋に戻ろう。が見つかったらどう考えてもやばい。侯爵だってさ」

 つーかこの状況言い逃れできなくない? 外には、俺よりクインスに味方する騎士もいるはずだ。
 またパニックに陥ろうとしたとき、想が俺の手を引いた。顔は青褪めているが、「大丈夫です」と小さく微笑んで外へと連れ出す。

「きみたち、ここで見たことは他言しないように言われているね? 中の男は適当に放りだしておいてくれ」
「は!」

 ……神子の権力すげーじゃん。毅然と騎士に命令する想を見て、そうだこいつはちゃんとした奴だったんだと思い出す。ちょっと俺の前では様子がおかしいだけで。
 いまの出来事も、想の力があればなかったことにできるのかもしれない。だってこいつはこの国を、言葉どおり身を削って支えているのだから。

 そのまま真っ直ぐ部屋に戻ろうとした想を引き止めて、俺たちは庭からこっそりと部屋に戻った。脚を怪我している奴に木登りは無理かと思ったけど、意外にも簡単に登ってきたのでちょっと悔しい気持ちになる。

「まず手当てしよーぜ」

 想をソファに座らせ目の前に座ると、ヒィっと情けない声が上がる。またいつもの発作だと無視して無駄に長い脚を確認すると……脹脛ふくらはぎにあった傷はほとんど閉じ、血は完全に止まっていた。

「平気だって言ったじゃないですか……それで、いま来たところから抜け出してきたんですね? 成悟先輩」
「すげーな神子の体質……。よし、走れるなら逃げよう!」
「は? え、な、何言ってるんですか! 逃げる必要がどこに……さっきのことならなんとかしますよ!?」

 頭は良くても馬鹿だなこいつ。自分が搾取されているどころか、俺に王宮での生活を与えられて感謝とかしているに違いない。

「俺はよくてもお前は駄目だろ。なぁ、ずっと青い顔してんじゃん。痛くないわけじゃないんだろ? 神子として喚ばれたからって、お前は優しすぎ。平気であんなことさせるこの国はおかしいっつーの。言うことを聞くから付け上がらせるんだ」
「で、でも……」
「俺がここを出たいって言ってるんだよ。想はついてきてくれないのか?」
「行きます!!」

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