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どうしようどうしよう! と内心右往左往していたのに、ベッドに入ったとき何もなかっただけで物足りなさを感じてしまうんだからわがままな心だ。
つい眼の前にある唇を凝視してしまう。少し薄い、このきれいな形の唇が自分の唇に触れたと考えるだけでドキドキして、浮つく気持ちを止められない。
ルシアーノとのキスは、なんともう三度目だ。口にされたのは二度目だけど……はじめて会った日と違って、ここ最近のものが愛情のこもったキスであることは経験の少ないミルファにもなんとなく分かっている。
家族なんだからキスくらい普通のことだ。愛情と言っても親愛の情。それでもミルファにとっては恋心を抱いた相手からのキスであり、行動からルシアーノの心持ちも変わってきたように感じる。
あわよくば、同じ気持ちになってくれないかなぁ、なんて。高望みするようになったのはルシアーノのせいだ。
深い寝息が聞こえてきて、もう彼が眠ってしまっていることがわかる。ミルファは思い切って互いのあいだにある僅かな距離を詰め、身体を寄せた。
これくらい、ラッチ湖で経験しているからいいはず。いまは服も着ているし。なんて言い訳を重ねながらその体温と柔らかな香りを堪能した。
「んっ」
そのとき、ルシアーノの腕がミルファの背中に回された。目は閉じているから無意識なのだろう。ミルファが近づいた分よりぐっと胸に強く抱き寄せられ、彼の鼻がすぅーっとミルファの首元で息を吸う。
「ちょ、ちょっと吸わないでよ……あっ」
もしかして汗臭い? 意図的でないにしてもその行動はミルファを慌てさせた。ルシアーノの高い鼻がすりすりと擦り付けられるからくすぐったい。挙句の果てにはぺろと舐められ、ミルファはびくんっと身体を跳ねさせた。
「え、まって。あ! ん、んんっ……」
いつぞやの再現のように、ルシアーノの手がミルファの身体をなぞっていく。こんなのただの愛撫だ。好きな相手から与えられる刺激は、すべてが甘く感じられる。
舌は首筋や鎖骨をツーっと舐め、食べ物だと思っているのかときおり歯を立てられる。ぞくぞくと震えの湧き上がってきたミルファは首を反らし逃げようとするものの、絶えず押し寄せる快感に力が抜けてばかりだ。
背中に回っていた手は腰を撫で、ついには尻の柔らかさを確かめるように揉んだ。
「ひゃぁっ!!」
思わず大声を上げると、その声に驚いたルシアーノがようやく目を覚ました。顔を上げて、ぱちぱち……と瞬きをふたつ。
自分の手がミルファの尻に触れていることに気づいたのが先か、ミルファの顔が真っ赤で、涙が一粒流れたことに気づいたのが先か。
ルシアーノはバッと身体を無理やり剥がし、寝台から転げ落ちそうになりながらも両手を上げ降伏の姿勢を示した。
「っ……!? すまない!!」
「ルシアーノの……ばか!!!」
ひどい。そんなあからさまにショックを受けた顔をしなくたっていいのに。こっちは怒涛の展開にいっぱいいっぱいで、それでも求められるなら嬉しいと、思ってしまったのに。
ルシアーノの顔は真っ青だった。ミルファの首筋についた薄い噛み跡も見えたのかもしれない。
「そんなつもりは……全くないんだ!」
「……床で寝てください」
「ッ。すまない……」
ミルファとは思えないほど地の底を這うような声に、ルシアーノはさすがに驚いた表情をしていた。逆らうこともせず、もう一度小さく謝って寝台を降りる。
寝ぼけた相手の行動にまんまと反応してしまった自分が恥ずかしい。ルシアーノの反応も地味に傷ついた。
とはいえ、一度屋敷を追い出しかけてしまった記憶が頭をもたげ「やっぱり僕はソファで寝る。ルシアーノはこっち」と寝台を指して言い直す。
薄い枕をルシアーノに向かって投げ、自分もひとつ枕を抱えた。ついでに温かそうな毛布も一枚拝借して、文句を言わせる隙も与えずにソファへと横になった。
……八つ当たりだと分かっているけど引き下がれない。小さなソファはミルファでさえ横になると足がはみ出るが、脚を抱えるように縮こまってなんとか収まった。
ルシアーノの体格だとこうはいかないだろうから、やっぱりこっちで正解だ。
顔に痛いほどの視線を感じて、きつく目を閉じる。ついでに毛布も被って「おやすみ」とくぐもった声で挨拶した。しばらくは布同士の擦れ合うような音が聞こえたものの、すぐに静かになる。
そっと毛布から顔を出し寝台の方を確認すると、横になったルシアーノの姿が見えてほっとした。彼は寝付きが良さそうだからきっとすぐに寝てくれる。
ミルファはまだまだ寝られそうになかったから、ひとりの時間がほしかった。熱の灯った身体を黙って鎮めるのには、時間がかかりそうだ。
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