40 / 95
17-3
翌日からは通常どおりの生活に戻った。以前ルシアーノに貰ったお茶をこっそりと買い足したり、使用人が薬師に聞いた滋養に良い食べ物などがさりげなく食卓に並んだり。健康のための努力は続けている。
寒さも厳しくなってきたので遠出はしばらく控えようと思う。その代わりと言っては何だが、王都の貴族は冬も夜会に忙しいのだ。
数は絞っているものの、ルシアーノと一緒に片手で足りないくらいには夜会に参加している。初回が兄の登場で後味の悪いものだったためルシアーノ抜きで参加すると伝えたのだが、彼は頑としてミルファをひとりで行かせなかった。
とはいえ、運良くあれ以来家族には会っていない。あのとき兄はルシアーノに怯えているように見えたから、避けられているのかも。
今日参加しているのは侯爵家主催、立食形式のダンスパーティーだ。規模が大きいため、残念ながら今回はミルファの兄夫妻に加え、両親を引き連れた妹まで見えたのでウンザリしてしまった。とにかく無視を決め込むことにする。
ミルファはルシアーノに踊ってみる? と誘いをかけたものの、申し訳なさそうに断られてしまった。
「すまない……ダンスは踊ったこともなくて」
「あ、謝らないで! 今度屋敷に先生を呼ぼうよ。僕が相手役してあげるからさ」
ルシアーノはダンスレッスンさえも受けたことがないのかもしれない。ミルファは自分がそこまで思い至らなかったことを反省した。
よくよく考えてみれば、ルシアーノと踊るなら体格的に自分が女性役だろうし、ミルファにも練習が必要だ。
乗馬もあっという間に習得した彼なら、すぐにダンスもできるようになるだろう。きっと様になって格好いいだろうなぁ。
目立つのは覚悟の上で、いつか一緒に踊りたい。男同士で踊るペアは少ないし、相手が平凡な自分であることはこの際置いといて。
演奏家の奏でる優美な音楽を聴きながら、ルシアーノと一緒に食事の並ぶテーブルへと移動した。贅を凝らした食事が煌びやかに並び、踊る花々よりもミルファの目を楽しませる。
ミルファが自分の皿に好きなものを乗せているあいだ、ルシアーノは給仕から受け取った酒を口にするだけだ。彼はいつもそう。
いつもミルファと同じ量しか食べないことからも分かるとおり、元々食は細めなのだが、パーティ会場ではさらに食欲をなくすらしい。
「まだ全然慣れない?」
「うん、まぁ、少なくとも時間の経過は読めるようになってきたかな……」
「あはは。注目を浴びるのはもはや宿命だよ。こんなに格好いい、んだ……もん……」
つい本音で容姿を褒め称えてしまい、言葉が詰まる。あれ、これくらい伝えたことあるはずなのに。
急に恥ずかしくなってきて、頬を淡く染めながらミルファは目を逸らした。今日も眩しいほどタキシードが似合っているのは言うまでもない。
そのとき、ルシアーノの手がミルファの顎に添えられ視線を戻される。見上げた先にはなぜか楽しそうに目を細めた美丈夫。
「ミルファがそう思ってくれるなら、嬉しいな」
「ひぇ」
(色男すぎる!!!)
「失礼、ミルファ卿かな?」
ミルファなんかに向けて垂れ流された色香に、情けない声が漏れた直後。パラティーノ伯爵家の当主に声を掛けられた。ロマンスグレーの髪が似合うダンディな御仁だ。
「閣下。ご無沙汰しております」
「君だね!? セリオ侯爵の……驚いた! 噂を聞いて半信半疑だったが……いやはや」
ついに来た。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。