41 / 95
18-1.毒の侵食
これまでミルファは夜会で結婚の報告こそしていたものの、相手がセリオ侯爵の未亡人だとは言っていなかった。しかし侯爵の未亡人が誰かの婚姻の申し出を受けたという噂は、高位貴族や申し出を蹴られた貴族たちから広がっていたのだ。
噂が二人を結びつけるのも時間の問題だった。別に隠そうとしていたわけでなく、彼が夜会に慣れるまでは騒がれたくなかったというのが一番の理由。本人も慣れたとは言いたくないだろうけど、まぁいい時期だといえる。
ミルファは伯爵の驚愕に構うことなく、にこやかにルシアーノを紹介した。
「彼は私が迎えた伴侶、ルシアーノです。これからは夫婦ともどもよろしくお願いします」
「ルシアーノか。いや実は、うちの息子も婚姻を申し込んでいたんだよ」
「以後お見知りおきを。……それは失礼しました」
「いやはや……ミルファ卿が射止めた理由がわかったよ。息子はアルファだからね」
なるほどぉ。ミルファは伯爵と歓談するルシアーノの隣で、ひとり訳知り顔で頷いてしまった。申し出を蹴られた人たちは、恨みこそしないだろうが相当な驚きを感じるはずだ。
誰もが、未亡人がここまでアルファっぽい偉丈夫だったとは思っていなかったに違いない。実際にアルファだし。
伯爵は話しながらもチラチラ、ミルファとルシアーノを見比べている。最終的にどうしてこんな、どう見てもベータな男と? 彼なら選り取り見取りだろう? と顔に書いてある気がする。
ルシアーノの表情も優れないことに気づいて、ミルファは目上だろうとあえて横槍を入れ「ごきげんよう」と会話を切り上げた。
バルコニーが遠かったのでひと気の少ない会場の隅へと移動し、ルシアーノを見上げて話しかける。その瞳には静かな怒りが燃えていた。
「大丈夫? なにか気に障ることいわれた?」
「俺は消去法でミルファを選んだんじゃない」
「え?」
「頷いていただろう。勘違いしてほしくないんだ、きみには」
頭の中で伯爵の言動を思い返し、意味がわかった。なんだか目の奥が熱くなってくる。……ルシアーノはミルファのために怒っているのだ。
伯爵に悪気はないものの見下されていることはわかっていて、ミルファ自身もそれを当然と受け入れていた。ルシアーノが怒っているのは伯爵の態度に対してかもしれないが、ミルファの諦念にもきっと気づいている。
困ったなぁ、本当に。ミルファを価値ある人間として扱うのはこの男くらいだ。
どんな表情をすればいいのか分からなくて、眉尻を下げたままくしゃっと顔を歪ませて笑う。
ミルファにはルシアーノしかいないけど、ルシアーノには取れる手がたくさんある。たとえセリオ侯爵が亡くなって平民に戻ったとしても先立つお金はあったはずだし、オメガの独身者がいる貴族の家に婿養子として入ることだって容易だっただろう。
それなのに、ルシアーノはミルファを選んだ。その事実が自分にとってどれだけ求めていたものなのか、ミルファ自身気づいていなかった。
ただただ嬉しくて、幸福感に包まれる。もしかしたらこの想いも……報われるときが来るかもしれない。あり得ないと分かっているけど、ちょっとだけ期待することを許してほしい。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。