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翌朝少し寝坊して起きたときには、ルシアーノはもう出かけて居なかった。ひとりで朝食をとり、ディードーに促され書斎へ入る。
彼は早朝から私用で出かけていて、ミルファが遅い朝食を食べている間に戻ってきたのだ。表情が強張っているし、なにか話があるらしい。ご家族になにかあったのかな……?
「ミルファ様……先日ご依頼いただいた、調査の件です。まことに信じがたいことなのですが……」
そう切り出されて、ミルファは自分が家令にしたお願いのことを思い出した。ディードーに依頼したことで気が抜けて、ちょっと忘れていたとは言えない。
しかもその口ぶりに、まさか……と思いミルファの表情も強張った。
「い、嫌だなぁ。なんでそんな深刻な顔してるの? 調べてって言ったけど、司教様にあのとき『ご結婚おめでとうございます』ってはっきり言われたんだから」
「ミルファ様」
「……いやだ」
「婚姻は、受理されていませんでした……」
「うそだ……!」
視界が歪み、否応もなく潤んで揺れる。兄と妹に言われたときから、もしかしてとは思っていたのだ。でも、ルシアーノが信じて欲しいと言ったから。
――信じてたのに。
担当の司祭が出張中で、ディードーは理由まで教えてもらえなかったという。宣誓に他人の横槍は入れられないので、実質理由は二択だ。書類の不備か――ルシアーノが止めたか。
これまでの関係が、昨日のキスも含めて虚構だったと知り、ミルファは茫然とした。ふらりと立ち上がり、部屋を出ようとする。
「ミルファ様! お気をしっかり! なにか深い理由があるのです。私にも……ルシアーノ様が人を騙すような方だと思えません」
扉の前でディードーに引き止められ、振り払う気力もなく立ち止まる。
「でも、騙されてた……」
「本人に訊いてみましょう」
「本人が、今は話せないと言ったんだ! 僕に惚れてるなんて口説いて、誤魔化されたんだ!」
つい、声を荒げてしまう。もう自分の胸の内だけで悩むのは限界だった。
「…………」
「生家に行く。僕の妹がルシアーノと婚約するらしい」
「はっ?」
初めて聞く話のオンパレードでぽかんとしてしまったディードーに、先日の夜会の顛末について話す。全てを聞いた彼は「ルシアーノ様の目的がわかりません……」と心底困ったように眉尻を下げた。
ミルファにもわからない。
だから会いたくないけど、家族に会って尋ねるのが一番早いだろう。ルシアーノに訊いたとしても、いまは何を言われても信じられないし、どうしてもミルファは本人から真実を突きつけられるのが怖かった。
ミルファは単身乗馬で向かおうとしたが、ディードーに止められ二人で馬車に乗った。
空は分厚い雲に覆われていて、日の光が通らない。何も降ってはいないものの空気は冷たく、心には不安が降り積もっていくばかりだ。
もう何年も足を踏み入れていない生家だ。一緒に来てくれる人がいるだけで心強いと、今さらながら思った。
(結婚できていなかったと知って、僕はどうすればいいんだろう……)
ルシアーノはもちろん分かっていてミルファと暮らしていたのだ。
なにも知らないふりをしてルシアーノと暮らせるの?
――僕たちは……他人なのに?
彼は早朝から私用で出かけていて、ミルファが遅い朝食を食べている間に戻ってきたのだ。表情が強張っているし、なにか話があるらしい。ご家族になにかあったのかな……?
「ミルファ様……先日ご依頼いただいた、調査の件です。まことに信じがたいことなのですが……」
そう切り出されて、ミルファは自分が家令にしたお願いのことを思い出した。ディードーに依頼したことで気が抜けて、ちょっと忘れていたとは言えない。
しかもその口ぶりに、まさか……と思いミルファの表情も強張った。
「い、嫌だなぁ。なんでそんな深刻な顔してるの? 調べてって言ったけど、司教様にあのとき『ご結婚おめでとうございます』ってはっきり言われたんだから」
「ミルファ様」
「……いやだ」
「婚姻は、受理されていませんでした……」
「うそだ……!」
視界が歪み、否応もなく潤んで揺れる。兄と妹に言われたときから、もしかしてとは思っていたのだ。でも、ルシアーノが信じて欲しいと言ったから。
――信じてたのに。
担当の司祭が出張中で、ディードーは理由まで教えてもらえなかったという。宣誓に他人の横槍は入れられないので、実質理由は二択だ。書類の不備か――ルシアーノが止めたか。
これまでの関係が、昨日のキスも含めて虚構だったと知り、ミルファは茫然とした。ふらりと立ち上がり、部屋を出ようとする。
「ミルファ様! お気をしっかり! なにか深い理由があるのです。私にも……ルシアーノ様が人を騙すような方だと思えません」
扉の前でディードーに引き止められ、振り払う気力もなく立ち止まる。
「でも、騙されてた……」
「本人に訊いてみましょう」
「本人が、今は話せないと言ったんだ! 僕に惚れてるなんて口説いて、誤魔化されたんだ!」
つい、声を荒げてしまう。もう自分の胸の内だけで悩むのは限界だった。
「…………」
「生家に行く。僕の妹がルシアーノと婚約するらしい」
「はっ?」
初めて聞く話のオンパレードでぽかんとしてしまったディードーに、先日の夜会の顛末について話す。全てを聞いた彼は「ルシアーノ様の目的がわかりません……」と心底困ったように眉尻を下げた。
ミルファにもわからない。
だから会いたくないけど、家族に会って尋ねるのが一番早いだろう。ルシアーノに訊いたとしても、いまは何を言われても信じられないし、どうしてもミルファは本人から真実を突きつけられるのが怖かった。
ミルファは単身乗馬で向かおうとしたが、ディードーに止められ二人で馬車に乗った。
空は分厚い雲に覆われていて、日の光が通らない。何も降ってはいないものの空気は冷たく、心には不安が降り積もっていくばかりだ。
もう何年も足を踏み入れていない生家だ。一緒に来てくれる人がいるだけで心強いと、今さらながら思った。
(結婚できていなかったと知って、僕はどうすればいいんだろう……)
ルシアーノはもちろん分かっていてミルファと暮らしていたのだ。
なにも知らないふりをしてルシアーノと暮らせるの?
――僕たちは……他人なのに?
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