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21-1.心の父はふたりいる
屋敷に手紙を届けてもらうというポモナを見送り、ぼうっと座っているとミルファに来客があった。
「大丈夫かい? 目覚めたと聞いて居ても立っても居られなくて……」
「っ、長官!」
部屋に駆け込んできたのは、息を乱したフェブルウス長官だった。目の前で倒れてしまったから、ミルファの様子は逐一報告をもらえるようにしていたらしい。
そこまでミルファのことを心配してくれていたなんて申し訳ないけれど感激した。
長官はディードーとはまた違った、ミルファの父親のような存在だ。侍従だったミルファを見込んで局に引き立ててくれたのがこの人で、感謝しているし常に尊敬している。
彼を前にすると、ミルファは身の内で膨らんでいた不安がぽろりと口からこぼれてしまった。自然と目に涙が浮かぶ。
「長官……どうしましょう。僕……オメガになっちゃいました」
「……そうか。そんなに不安そうな顔をしてどうしたんだい? ミルファくんがミルファくんであることに変わりはないだろう? 旦那さんに支えてもらったらいいじゃないか」
「うぅっ……もう別れたんです……」
「は? えーっ! ちょ、ちょっと泣かないで」
優しく真摯に励ましてくれたのに、最後のひと言はミルファの心を抉った。ぐずぐずと泣いても長官を焦らせるだけだと分かっているけど、情けなくて涙が止まらない。
あまり大っぴらにすることではないのかもしれない。けれどミルファは誰かに寄りかかりたくて、全部打ち明けてしまった。
「婚姻が認められてなかったんです。それを彼はずっと僕に隠していて……。しかも今度はうちの妹と婚約するみたい。もう、訳がわからなくて……家を、追い出しちゃいました」
「……うーん……?」
長官は顎に手を当てたまま身体が傾くほど首を傾げた。納得いかない、というように眉間に深い皺まで寄っている。
「ミルファくんが選ばれたのは、間違いないはずなんだけどなぁ。それにミルファくんの家族って、申し訳ないけど、その……」
「あまり関わりたくない相手ですね。僕にとっては」
「そう。“資金繰りが危ないから見張っておこうね貴族リスト”の筆頭に、国王と宰相が挙げてたよ」
「…………」
なんですかその不穏なリストは。長官が国王や宰相と親しい仲であるという噂も、王宮では流れている。ミルファは気にしたことがなかったが、これは本当である可能性が高い。
長官いわく、ルシアーノの行動には裏がありそうだ。なんだかおかしい、としきりに繰り返していた。
(いや、ずっと裏がありそうだと思っていた結婚で、どんでん返しされたとこなんですけどぉ!?)
「おかしいといえば、エトワが……」
「え、エトワで何かあったんですか?」
「いや、病み上がりの人に仕事の話はやめよう。ミルファくんの席はちゃんとあるから、落ち着くまでゆっくり休んでほしい。……分かっているだろうけど、王宮にはアルファが多い。行動には気をつけることだよ」
ミルファは深刻な表情で頷いた。貴族のオメガは人気がある。か弱いオメガを狙った事件も時々あるため、基本的にひとりでは出歩かないのだ。
自分がオメガになったところで魅力が出てくるはずもないが、後天性となると不躾な視線も集まるだろう。王宮では変に目立たないよう気をつけたい。
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