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翌日になってポモナを連れ、自宅に帰った。倒れていた間の記憶はないものの、なんだか久しぶりに帰ってきたような感慨がある。ディードーはたった数日で何歳も老けたように見えたし、相当な心労を与えてしまって申し訳ない。
さっぱりと身支度してから使用人たちを集め、ミルファは事実を打ち明けた。
「みんな、驚かないでね。――僕は後天性オメガだったらしい」
「「「……ええっ!?」」」
「あはは、驚くよね……自分でも信じられないけど、王宮の医官に診てもらったから事実だ。体質が変わってしまってこれからみんなにも気を遣わせてしまうと思うけど、よろしくね」
最後に他言無用でお願いして、みんな「当然です!」と頷いてくれたけれど、顔からは驚愕が抜けていない。使用人はみなベータだが、家族にオメガがいる人のところに集まり作戦会議のようなものを始めている。
ちょっと恥ずかしいけど、どこまでも主人思いで頼もしい。「私たちでミルファ様をお守りしよう!」って……別に守られるようなことないからね?
正直寝すぎで疲れていたミルファは、私室ではなく書斎へ向かった。ルシアーノがいれば問答無用で寝台に突っ込まれたかもしれないが、そこまで実力行使にでる者はもうここにいない。
ついてきたディードーはミルファが座るなり、もの言いたげな視線を寄越した。
「……ミルファ様」
「もう元気なんだから、家の仕事くらいさせてよ。とっても健康だって医官の先生にもお墨付きをもらったし。……心配かけて、ごめんね」
「はぁ……本当に、心配いたしました! ご自身のせいではないと分かっていますけど、ここのところ色々ありましたから……」
「なんていうか、怒涛の展開だよね。あはは」
夜会で家族と会って、ルシアーノに不信感を抱いて。信じると決めたのに調べてみれば婚姻は結ばれておらず、生家に行けばルシアーノがいるし。屋敷を追い出して、翌日にはぶっ倒れて二次性が変わってしまった。
精神的に疲れていた。とはいえ使用人のみんなに支えられ長官にも不安を吐き出して、ミルファとしてはどこかスッキリしている。
これ以上嫌なことはないだろうってくらいどん底だ。つまり、これからは上がっていくだけ。
「ルシアーノ様に、知らせなくていいんですか……?」
「なにを? 僕がオメガになったから戻ってきてって言うの?」
「いえ……申し訳ありません。もちろん彼がミルファ様を騙していたことには憤りを感じます。でも、なんだかそれだけではない気がして……」
ルシアーノの話になると感情が制御できなくて、つっけんどんになってしまう。ミルファはこっそりと反省しつつ、ディードーの意見に耳を傾けた。彼もミルファも、ルシアーノの性格を知っているからいまだに憎みきれないのだ。
「うーん、長官もずっと首傾げてたんだよねぇ。ちょっと調べてみたい気もする」
実はもっと裏があるんじゃないか? あのときは怒りに任せてしまって、ルシアーノの言葉を聞かなかった。
自分に都合のいい答えが隠れているとは思えないにしても、真実を知りたい気持ちはずっとある。
(ルシアーノは、どこに行ったんだ……?)
まだ婚約段階でミルファの生家へ入ることって、あるだろうか? 早々に婚姻まで進んでいれば、あるいは。
それとも侯爵邸……? 色々と残務が残っていたのであれば、そのまま泊まることもあり得る。しかしもう彼の家ではないはずで、何日も滞在できるとも思えない。
侯爵と出会う前に住んでいた家もあるはずだが、こちらは見当さえつかない。徐々に知っていく過程だったとはいえ、もっとルシアーノのことを聞いておけばよかったとまた後悔してしまう。
ミルファは実質二つしかない選択肢を天秤にかけた。
「よし、侯爵邸に行ってみよう!」
「……本気ですか?」
「まずは手紙でお伺いを立ててみるよ。ルシアーノがいなければ、無視されるか断られるかするだけだろうし」
もう怖いものなどない! というのは嘘で、嫌な思い出しかない生家より未知の侯爵家に突撃したほうがマシかな……と考えたのだ。
もっとも、自分よりかなり高位貴族の家ではある。もしかしたらもう親類の人が住んでいるかもしれないけど、ここまで来たらもうどうにでもなれ! 精神だ。
やっぱり色々なショックは抜けきっていないのかもしれない。
ミルファは侯爵邸の執事に向けて手紙を書こうとした。まだ侯爵家には当主が立っていないようなことを、以前ルシアーノが言っていたからだ。
しかし内容に頭を悩ませる。ルシアーノに話があるから、そちらにいれば伺いたい……って怪しすぎて、いてもいなくても断られる案件じゃない!?
羽ペンを持ちながらウンウン唸っていると、ディードーが口を開いた。
「私に妙案があります」
「ほんと!? 任せたよディードー!」
手紙を家令が代筆することはよくある。ちょっと疲れてきていたミルファはパッと顔を明るくした。
二日間も寝込んでいた代償で、身体は本調子ではなかったらしい。ミルファは回復のため昼寝することに決め、手紙をディードーに譲った。
あとから内容を確認するのを忘れたな……と気づいたが、彼なら大丈夫かと気にしないことにした。
さっぱりと身支度してから使用人たちを集め、ミルファは事実を打ち明けた。
「みんな、驚かないでね。――僕は後天性オメガだったらしい」
「「「……ええっ!?」」」
「あはは、驚くよね……自分でも信じられないけど、王宮の医官に診てもらったから事実だ。体質が変わってしまってこれからみんなにも気を遣わせてしまうと思うけど、よろしくね」
最後に他言無用でお願いして、みんな「当然です!」と頷いてくれたけれど、顔からは驚愕が抜けていない。使用人はみなベータだが、家族にオメガがいる人のところに集まり作戦会議のようなものを始めている。
ちょっと恥ずかしいけど、どこまでも主人思いで頼もしい。「私たちでミルファ様をお守りしよう!」って……別に守られるようなことないからね?
正直寝すぎで疲れていたミルファは、私室ではなく書斎へ向かった。ルシアーノがいれば問答無用で寝台に突っ込まれたかもしれないが、そこまで実力行使にでる者はもうここにいない。
ついてきたディードーはミルファが座るなり、もの言いたげな視線を寄越した。
「……ミルファ様」
「もう元気なんだから、家の仕事くらいさせてよ。とっても健康だって医官の先生にもお墨付きをもらったし。……心配かけて、ごめんね」
「はぁ……本当に、心配いたしました! ご自身のせいではないと分かっていますけど、ここのところ色々ありましたから……」
「なんていうか、怒涛の展開だよね。あはは」
夜会で家族と会って、ルシアーノに不信感を抱いて。信じると決めたのに調べてみれば婚姻は結ばれておらず、生家に行けばルシアーノがいるし。屋敷を追い出して、翌日にはぶっ倒れて二次性が変わってしまった。
精神的に疲れていた。とはいえ使用人のみんなに支えられ長官にも不安を吐き出して、ミルファとしてはどこかスッキリしている。
これ以上嫌なことはないだろうってくらいどん底だ。つまり、これからは上がっていくだけ。
「ルシアーノ様に、知らせなくていいんですか……?」
「なにを? 僕がオメガになったから戻ってきてって言うの?」
「いえ……申し訳ありません。もちろん彼がミルファ様を騙していたことには憤りを感じます。でも、なんだかそれだけではない気がして……」
ルシアーノの話になると感情が制御できなくて、つっけんどんになってしまう。ミルファはこっそりと反省しつつ、ディードーの意見に耳を傾けた。彼もミルファも、ルシアーノの性格を知っているからいまだに憎みきれないのだ。
「うーん、長官もずっと首傾げてたんだよねぇ。ちょっと調べてみたい気もする」
実はもっと裏があるんじゃないか? あのときは怒りに任せてしまって、ルシアーノの言葉を聞かなかった。
自分に都合のいい答えが隠れているとは思えないにしても、真実を知りたい気持ちはずっとある。
(ルシアーノは、どこに行ったんだ……?)
まだ婚約段階でミルファの生家へ入ることって、あるだろうか? 早々に婚姻まで進んでいれば、あるいは。
それとも侯爵邸……? 色々と残務が残っていたのであれば、そのまま泊まることもあり得る。しかしもう彼の家ではないはずで、何日も滞在できるとも思えない。
侯爵と出会う前に住んでいた家もあるはずだが、こちらは見当さえつかない。徐々に知っていく過程だったとはいえ、もっとルシアーノのことを聞いておけばよかったとまた後悔してしまう。
ミルファは実質二つしかない選択肢を天秤にかけた。
「よし、侯爵邸に行ってみよう!」
「……本気ですか?」
「まずは手紙でお伺いを立ててみるよ。ルシアーノがいなければ、無視されるか断られるかするだけだろうし」
もう怖いものなどない! というのは嘘で、嫌な思い出しかない生家より未知の侯爵家に突撃したほうがマシかな……と考えたのだ。
もっとも、自分よりかなり高位貴族の家ではある。もしかしたらもう親類の人が住んでいるかもしれないけど、ここまで来たらもうどうにでもなれ! 精神だ。
やっぱり色々なショックは抜けきっていないのかもしれない。
ミルファは侯爵邸の執事に向けて手紙を書こうとした。まだ侯爵家には当主が立っていないようなことを、以前ルシアーノが言っていたからだ。
しかし内容に頭を悩ませる。ルシアーノに話があるから、そちらにいれば伺いたい……って怪しすぎて、いてもいなくても断られる案件じゃない!?
羽ペンを持ちながらウンウン唸っていると、ディードーが口を開いた。
「私に妙案があります」
「ほんと!? 任せたよディードー!」
手紙を家令が代筆することはよくある。ちょっと疲れてきていたミルファはパッと顔を明るくした。
二日間も寝込んでいた代償で、身体は本調子ではなかったらしい。ミルファは回復のため昼寝することに決め、手紙をディードーに譲った。
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