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初めての発情期が来るまでは仕事も休むと長官に誓ってしまったので、ミルファは開き直ってだらだらしようと思っていた。
……が、もともと家でじっとしているのは性に合わないのだ。
「ん~~~っもう! ひまぁ~~~っ!!」
「あらあらまぁまぁ、子供じゃないんですから。室内でできる遊戯とか、いかがですか? 信頼できるお友達でもお呼びして……ほら、昨日お手紙をくださったユノ様とか」
ソファの上で駄々をこねるミルファに、紅茶を淹れ終わったポモナが優しく諭す。思い通りにならないことが多すぎてミルファが子供っぽい一面を見せても、使用人一同は嫌な顔ひとつ見せないからすごい。
悲しいことにミルファにオメガらしい庇護欲を抱かせるような特徴が現れたわけでもなく、ちょっと筋力が落ちた程度だし。そういえば少し前から小さくなったとか言われてたもんな……と気づいたときは、男として落ち込んだ。
彼女の提案に、ミルファは下を向いて小さく首を振った。
ミルファが静養することになったと聞いたユノは真っ先に手紙をくれた。ついでに家までお見舞いに行きたいと書かれていたが……
(だって、ユノは、アルファだ……)
職場でもプライベートでも仲良くしているから、お互いの二次性は知っている。ユノにも番はいないし、いま会うのはよくないだろう。
ミルファも二次性が変わってしまったことを打ち明けないといけないが、友人だからこそ、話すのが怖い。
ユノとの関係性が変わってしまうんじゃないかと想像して、怯んでしまう。だからもう少し……時間が必要だ。
かつては自分がアルファやオメガだったら、こんなに悩むことはなかったと考えていた。でもそんなの勝手な思い違いだったことに気づく。
ミルファがベータだったからこそ、相手の二次性を気にせず付き合えていた友人も多いはずだ。それにたとえベータじゃなかったとしても、あの家族とは仲良くできる気がしない。
せめて、職場に復帰できたら。
ユノに心配をかけ続けなくて済むし、ミルファのもやもやもある程度解消するだろう。医官の先生は「そう待たずに発情期も来るはず」と言っていたけれど、オメガの発情期は約三ヶ月に一度だという。
もし三ヶ月もミルファが仕事に行けなかったら、来年の年俸が大幅に下がるかもしれない。
(というか……これから三ヶ月に一度は休暇を取らなきゃってこと!?)
「どうしよう。オメガってまずいよ……!」
「どうされました?」
「僕……みんなを養えなくなるかもしれない!」
「…………」
ポモナは部屋の反対側にいたディードーにそっと目配せをし、部屋を退出していく。ディードーと二人きりになり、ミルファは勘付いてしまった。え……まさか……
「みんな辞めちゃうの……!?」
「違います」
最悪の想像は一蹴された。彼は深いため息を吐いて「どうしてそうなるんですか」と呆れた顔を隠さない。
「だって、今までどおり働けなくなるってことだよ……?」
「ミルファ様の仕事ぶりなら、そう給金も変わらないはずですよ。長官様に下がると言われた訳でもないでしょう。それに……これは、口止めされていたことなのですが」
「なに?」
「実はルシアーノ様が、持参金をすべて置いていかれたのです」
「は……?」
ミルファは今さら知らされた事実に、ぽか……と口を開けることしかできなかった。
ディードーいわく、彼が出ていくときに「これは絶対に、置いていく」と譲らなかったそうだ。ミルファには落ち着いたら話してくれと言い、彼は去った。
おそるおそるその額を聞くと、ミルファは驚愕というより恐怖で息を引きつらせた。
「ひぇっ。ルシアーノ……お金持ちぃ」
そもそも持参金は嫁入りする人の父親が用意するものだ。ルシアーノに父親はいないから、自分の資産から出したのだろう。……罪滅ぼしのつもりかなぁ。
確かに別れた直後に聞かされていたら、ミルファはもっと怒っていたに違いない。でも今は、なんとも言えない気持ちになる。律儀というかなんというか。
「……とりあえず取っておこうか。返してくれとは言わないだろうけど。何年か経って僕の財力が怪しくなってきたら……ちょっと考える……」
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