後天性オメガは未亡人アルファの光

おもちDX

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 自信を持ってスッマには宣言したものの、現状外遊の予定がどうなっているのかもミルファは知らない。
 それでも、なるべく早く自分の口で伝えたいと思った。こんな話を聞いてしまったらじっとしていられない。領主は必ず、断罪されるべきだ。

 ミルファは危機を乗り切ったが、逃げられずに捕まったオメガの人たちがいる。十年に近い期間、彼らはどんなにつらい日々を送っているだろうか。無理矢理番にされ、好きでもない領主に孕まされていることだってあり得る。

 少し想像するだけでもつらく、自分のことのように苦しい。ミルファがきつく手を握りしめると、門を叩いたときにできた傷にズキンと痛みが走った。

「ぁっ……」
「ああ、手当てをしましょう。今日はここに泊まっていってください」
「お気持ちは嬉しいですが、すぐに王都へ帰ります。急いで、伝えないと……!」

 気が急いて、じっとしていられなかった。ルシアーノはここにいないと分かったから目的は達成し、新たな使命を得た。

 そもそも日帰りするつもりで出てきたので、帰らないと屋敷のみんなに心配をかけてしまう。もともと心配性な使用人たちだったがミルファがオメガになってからというもの、過保護に磨きがかかってしまったのだ。

 もっとも、ミルファがソファから立ち上がろうとするとスッマはこちらへ歩み寄り、肩を両手で押さえてきた。押し返して立とうとするも、腰が浮きもしない。

「あ、あの……?」
「駄目ですよ、ミルファさん。もう日は沈んでしまった。これから王都へ向かうのは危険です」
「でも、領主館に捕まっている人たちがいるんですよね!? 僕自身に力はないですが、上司なら宰相様に伝手を持っています。早く、助け出してあげないと……!」

 ぐぐっと足に力を入れるが、尻はソファに沈んだままだ。スッマはそれほど力がありそうではないのに、全く歯が立たない。
 焦りで頭の中がぐちゃぐちゃになって、泣きそうな心地だ。なんだか感情が制御できない。

 スッマはミルファの肩に手を置いたまま、目の前に屈んだ。

「ミルファさん。あなたに何かあったら、悲しむ人がいるのでしょう。親身になってくれるのは嬉しいが、まずは自分を大事にしなさい。それに……あなたは自分が思っているより疲れていますよ」

 視線を合わせて、諭される。穏やかな瞳を前にすると、自分が我がままを言っているだけの子どものように思えた。

「そう、だけど……まだ、動けます」
「そうですか? 私はあなたの肩に手を置いただけで、全く力を入れていません」
「うっそぉ……!」

 ミルファが肩に置かれた手を掴むと、それはあっさりと持ち上げることができた。確かに置かれていただけで、押さえられてもいない。
 立ち上がれなかったのは思い込みもあるが……足に力が入らなかったからからだ。

「偉そうなことを申し上げてしまいましたね。ただ、どうにもあなたは危なかっかしくて放っておけない」
「すみません……。では、ひと晩お世話になります」

 認めると、途端に身体が重く感じた。移動に加えて、走り回ったことも一因だろう。そういえばアウロスを預けたままだな……あの宿なら大丈夫か。

 それにしても、まさか天文台に泊まることになるとは思わなかった。ミルファが改めて石造りの室内を見渡すと、開きっぱなしの本や椅子の背に掛けられた上着に穏やかな生活感がある。

 きっとこのような部屋が塔の中にはたくさんあるに違いない。生活に余裕があるわけではないだろうに、隠れたいオメガを守って暮らしている星読みの一族。優しいルシアーノの養い親だと考えれば、なるほどと思う。

 改めてお茶を飲みながら、スッマはルシアーノのことを色々教えてくれた、彼が大人しく、傷ついた子どもであったこと。一緒に暮らすうち、少年らしいやんちゃな部分がでてきたこと。本人の希望で早くから外へ働きに出ていたこと。
 アルファなのは分かりきっていたし、しっかりした青年に育ったのでスッマも安心して傍を離れたという。

「唯一の身内代わりだったので、置いていくのは可哀想だとも考えました。しかし優しい彼ならすぐに伴侶を見つけて自分の家族を作るだろうと……」
「ええ、わかりますよ」

 確かにルシアーノは、セリオ侯爵という高位貴族に見出され家族となった。だがその意図は看取りを含めた介護であり、スッマの望んでいた未来とは違う。セリオ侯爵のことも父親のような存在だと言っていたし、もちろん良くしてもらっていたはずだけれど。

 ミルファはセリオ侯爵とルシアーノのことをできる範囲で語った。しかし自分とのことになると途端に説明が難しくなる。結婚するつもりで迎え入れて、仲良くなったつもりだったけど別れてしまった。
 ミルファが言葉を詰まらせると、スッマは優しく微笑んで何度か頷く。

「あなたたちはまだ道の途中にいるようですね。季節によって巡る星のように、必ずまた再会できるでしょう。ルシアーノとあなたは、とても相性が良さそうだ」
「そう……だといいんですけど」

 また会えたら、自分の気持ちをちゃんと伝えよう。一生隠していようと思ったけど、ここまで振り回されてしまえばもはや失恋くらいどうってことない。
 結局、何があってもミルファはまだルシアーノのことが好きなのだ。簡単に忘れられるような、浅い想いではない。

 自分の本心を明かしたら、ルシアーノも包み隠さず打ち明けてくれないだろうか。今までもらった言葉が全て嘘だとは思えない。
 何が本当で、嘘をついていた理由はなんだったのか。あの執事の言っていたことは、どういうことなのか……
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