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33-1.大切な人
突然、ユノが屋敷へお見舞いに来た。かなり長い間仕事を休んでしまっているので、心配のあまり約束も取り付けずに来てしまったらしい。
来訪の一報を聞いてディードーは思わず硬い表情をしたが、家格が違うため追い返すこともできない。
ユノはアルファだ。とはいえミルファもそろそろ知り合いになら会ってもいいはずだと考えていたため、「いいリハビリになるよね!」と立ち上がった。
「ユノ! 急だからびっくりしたよ~!」
「悪い。でもミルファのことが心配で……なにがあった? 身体、大丈夫なのか!?」
食べ頃のオレンジみたいな髪の色を見て、ミルファは(大丈夫、怖くない)と確信した。しかし彼のやりがちな肩に手を置くようなボディタッチは、さっと身を引いて回避しておく。
特に疑問には思わなかったらしい。しきりに目でミルファの全身を確かめて、異常がないか確認しているようだ。
みずから応接間に案内して、向かい合ってソファに腰掛ける。ディードーは意味ありげに目配せを寄越したが、これ以上心配することはないと元気に頷いて見せた。
それでもディードーはそわそわとしているように見えて、内心疑問に感じる。ユノがアルファということ以外に、なにかあるのだろうか?
侍女がお茶と茶菓子をテーブルに並べ終わってから、ミルファは口を開いた。
「ごめん、仕事ずっと休んでて……みんなに迷惑かけてるよね」
「そんなことどうでもいいって! あの日ミルファが倒れてから一度も会わせてもらえないし、長官も何か知ってる顔して『大丈夫』の一点張りでさ……」
「そう……そうだよね」
「それから来なくなっただろ? 辞めたわけじゃないとは聞いてるけどさ、風邪にしては長すぎる。つい、若くてもかかる病気とか調べて、おれ、不安になって……」
「…………」
ユノまで、こんなにも心配してくれているのか。親友だとは思っていたけれど、ちょっとじんと来てしまった。
やはり、長官はミルファに起きたことをユノにも伝えていないみたいだ。
王宮のなかは噂が駆け巡るのも早い。二次性が変わるなんてとてもセンシティブでショッキングな問題だし、ミルファが戻ったときのため配慮してくれているんだろう。
でも、ユノになら知られてもいい。というかこれからも友人として付き合っていきたいから、ちゃんと言わなければ。
長官のおかげで自分の口から伝えられることに心の中で感謝しつつ、ミルファは切り出した。
「心配してくれてありがとう。僕さ、後天性オメガだったみたいで、それで休んでたんだ。もう元気だし、身体は健康だから安心して!」
「健康なら良かっ……ん? 後天性……オメガ? って、誰が?」
「あははっ、僕らしいよ。信じられないよねぇ」
気軽な調子で話して、首に巻いたクラヴァットの隙間からネックガードを見せる。念には念を、と使用人に装着するよう頼まれたものだ。
ユノはきょと、と初めてネックガードというものを見たように深緑の目を留めた。
「……はああああ!? っなんて!?」
「わっ、ストップ」
「失礼と存じますが……お掛けください」
突然大声を出して立ち上がったユノに驚き、ミルファは思わずソファの背もたれに縋った。ディードーが失礼を承知でユノの視界を身体で遮り、座らせる。
ソファにもう一度腰を下ろしてからミルファの顔色に気づいたのか、ユノは眉をひそめた。
「悪い、大きな声出して」
「こっちこそごめん。今ちょっと、アルファ恐怖症なんだ」
「ええっ。なんかあったってことか? というかおれはここにいて大丈夫なの? あー、ごめん。まだ混乱してる……」
頭を抱えて途方に暮れた様子の友人を見遣って、ミルファも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。親しい仲だからこそ、衝撃は大きかったのだろう。
自分ではもうオメガであることを受け入れてしばらく経っているから、予測が甘かったかもしれない。
もしかしたら、駄目なのかも。アルファとオメガの友人なんて、世間ではあり得ないことだったりする?
ミルファは無理を承知で、恐る恐るユノに提案した。
「あの、嫌じゃなければ……これからもユノとは友人でいたい。オメガになっちゃった僕じゃだめかな?」
「そんなわけ……ってかミルファがオメガならおれ……。あれ? そういえば旦那はどうしたんだ」
「旦那?」
「あいつアルファだろ。番ったのか?」
「?? 誰のこと?」
「え……」
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