朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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アイウス編

五本目『試す者』③

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イアンの発言から暫くして、庭には簡易的ではあるが百cm程の大きさの的が用意され、そこから六十m離れた位置に、デクスターは弓を構え、緊張感を高めていた。

「大丈夫だろうか、デクスターは……」
「全く、心配性だなぁ……君の腕刺した奴なんだから、信じなよ」
「それじゃあ、いつでも初めていいぞ~」

 イアンの合図によって、デクスターはセオドシア達に見守られながら、弓に矢を携え、息を吐きながら照準を絞る。

(……あっ、アレは……)

 そのまま、最大限まで弓を引き、矢を放つ。
 しかし、それは的に掠りもせず、草叢の方へと飛んで行く。

「!? 何をやっているんだデクスター!? 君の腕で外すなんて……」
「ご、ごめん! けど、と思って……」

 そんなデクスターの言葉に、パジェット以外の頭にも「?」が浮かび上がる。すると、彼は落ちた矢の方まで行き、それを持ち上げてみせる。

「おおっ!? あれはっ!?」

 持ち上げた矢の鏃の先には、巨大な蛇が一突きで絶命しているのが見えた。

「結構大きいよ、これ……自然のものとかじゃないんじゃ……」
「いい勘してるぜデクスター君。そりゃ低級の使い魔だな、暗殺用って所だろう」

 そんなセオドシアの言葉に、デクスターは驚いた様子でそれを手放すと、突き刺さっていた蛇は灰となって消える。

「それで~? イアン君、まだやるかい?」
「……はぁ~、こりゃ文句無いわな、合格だよ」
「え? や、やったぁ~!!」

 こうして、無事三人は月住人退治の命を引き受けられる事になった。

 ◆◆◆

「全く……人に頼んでる身分でボク達を試すとはね……だからああ言った輩は好きになれない」
「ほんとだよね~、変な手間取らせちゃってさ~」
「まぁまぁ……こうして皆合格になったんだからいいじゃ……あっ、ダメだ聞いてない……」

 ムグラリス家を去った後、月住人の情報を集める為に街へ繰り出しても、二人はこんな調子で愚痴っており、デクスターは宥めようと努力したが、遂に諦め、月住人について考える事にした。

「月住人って何で人間を襲うんだろう……食欲だけでそんなに狙うのかな?」
「ん~? そりゃあ殺して腹が膨れるってのはついでだろう。目的は同じ月住人を増やす事さ、繁栄は生物なら望むものだろう?」

「繁栄か……何かを殺さないと増えられないなんて、悲しいな……」

 セオドシアとそんな話をしていると、目の前をどさりと鈍い音と共に何かが落ちる。

「ん? 一体なん……なっ!? こ、これは!?」

 そこに落ちていたのはうつ伏せになって倒れる女性だった。
 それも、『死体』の女性だった。高所から降って来たそれを一瞬飛び降り自殺だと思ったが、直ぐにその考えは払拭された。
 背中は何か重く、硬い物が衝突したであろう窪みが、頭一つ分くらいは凹んでいたからだ。
 周りの人達も死体に気付いた様で、悲鳴が上がるのが聞こえた。

「月住人!? こんな所で!?」
「この殺害方法は……ッ!? 避けろ!!」

 セオドシアのその叫び声に、デクスター達は背後から迫っていたその攻撃を回避出来る。背後から迫っていたのは禿鷹に酷似した姿をしており、その頭部は鋼並の硬度がある事を、デクスター達に外れて衝突した壁が証明していた。

「『影から移る者クラヴィス』!! 一発目にコイツが来るとはね!!」
「あ~もう!! ちょっとは休ませてよ!!」

 こうして、依頼を受けてから三十分もしない内に、今日一日で二度目となる月住人退治が幕を開けたのだった。
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