朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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アイウス編

十七本目『後日談、それと、旅立つ者』

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 セネリスには、誰もが知る、ある御伽話が残されている。
 それは、遠い昔───まだこの世界を主が作って間もない頃。
 主が人間に遣わした、四人の『使者』のお話である。
 一人目は、勤めて思慕する事を勧める───春の使者。
 二人目は、変化と発展を尊び勧める───夏の使者。
 三人目は、外界にて他者と交わる事を勧める───秋の使者。
 四人目は、自分の持つものに感謝するよう勧める───冬の使者。
 この四人を、人々は『四季の使者』と呼び、畏敬したと伝えられている。
 そんな、親から子へと語られる、誰もが知る御伽話。
 しかし、もしこれが、御伽話フィクションではなく人の歴史ノンフィクションだとしたなら?

 それは一体、誰の過去を語っているのだろうか───……。

 ◆◆◆

「えぇっと……多分この辺りだったかな……」

 ジェルマとの戦闘によって、ただの瓦礫の山となったムグラリス邸(故)。
 その瓦礫の上を、全身を包帯に巻かれ、右腕も折れている一人の男が歩いていた。
 この男こそ、瓦礫の屋敷の持ち主にして、アイウスの長。
 イアン・アンドレ・ムグラリスその人である。
 彼は、二日前までは自室があった筈の場所に散らばる瓦礫を、残る左腕でひっくり返していた。

「おっ、見っけ!」

 時間は多少掛かったが、イアンはその中から目的の物を見つける。
 取り出したのは、手の平サイズの大きさをした、鍵穴付きの正六面体キューブであった。

「えぇっと……鍵鍵~っと……」

 そう言って、イアンは満足気に笑うと、懐から鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。カチャリという音と共に、立方体が動き出し、やがての姿を象る。

「よしよし、ちゃんと無事だな」

 これは汎用通信道具『Heloヘロ』と呼ばれる代物であり、録音、録画、通話などの機能を持つ。
 鎖国に近い状態になった国を繋ぐ重要な役割を担っており、鍵を用いる事で様々な動物の姿を象るのが特徴である。

「はぁ~……気がおめぇ……」

 イアンが溜息をつくと、鳥の姿をしたHeloが左右に首を振り始め、やがて何かを受信した様にその口を開く。
 すると、そこから流れてきたのは鳥の鳴き声……では無い。
 聞こえてきたのは見た目とは不釣り合いなバスの効いた頼もしい男の声であり、イアンは自分の身の丈の何倍も小さい鳥が、自身を睨んで来ているような気がした。

「──もしもし、聞こえているかな? イアン君?」
「はい、問題はありません───

 イアンが連絡を取り、聞こえてきた声は、セネリス連合王国の最高権力者である
 国王の声であり、イアンの背は通話越しであるにも関わらず、自然と正されてしまっていた。

「議員当選おめでとう……と言いたい所だが、素直にそう喜べる状況ではないな。今回の一件について被害報告は受けている。君も銃弾で撃たれたらしいが、大丈夫かい?」
「撃たれた? ……あっ、あぁ~はい、撃たれました……えっとすいません、心配させてしまい」

 天井からのロケットダイブや、一万五千度の熱の奔流に呑み込まれたイアンにとって、拳銃の鉛玉は負傷とすら認知されていなかった。

「イアン君? どうかしたのかね?」
「あぁいえ、よく生きていられたもんだな、と……なんでもないです。話を戻しましょう」

 イアンは二回も気絶したあの日の事を思い返し、ボケっとして離れていた意識と、話を戻す。

「死亡者十一名、負傷者二千五百名……そして君。これが死霊術師一人の犯行とはな……いや、これだけ抑えられただけでも、奇跡と言えるだろう、何せ相手は、この世界を朔で覆った『張本人』なのだからね……」
「(張本人……か……)」

 イアンは国王の言葉を聞くと、修復中の結界の隙間から見える朔の空を見上げながら、セオドシアから聞いた話を思い出していた。

「……王よ、聞いて頂きたいことが───……」

 ◆◆◆

 一方、場所は変わり、月住人によって壊滅した廃村で。
 三人分の人影が存在していた。
 その中で、十代特有の桃色の肌をした少女が、愉快そうに自分以外の人影に話しかけていた。

「ねぇねぇほんとなの!? セオちゃんがジェルちゃんボコボコにしちゃったって!? あんな自信満々だったのに!? 完璧過ぎて怖いわぁ~とか言ってたのに!?」
「すっげ……攻撃出来る時にここぞとばかりに言うじゃん……」
「えぇ、本当ですよ……出来たのもコレだけです」

 そう言って敬語口調の男は、血液の入った小瓶を一つ取り出す。

「うへぇ~……そんなんになっても生きちゃうなんてねぇ~……ってかやっぱり再生しないんね」
「えぇ、セオドシア様は確かに弱りましたが、この様子では油断しているとこちらが足元を掬われるかと……」
「クソチートかよ、おもんな。けどまぁ、仕事はちゃんとしたっしょ? 『朔』の進行度はどうよ?」

 気怠げな口調の男がそう聞くと、敬語の男は首を振り、溜め息混じりに報告する。

「変わらず進行度は六割です……」
「は? 本気で何しに行ったのアイツ? マジで四天王最弱パターンじゃん」
「やめてあげてよ!! 確かに長い間潜伏してた癖に殺したのがたったの数十人とか、そこいらの月住人ムーン=ビーストでも出来そうな結果には無様で呆れて目も当てられないけどッ!!」
「だから、某より軽く酷い事言ってんのやめてくんない?」
「……まぁ、秘術を持って来ただけマシとしましょう……」

 批難の悪口がヒートアップする二人を他所に、敬語の男が申し訳程度の擁護をすると、その場から立ち去ろうとする。

「お? 行くん?」
「えぇ、ジェルマ様の治療をしないといけませんので……あぁ、それと……セオドシア様はもう既にアイウスを発ち、今はグテルムに向かっているとか……」

 そう男が呟くと、少女の批難の嵐が止み、嬉しさに動かされてその頬が反射的に微笑む。

「エヘヘ……それじゃあ、今度はこの『春の死者メイメイちゃん』が……振りに可愛いがってあげなくちゃあ……ね♪」

 ◆◆◆

「───それじゃあ、セオドシア。一つ一つ確認していくよ?」

 デクスターは、自身が手綱を握って操る馬の上でうつ伏せに乗せられて眠るセオドシアに向かってそう確認を取ると、彼女は重そうに垂れ下げていた腕を上げ、親指を立てる。なんでもあの奥義を使うと、血液と霊力の大量消費で数日はこの調子らしい。

「いつでもどうぞ~……」
「先ず、ジェルマは八百年前の御伽話に出てくる四季の使者の夏担当?」
「『使』うじゃなくて『死』ぬの方ね」
「あと三人あんな化け物みたいな奴が居て?」
「うん、居るね」
「自分もその元メンバーの裏切り者で?」
「元メンバーっていうか……徴兵と同じ感覚で呼ばれただけだけどね」
「あの朔の空はそいつらがセオドシアの技術を横盗りして造った術式で、本物の太陽と月じゃあなくて?」
「まぁ、普通に考えて死霊術師が星を操るわけないしね」
「しかも、月住人に変えるだけじゃあなくて、その死んだ人間の魂を集めて最大最悪の奥義を発動させようとしてる?」
「うん、多分人類滅ぶんじゃないかな?」
「そうか…………」

 デクスターは、セオドシアの話を質疑応答で整理し終えると、思い切り息を吸い込み───……。

「───情報が多いッ!!」

 思い切り叫んだ。

「うるさいなぁ……君が話せって言うから話したんだろうが」
「にしても一度の量が多過ぎるよ!? 多過ぎてどの部分に驚けばいいのか分かんないよ!? それにまだ話して欲しい部分が他にも……」

 デクスターは、打ち切りする物語の最終回並の情報の多さに、質問をする考えすらも纏まらないで居ると、前を馬に乗って先導していたパジェットが、話に入ってセオドシアに質問する。

「そうだぞ死霊術師。『四季の死者』なのにお前が加入しては四季に当て嵌められないではないか」
「パジェットさん!? それ以上の疑問が山ほど残ってたでしょう!?」
「あぁ~、そこは結構議論したよ。最終的には天地担当って事で収まったけどね……リーダーっぽいでしょ?」
「どうでもいいよ!? もう、パジェットさんもどうしてすんなり受け入れてるんだよ……」

 デクスターは頭を抱えながらそう聞くと、パジェットはこちらに振り返る事もなく言葉を続ける。

「まぁ……確かに、ボクも全部把握しているとは言わないが。退治する敵のことさえ分かればあとは割とどうでもいい……が味方と言うのなら今と関係は変わらんし、敵というのならぶん殴るまでだ」
「そうそう、退魔師の言う通り……ん? 待って、今名前で呼んだ? 呼んだよね!?」
「他の死霊術師と区別出来ないし、いつ誰に聞かれるかわからんから仕方なくだ…………なんだそのニヤケ面は、仕方なくと言ってるだろう!?」
「話も終わってないのに、また喧嘩…………もういいや……」

 デクスターはそう言って溜め息を吐きながらも、二人の喧騒に思わず頬が緩んでしまっていた。
 振り返ると、アイウスの街はもうすっかりと見えなくなり、ジェルマの戦いからかなりの時間が経った事を示していたが、デクスターにとってはついさっきの出来事の様に思えてしまい、実感が湧かなかった。

「イアン君の奴……上手くやれてるんだろうねぇ? 私って言わば、国の救世主なんだよ? それを追い出すみたいな扱いしちゃってさ……」
「仕方ないよ……死霊術師って皆にバレちゃったし、僕もあそこに残ってもいい事無かったと思うよ?」
「…………」

 愚痴るセオドシアを宥めるデクスターの言葉を聞いて、パジェットは妙な胸騒ぎを感じずにはいられなかった。

(たとえ国を離れたとしても……どの道ややこしいことにはなりそうだな)

 ◆◆◆

 一方、アイウスではイアンの根回しによって、パジェットとデクスターの名が出る事は無かったが、突如現れて国を襲った謎の死霊術師と、それと戦い勝利したもう一人の死霊術師の話で持ちきりとなっていた。

「あの二人の死霊術師は何者だったのか」
「何故争ったのか」
「死霊術師を二名も招いた国は何をやっているのか」

 国民中のそんな疑問の数々によって、空には疑問符の雲が出来ていた時。
 国王直々に、国民達にある一報が伝えられる事となった。
 その内容は、

「アイウスを襲った死霊術師は、五年前の悪夢を引き起こした死霊術師と同一人物である」

 というものともう一つ……。

「ヴォゴンディ家元当主の証言を元に、もう一人の死霊術師の名を『セオドシア・リーテッド』であると断定。全国的にする事となった」

 というものであった。
 誰もが、『五年前の悪夢』を思い、早急にセオドシアが捕らえる事を望む中───シスター・セリシアは教会で主に三人の旅の無事を願っていた。

「……セオドシア・リーテッド……アナタはこの世界に光を齎す救世主となるのでしょうか? それとも……」

 ───この世界を滅ぼす、悪魔となるのでしょうか?

 ◆◆◆

「それじゃあ、セオドシア。どこへ向かおうか?」
「ん~……そうだなぁ……」

 しかし、そんな報せも願いもいざ知らず、セオドシア達は中天に朔浮かぶ空の下、まだ見ぬ新天地へと思いを馳せていた。
 そこにどれほどの危険が待っているかも知らずに……。

「それじゃあ行こう……朔の向こう側へッ!!」




「………………うむ、グテルムだな」
「はぁキッショ!? 決め台詞取ってんじゃ──……」

【アイウス編 完】
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