出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい

新川キナ

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059:全滅?

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 空中に投げ出されたのは一瞬だけだった。すぐにドプンと液体の中に落ちた感触が。ゴポゴポと不明瞭な音。上も下も分からない。体がキリモミしながら引っ掻き回される。

 何がどうなっているのか。自分の状態がどうなっているのかさえ分からない。とにかく空気を。呼吸をしなくては!

「ごぼぼ!」

 呼吸を吐き出すと泡が上へと登っていった。パニック状態の中。それでも目に入ったのは空気の泡。それが上を示してくれる。

 あっちが上か。

 泡が上った先を見ると、そこには明かりがあった。松明のオレンジ色の光だ。泳ごうと体を動かすが、ねっとりと体を覆う液体に阻まれて思うように体が動かない。

 何だ?

 何が、どうなって……!

 天井にある松明に照らされた明かりのお陰で自分がどういう状態にあるのか分かった。

 ブラックスライム!

 どうやら俺は今。ブラックスライムに飲み込まれていたようだ。それも、ひと部屋分もある大きさのブラックスライムに!

 最悪の状況だ。

 他の皆は。オレは辺りを見回すと、そこには藻掻き足掻く皆の姿があった。

 全滅の文字が頭に浮かぶ。

 嘘だろ。

 こんな所で終わるのか?

 サリナの顔が浮かぶ。エステラに村の皆の顔も。走馬灯? 死?

 い、嫌だ。死にたくない!

 まだ、死にたくない。

 始まったばかりじゃないか!

 まだやりたい事が沢山ある!

 夢だってあるんだ!

 まだ、死ねない!

 腕の中にあるのは魔導書が一冊。どうせこのままじゃ全滅だ。なら試そう。イチかバチかだ。

 オレはブラックスライムの核へ向かって泳ぐ。そして最も近づいた所で魔導書を開く。腰に刺したスティックも取り出した。スティックで魔導書の魔法陣をなぞっていく。魔力が魔法陣に満たされる。使う魔法はファイアーボールだ。ブラックスライムの核は天井の松明の火に照らされてはっきりと見える。

 食らいやがれ!

 頭の中で発動のためのキーワードを詠唱する。

『圧縮されし炎よ、豪快に弾け全てを吹きとばせ! ファイアーボール』

 言葉が喋れないためにスティックで任意の場所を指定した。

 すると辺り一帯が光り輝いた。その光量にオレは目を閉じた。続いて体が吹き飛ばされる感触の後。意識が闇の中に飲み込まれたのだった。
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