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第19話 勇者な女子会
しおりを挟むこっそり集まった夜の20時。
皆を見回すと、佐山先輩以外の全員が集まっていた。
姫木さん、秋山さん、リリアさん、それと私だ。
私こと栗田真子が僭越ながら開始の音頭を頂戴することに。
「第一回! 勇者な女子会を始めたいと思います!」
ぱちぱちぱち。
「ユウト様はいらっしゃらないんですね」
女子会ですからね。
佐山先輩は男だから当然不参加だ。
今私たちが集まってるのは秋山さんに割り当てられた一室。
大きな天蓋付きのキングサイズのベッドの横で、お菓子とジュースを囲んで豪華な高級カーペットの上に座り込んだ。
姫木さんが意外なことにそわそわしていた。その姿を新鮮に思いながらさっそく飲物に手を付ける。
「こういうのは初めてなので……なんだか緊張しますね」
と、今のは姫木さん。普段の凛とした姿とは違い、今は寝間着の可愛らしい女の子にしか見えなかった。
少し前の刺々しさは抜けていて、心なしか話しやすい。
だからなのだろう。ついつい踏み込んだ質問をしてしまう。
「姫木さんと佐山先輩はなんで急に仲良しになったんですか?」
「あっ、わ、私も気になってました」
「長くなりますけど、それでも良ければ」
姫木さんは、飲物で喉を潤すと、やがてゆっくりと口を開いた。
前の世界でのこと。佐山先輩に模擬戦を挑んだこと。卑怯な手で負けて、納得できなかったけど正論で言い負かされたこと。……そして、その後に慰めてもらえたこと。
「今までの私は前が見えていませんでした。何の覚悟もなかった」
姫木さんは、一拍置いてさらに続けた。
「そのことがあった直後は……正直悔しかったです。今まで嫌いだった男相手にそんなことを言われて……でも、こうも思ったんです。それも前が見えていなかった原因だったような気がして、これからは自分を改めないといけないなって」
それに、と――
「……意外と優しい人でしたし」
思わず見惚れてしまうほど、優しい顔だった。
ここに佐山先輩が居なくてよかった……姫木さんは元々かなり美人さんだから、そんな顔見せたら男なんてイチコロだろう。
眩しくさえ見える彼女の表情は艶があり、同性である私でさえも思わずドキッとするほどの色香があった。
というかなんで佐山先輩はそんな簡単にフラグを増設していくのか……
と、私たちの視線が集まってることに気付いたのか、姫木さんは慌てていた。
「す、すみません。つまらない話でしたね」
そんなことはなかったけど、内心では穏やかじゃない。
姫木さんは佐山先輩が好きなんだろうか?
「ヒメキ様はユウト様を好いていらっしゃるのですか?」
おおっ、リリアさんが一石を投じた。
気になってはいても聞けなかったことだ。
姫木さんは「そんな浮ついた気持ちじゃないですよ」と、否定していたけど声はちょっとだけ上擦っていた。
顔もなんだか赤い。上擦ったことが恥ずかしかったのか、それとも……
「それを言うならリリアさんも佐山先輩に気があるんじゃないですか?」
からかうように言ってやった。
ここで否定をしてくれればどれだけよかったか。だというのに、リリアさんはさも当然とばかりに言い放った。
「はい、好きですよ」
秋山さんが「ひゃわわっ」と、変な声を出して照れていた。私の心にも驚きが広がる。
けど、どこかで納得もしていた。やっぱりという感じだ。
「初めて男の人に優しくされたんです。我ながら惚れっぽいとは思いましたけど……私はあの御方の優しさに惹かれたんです」
自己嫌悪を覚えた。たぶん嫉妬だ。私はこんなに嫌な女だったんだろうかと考えてモヤモヤした。
「攻略されてないのは、自分だけなんですね……き、気を付けないと」
うんうん……うん?
「あの、秋山さん? 私も勘定に入れてませんか?」
「え、ち、違うんですか?」
……違わないけど。
「そういえば一番最初から気があるみたいな素振りでしたね」
姫木さんの言葉。
へぇ? と、皆の視線が鋭くなった。
恋バナで盛り上がれるのは異世界でも共通ということなのか……
「……気付いてたんですか?」
「分かり易かったですよ」
「佐山さんは、全く気付いてませんでしたけどねー……」
「うぐぐ」
妙に悔しかった。
大したことじゃない、とは思う。
今は委員会が同じだけ。惚れた理由だって大層な理由じゃない。
だけど――
「……クリタ様?」
顔を伏せた私を皆が見てくる。
私は少しだけ思考に耽った。
なんで気付いてくれないんだろう。皆に優しくするくせに。私は名前さえも覚えていてくれなかった。
「そういえば明日は王都でお買い物ですね」
「ふふっ、楽しみですね」
楽しそうに話しを弾ませる皆の姿がどこか他人事のように感じられた。
ねぇ、佐山先輩?
どうしてなんですか?
この中で一番貴方を長く、そして深く慕っているのは、私なんですよ……?
誰にだって負けない自信がある。それなのに――
自分の中に醜い感情の炎が見え隠れする。
皆に気付かれなかったことが幸いだった。
少し、ほんの少しだけだ。
でも、嗚呼――
少しだけ……妬ましい。
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