自害しなかった魔族

唐草太知

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第7話:王室

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僕は揺さぶられる。
「起きて、レイ」
「ん・・・」
僕は目が覚める。
そして、そのまま洗面所に。
「がらがら・・・ぺっ」
2人して、歯磨きする。
「・・・」
アリアは無言で顔を洗う。
「終わったらパン屋に行こうか」
「分かったわ」
アリアはCAの格好に、僕はマントを羽織って出かける。
ブレットの店に入ると、妙に混んでいた。
「随分と入ってるね」
「入るの止める?」
「いや、せっかくだし並ぼう」
「そうね」
僕らは並ぶ。
「丁度良かったお前ら」
「僕?」
ブレットが近づいて来る。
「見て分かる通り混んでる、だが自分は生憎手が離せない。
だから代わりに王様の所へパンを届けに行って欲しいんだ。
え?助かるよ、お前たちならそう言ってくれると思っていたんだ!
さっそく準備するから待っててくれ」
「あの、いいって一言も」
だけど言い訳する間もなく、ブレットは店の奥へ入りパンを風呂敷に包んで持ってくる。
「これを運ぶだけで良いから、それじゃ頼んだから。
いらっしゃいませ~、タマゴサンドですね、かしこまりぃ!」
「どうするの、レイ?」
「そうだなぁ・・・断るのも悪いしやろうか」
「そういうと思っていたわ」
勿体ないが列から離れて、僕らは王様の所へと移動する。
城につくと、声を掛けられる。
「止まれ、なにやつだ」
兵士に止められる。
「あの・・・ブレットの代理で」
「何処かで見覚えが」
「この国の結界を管理してるレイって言えば分かりますかね?」
「失礼しました」
兵士は武器を収めてくれる。
「良かった」
僕が城の中へ入ろうとした時だった。
「貴方は構いません、ですが、そちらのお嬢さんは入れません」
「何でですか!?」
「どう見たって角が生えてる・・・魔族じゃないですか!」
「がーん」
僕は落ち込む。
「変装くらいすればよかったかしら?」
アリアはそんなことを言う。
「とにかく申し訳ありませんが人間のあなたなら入れます」
「アリア・・・」
僕は彼女を見る。
「いいから行ってきて、私はそこらへんで時間潰してるから」
「でも」
「向こうの気持ちも分かるもの、魔族は信用できないものね」
それをアリアの口から言わせるのは心苦しいものがあった。
「僕はアリアと一緒じゃないと入らない」
「レイ・・・」
「だから、今日の所は引き返そう」
「でも、貴方は入れるんですよ!?」
兵士は不思議そうな顔をする。
「パンだけでも届けられればいいから」
僕は兵士にパンを渡す。
「そうですか・・・すみません」
兵士はパンを受け取り、謝る。
「いいんだ」
「これでいいのかしら」
「いいんだよ、アリアだけ置いていくのは違う気がするから」
「そう・・・なのね」
そんな時、偶然助け船がやってくる。
「レイさんじゃないですか」
「ウェインじゃないか」
そこには兵士のウェインが居た。
「これはウェインさん」
先ほど話していた兵士が敬礼する。
「どうしてここへ?」
「かくかくしかじか」
「なるほど、つまり中へ入れない訳か」
「魔族は・・・その危険かと思いまして」
「君の判断は間違ってないさ、でも、この人たちは例外で入れて欲しい」
「ですが」
「責任はおいらが持つから」
「ウェインさんがそこまで言うなら」
兵士が中へ入れてくれるそうだ。
「さぁ、どうぞ。王様と会って話をしてあげてくれ」
「だってさ、行こうぜアリア」
「お邪魔するわ」
城内部へと入る、そして廊下を歩く。
そこは庶民とは明らかに違う豪華な作りだった。
「なんだかドキドキするな」
僕はガッチガチになって歩く。
「私は平気よ」
「冷静だなあ」
「別に今から戦おうってわけじゃないからね」
「それはそうだけどさぁ」
「王様と会うのに緊張しない人は初めてです、
やはり魔族として長く生きてる所為でしょうか?」
「そうかもしれないわ」
「つきましたよ」
「ここが」
「王の間(ま)です、この先に居ますので失礼が無いようにお願いします」
「分かったわ」
「そう言われると、緊張して来るぜ」
「私も一緒だから安心して」
僕はアリアに手を握られる。
「あ・・・あ・・・ありが・・・と・・・う」
「からくり人形みたいになってますよ」
ウェインは苦笑する。
「それじゃあ、中に入ろうか。
ウェイン、開けてくれ」
「はい、それでは」
扉が開かれる。
奥には誰かが座ってる。
けれど距離があり、小さく見える。
「こっちへ」
渋い重厚感のある声が聞こえる。
「はい」
僕らは近づいていく。
すると、ようやく姿を確認することが出来た。
王冠を被って白い髭が首まで垂れている。
「ワシの名がアースベルト・スターコネクト。
この国の王だ、人はアースベルト王と呼ぶ」
「ははぁ」
僕は畏まる。
「人の王よ、お初にお目にかかります」
アリアも片膝をついて頭を下げる。
「・・・」
アースベルト王はこちらを黙って見つめる。
まるで品定めされてるようだ。
「あの・・・王様?」
「・・・」
王様は無言だ。
「・・・」
だから僕も必然的に黙ってしまう。
「老眼で良く見えぬの」
「ずてっ」
僕はその場で転ぶ。
「あっはっは・・・悪いの」
「い、いえ」
僕は立ちあがる。
「ウェイン、なぜ魔族を城内に入れたんでやすか?。
ことによっては許さないでやす」
王様の椅子の背後から、まるで影のようにすぅっと出てくる1人の男が居た。
その男はフードを被っていて、顔が良く見えない怪しい存在だった。
「バイアス、そう言うな・・・せっかく来てくれた客人ではないか」
「王様、あっしは王様を思って言ってるんでやすよ?」
「それは分かっておる」
「まったく・・・王様は甘いでやす」
「アリアは善ではないですが、善になろうとしています。
時間は掛かるかもしれませんが、受け入れてはくれませんか?」
「魔族は悪、そう決まってるでやすよ」
バイアスという男はどうしても魔族を認めないようだ。
むかし、何かあったのかもしれない。
「せっかく来たことだ、どうだね食事でも」
「王さま!?」
「いいではないか、バイアス」
「でやすが」
「お前も一緒にどうだ?」
「魔族と飯なんて・・・ごめんでやす」
「むぅ・・・そうか・・・だがワインセラーのカギはお前が持ってるだろう」
「そうでやすね」
「せめて、ワインだけでも持ってきてくれないか?」
「それぐらいなら・・・」
「助かるよ」
「魔族共も飲むかと思うと気に入らないでやすが、王の頼みとあらば」
バイアスは去って行く。
「普段はいいやつなんだが、魔族と聞くとどうも」
王様はため息をする。
「知り合いにもいるので、大丈夫です」
「変わった友人が居るのだな」
「えぇ、まぁ」
「それで、食事の方はどうだろう?」
「むしろいいんですか、我々庶民が王族の晩餐に邪魔するなんて」
「構わん、わしが誘ったのだからな」
「では、お言葉に甘えて晩餐を共に。
アリアも一緒で良いですか?」
「構わんよ、王たるもの懐が広くなくてはな」
「ありがとうございます、王様」
「魔族から、ありがとう・・・か」
「え?」
「いや、なに、長生きはするものだと思っての。
それより、食堂に行こう」
「はい」
僕らは食堂へと向かった。
豪華な食事だからというのもあるが、執事やらメイドやらが複数人立っている。
目線を向けないのがマナーなのかもしれないが、全員背後を向いてるのは不思議な感じだ。
なんだか落ち着かない。
「白ワインはお好きかな?」
「僕は苦手だけど・・・」
「私は好きだわ」
「そうか、それなら彼には水でも持ってこさせよう」
僕の分は特別に水になる。
「まずは食前酒です」
執事が全員にワインをグラスに注いでくれる。
「それでは魔族のお嬢さん、乾杯と行こう」
「王様、グラスを近づけて」
「乾杯」
「乾杯」
からんとガラスをぶつける。
「美味しいわ」
「そうか、気に入ってもらえて嬉しいよ」
「土がいいのでしょうね、香りが豊かに感じるわ」
「きっと生産者も喜んでることだろう」
王様はご機嫌だった。
それから、パン、スープ、グラタン、マンゴー。
といった順に料理が運ばれてきた。
順調に食事が終わり、お腹も満たされてきた。
という状態になった時、王様にふと聞かれる。
「料理、美味しかったです」
「そうか、君らが不味いと言ったらシェフを首にしていたよ」
「え?」
僕は驚く。
「冗談だ、ワシがそんなことする筈がなかろう。
あっはっは」
王様は豪快に笑う。
「あはは・・・」
僕は苦笑する。
なんつーことを言うんだ、このジジイ。
何て言ったら殺されるだろうな。
「さて、質問があるのだが。いいかな?」
「なんでしょうか?」
「ワシは・・・魔族との共存を考えておる」
「部下とは意見が違うようですね」
「そうじゃな、けれど敵対するよりも友好関係にあった方がワシはいいと思っておる」
「僕も、そう思います」
「君らは珍しく魔族と人間で仲良くやってるように見える」
「なんだか照れるな」
僕は顔を少し赤くする。
「まぁ、私も嫌いじゃないわ・・・少しだけね」
アリアは素っ気ない言い方だったが、その言葉には愛がある気がした。
「そこで聞きたい、共存は何かを。今後の国の在り方を決めるためにも」
「なんだか随分と責任ある質問ですね」
「必ずしも君の意見を採用するわけではない、あくまで参考じゃ。
だからどうか、気軽に言ってみて欲しい」
「バラバラのものが1つに集まる・・・。
なんて辞書に書いてそうな答えでは駄目ですよね」
「むろんじゃ」
「愛・・・なんてどうですか?」
「愛か、してその答えは?」
「相手が好きでないと共存するのは難しいです」
「むぅ、分からんでもないの」
王様は考え込む仕草をする。
「満足行く答えですか?」
「そちらの魔族にも聞いておきたい」
「私ですか?」
「共存とは何と考える?」
「受け入れるでは、どうでしょう?」
「受け入れるか、してその答えは?」
「相手が好きであることも大事ですが、相手と友好的でありたいと願うなら。
まずはこちらから受け入れることが大事なのではと考えます。
敵意をむき出しでは、向こうも仲良くしたいと思いませんから」
「なるほどの、興味深い答えじゃ」
「王様、私の答えで満足しましたか?」
「そうじゃな、満足じゃ」
アースベルト王は笑う。
「アリアの考えに納得が行ったようで良かったです」
「食事も済んだことじゃ、どうかの遊んでいかぬか?」
「何をするんですか?」
「テニスじゃ」
「テニスぅ?」
僕は初めて聞いたので驚く。
「海外で流行っておるらしくての。
わしもやってみたが、ついハマっての。
兵士相手に普段はやっておるんじゃが・・・最近は飽きてきての」
「なるほど?」
「そこでどうだろう、ワシと対決。
というのは?」
「いいですよ、でも、ルールがよく分からないんですが」
「所詮、遊びじゃ。細かいものはない」
「それなら・・・」
「こっちは兵士のウェインとチームを組む。
そっちは魔族と魔法使いの混合チームじゃ」
「分かりました」
「私、上手く動けるかしら」
アリアは不安そうだ。
「大丈夫じゃない、遊びだって言ってたし」
「それもそうね」
「それじゃ、テニスコートに向かおうぞ」
「分かりました」
僕らは中庭のテニスコートへ向かう。
「うむ、良い天気じゃ」
王様はテニスウェアに着替えて出てくる。
そして、何故か僕も。
「王様、とても似合ってます」
「そうかの、魔法使いも似合っておるぞ」
「ありがとうございます」
「着替えて来たわ」
アリアがテニスウェアに着替える。
ミニスカートだ。
なんて可憐なのだろうか。
ダメだ、湧き上がってくるものがある。
「あ・・あ・・・アリア・・・」
アリアがさっと僕に近づく。
そして鼻にハンカチを押し当てる。
「出していいわ」
「ぶっ」
僕は鼻血を出す。
すると、見事にハンカチで全部受け止めてくれた。
「大丈夫か!?」
王様は心配してくれる。
「ふぁいじょうぶです」
僕は手を振ってアピールする。
「ルールは簡単だ。
このラケットと呼ばれる棒で相手の陣地にボールを入れればいいんだ。
ただし、地面につかないと点にはならないぞ」
王様が説明してくれる。
「なるほどね」
僕はラケットを持って眺めている。
「ネットを挟んで2つの陣営に分かれる、ワシのチームと」
「私たちのチームですね」
「そういうことじゃ」
「それじゃ、おいらたちでゲームを始めよう」
「その前に先攻後攻を決めるのじゃ」
「僕はじゃんけんがいいな」
「それでいい、ウェイン、じゃんけんをしてくるんじゃ」
「はい」
「それじゃ、僕が行こうかな」
「レイ、先行を取って来て」
「分かった」
ウェインと僕でネットを挟む。
「悪いが負けてくれ」
「え?」
ウェインが何かこそこそ話してくる。
「相手は王様なんだ、負けさせるわけにもいかないだろ?」
「それは確かに」
「負けてくれたら、それなりにお礼はするからさ」
「なに?」
「おーい、いつまでやっておるんじゃ」
「すみません、王様。あいこが続きまして」
「すまんの、老眼で分からんかった!」
「じゃんけんだ、じゃん・・・けーん」
「・・・」
これって八百長だよな。
負けてあげるのが正義なのか?
それとも真剣にやって勝つべきなのか?
「ポン」
「やべっ」
僕は考え事に夢中でぼーっとしていた。
そして出したのはパーだった。
だが、向こうはチョキだった。
「ありがとさん、話が通じる男で良かったよ」
ウェインは去って行く。
わざとジャンケンで負けたと思ってるようだ。
僕は負けたので渋々帰って来る。
「悪い、負けた」
「じゃんけんで負けただけよ、勝負に負けたわけじゃないわ」
「そうだな」
どうする?このことをアリアに相談するべきか?
いや、そうしたら彼女も問題に巻き込むことになる。
「こちらから行かせてもらいます」
ボールが飛んでくる。
「あっ・・・」
僕の方へ飛んできたのだが見過ごしてしまう。
相手の点になる。
「おーい、それでは勝負にならんじゃろ」
「どうしたの、レイ・・・さっきからぼーっとしてるわ」
「あぁ・・・悪い」
僕はボールを拾いに行く。
「王様のボールが早くて見過ごしたのでしょう」
「そうかの?」
「はい」
「言われてみると、そんな気がしてくるの」
「次は私たちのボールよ」
アリアがラケットを構えてサーブを打つ。
「なかなか強いサーブじゃの、ほれっ」
王様が打ち返してくる。
「くっ」
僕は打ち返す。
「レイさん・・・打ちますからね?」
「あっ」
またもボールが入る。
これ2対0だ。
「さすがじゃの、ウェイン」
「王様が居るから力出るのです」
「どうしたの、レイ・・・調子悪そうだわ」
「悪い・・・そうかもしれない」
「もしかして貧血」
アリアは心配してくれる。
だが、僕の体調が悪い原因は鼻血じゃない。
「大丈夫だ、次はちゃんとやる」
「レイ・・・」
「言い忘れておったが、4点を先に取った方が勝利じゃ」
「巻き返さないとな」
口ではそう言うが、実際はどうするべきか悩んでる。
「私がサーブを打つわ」
「任せる」
「ふっ・・・はっ」
アリアは空にボールを投げて、目の前に来たタイミングでボールを打つ。
「遅いです、それでは王様に届きませんよ」
「はっ」
アリアが打ち返す。
「レイの奴・・・動きが鈍いのう。
テニス・・・あまり好きではないのかもしれぬ」
「そんなことないですよ・・ただ初めてなれてないだけ・・・はっ」
ぱこーんとボールが打ち返される。
「レイ、そっちに言ったわ」
「はっ」
僕はそのまま素通りしてしまう。
これで3対1。
「ストップじゃ」
「どうなされましたか、王様?」
「あやつの元気が無いのが気になっての」
「すいません、僕は大丈夫のつもりだったんですが」
「調子が悪いかの?」
「いえ、最後までやらせてください」
「無理する出ないぞ」
「はい」
「レイさん、もう少し上手にやってください。
でないと王様にばれてしまうではないですか」
ひそひそとウェインが話しかけてくる。
「分かってるよ」
「それならいいんですが」
ウェインが離れていく。
「さぁ、もう残り僅かじゃ。
このままじゃとワシが勝ってしまうぞ」
「アリア、サーブを頼む」
「ふっ・・・はっ」
先ほど同様に、アリアは空にボールを投げて、
目の前に来たタイミングでボールを打つ。
「もらった!」
ウェインの強力サーブが僕の目の前に飛んでくる。
けれど、動けずに居た。
「はっ」
だけど、代わりにアリアが打ち返してくれる。
「やるな、魔族の嬢ちゃん・・・ほっ」
「やっ」
アリアが打ち返す。
これでは1対2だ。
「ふっ」
「はっ」
ラリーが続く。
「これでどうだ」
「無駄よ」
アリアが打ち返す、すると見事に点が入る。
「3対1、ようやく点が奪われたの」
「ようやくとれたわ」
「もう後がないのに、この粘り・・・テニスは最後まで分からん。
ということじゃな」
王様は気分が盛り上がってるようだ。
「・・・」
ウェインが目で訴えてくる。
ここで負ければ一番いいと。
僕は・・・どうすれば。
「負けたくないわ」
ぼそっっとアリアが言った。
「え?」
「王様、おいらのサーブを見てください」
強力なサーブが飛んでくる。
「はっ」
だけど、アリアがそれを返す。
すると、見事に3対2になる。
「これは・・・予定外です」
「ふふ、面白くなってきたの」
「点・・・取れたわ」
アリアは負ける気は無さそうだった。
その顔を見て、僕はハッと気づく。
「あっ」
そうだ、何を僕は思い違いをしていたのだろうか。
これは単に遊びで、交流なんだ。
大人みたいに取引じみた真似をせずに子供のように素直に遊べばいいじゃないか。
何を期待していたんだ僕は。
何を得ようと考えていた?
こんな方法で得ても、きっと楽しくない。
なにより真剣に取り組んでるアリアが可哀そうだ。
僕が真面目にやらないと彼女の行動は滑稽になる。
「た、たまたまですよ王様。
次は必ず・・・点を取ります」
「ふふ・・・そうじゃな」
「はっ」
サーブが飛んでくる。
「おらっ!」
僕はサーブを打ち返す。
すると、王様とウェインの間に入り取りこぼしてしまう。
「あっ」
「これで3対3だな」
僕は勝ち誇ったような顔をする。
「ちょ、ちょっとタイム」
「どうしたんじゃ、ウェイン」
「レイさんと・・・水を飲んできても良いですか?」
「あぁ、構わぬよ」
「レイさん、ちょっと」
「いいぜ」
「私も同行しようかしら」
「悪いが、アリアは待っててくれ」
「そう?」
「今回だけは頼む」
「分かったわ、気をつけて」
僕らは水飲み場に行く。
「負けてくれる約束ですよね」
「そんな約束したっけか」
「惚けないでください!」
ウェインに壁ドンされる。
「キスする気か?」
「ば、馬鹿な事言わないでください」
ウェインは恥ずかしくなって離れる。
「僕は勝つ気でいる」
「褒美が欲しくないんですか?」
「僕の相棒が勝利を望んでるからね。
それ以上の褒美が何処にあるって言うんだ」
「それは・・・」
「もし、僕らが勝ったら罰でも受けるさ。
テニスに負けたからって殺されることもないだろうが、
ある程度の苦痛は受ける覚悟は出来てるよ」
僕は去って行く。
「お帰り、水分補給は出来た?」
「いや、飲まなかった」
「それじゃあ・・・何のために」
「アリアもきっと飲まないだろうなって思って」
「はぁ」
アリアは分かったようなそうでないような顔をする。
「さぁ、ゲーム再開と行こうか」
「そうね」
「どうじゃった?」
「え?あぁ・・・水が美味しかったです」
「そうか、そうか」
王様は満足そうな顔をする。
「サーブはそっちだぜ、王様」
「行くぞ」
王様が殺人サーブを繰り出す。
「これは・・・っ」
1人では打ち返せそうにないほど重い一撃だ。
「私も・・・」
アリアが参戦して来る。
「うぉおおおおおおお!」
僕は雄たけびを上げる。
そして、アリアと共に一撃を返す。
「ワシの一撃を打ち返すか!」
王様は身構える。
「ふぬぬぬぬぬ・・・」
王様は堪える。
「王様、今行きます!」
ウェインが駆け寄る。
「これは」
だが、王様たちは後ろに下がって行く。
「行けぇええええええええ!」
僕は叫ぶ。
「お願い」
アリアは手を合わせる。
「ぬおおおおおおおおっ」
王様のラケットが壊れて、ボールが貫通する。
そして、壁にボールがめり込んだ。
「4対3、僕らの勝利だ!」
僕は跳ねて喜ぶ。
「やったわ」
アリアは落ち着いた感じで喜んでいた。
「くそっ・・・約束と違うじゃないか」
ウェインが地面を殴る。
「ふぅ、負けてしまったの」
「悪いな、アースベルト王。
最初は負けていいかなって思っていたが。
つい、勝利が欲しくなってな」
「ふふ・・・そうじゃったか」
「気づいてたのか?」
「むろんじゃ、部下の考えくらい分かる。
だが、その上で皆がどう行動するか見てみたかった」
「結果はどうだった?」
「満足じゃ」
王様は嬉しそうに笑う。
「それなら良かった」
僕は笑う。
どうやら気遣われるよりも素直に接する方が王様は好みらしい。
なるほど、これが僕の住む国の王か。
「運動で汗もかいたじゃろう、せっかくだし一緒に風呂でもどうかの?」
「いいんですか?」
「むろんじゃ」
「それならご一緒に」
「すみませんが王様・・・おいらは警備の仕事がありますので」
「むっ・・・そうか」
「別の機会があれば・・・また誘ってください」
ウェインが離れる。
「それでは行きましょうか、王様」
「そうじゃな」
僕らは脱衣所に同行する。
「さて、着替えますか」
僕は服を脱ぐ。
「な・・・何をしておるんじゃ!」
だが、王様は手で自分の視界を覆う。
「お風呂を誘ってもらったので脱いでるんです」
アリアが今にも服を脱ごうとするからだ。
「お・・・お・・・男だけのつもりだったんじゃ!」
「私は気にしませんが」
「そ・・・そういう問題じゃ無いんじゃ」
「レイとは一緒に入ってるんですが」
「お、お前たち・・・そういう関係か?」
「い、いえ・・・違います」
僕は否定する。
「そういう関係?」
アリアは鈍いので、ピンと来ていない。
「あはは、アリアは気にしなくていいんだ」
「はぁ」
アリアは良く分からない顔をする。
「むぅ・・だが魔族の嬢ちゃんだけ入れないというのも可哀そうだ。
それで、どうだろうか、バスタオルを着用するという条件では?」
「私は裸でも構いませんが」
「わ・・・わしが照れてしまうんじゃ!」
「そうなんですね、それは申し訳ありません」
「ほっ」
王様は安心した顔をする。
「それじゃ、僕らは先に入りましょうか」
「そ、そうじゃな」
風呂場につくと驚く。
当然と言えば当然だが、王族の風呂って感じで豪華だった。
一体、桶で何杯分の水がここに入ってるのだろうか。
「凄く大きいですね」
「凄いじゃろう、ワシ自慢の風呂じゃからな」
「へぇ・・・」
その時、扉が開かれる。
「私は別に平気なのだけれど」
「そうはいきません、男性ばかりの薔薇の園。
危険があるかもしれませんから」
初めてみる女子の顔だ。
「お前まで入って来なくても」
王様は苦笑する。
「従者リサ、困ってる人が居れば手助けしてあげたくなるのです」
リサという女性は胸を張っていた。
バスタオルを巻いて、秘部は隠れてるようだった。
「じょ・・・女子!」
僕は見ず知らずの女子が現れることによって興奮して来る。
「不味いわ」
アリアがさっと僕の傍に行き、桶を顔の前に準備する。
「ぶーーーーっ」
僕は鼻血を思いっきり出してしまう。
「スッキリした?」
「ふぁいじょうぶ」
アリアに鼻にティッシュを詰めてもらう。
「慣れておるの」
王様は苦笑する。
「こちらは王様のナマコからキュビエ液を出しましょうか?」
「リサちゃん、そういうのは良くないぞ」
「王様ったら・・・恥ずかしがり屋さん♡」
リサは身体をくねくねさせていた。
「そういう訳じゃないじゃが」
王様は苦笑していた。
風呂桶でかぽーんと聞こえた気がする。
そして、皆して風呂に入るが、とても珍しい光景だ。
男女4人で風呂に浸かるなんて常識から言えばありえない。
僕、アリア、王様、リサの順だ。
「はぁ・・・」
「ふぅ・・・」
「ほう・・・」
「やぁん・・・♡」
1人、変な声が聞こえるが気のせいだろう。
そうに決まってる。
「そういえば、レイは友人が居るんじゃったな」
「知ってるんですか?」
「国民の事情はある程度は把握しておる。
細かい部分は分からぬがの、だからこうして尋ねておる」
「剣士のロスト、という人物が居ります」
「どのような人物じゃ?」
「そうですね・・・剣術に対してストイックな面があります」
「ほう」
「でも、その熱意はあまりいいものとは言えません」
「何故じゃ?」
「それは憎しみだからです」
「魔族に対する復讐・・・かの」
「恐らくは」
「そうか」
「でも、それはあくまで僕の考えなのでロスト本人に聞くのが一番いいでしょう」
「今度、会うことがあれば是非話をしてみたい」
「魔族に関してだけはダメですが、その他ではいいやつなんです」
「そうか、うちの部下にも似たような奴がいる」
「フードを被ってる男ですか?」
「そうじゃ、あやつも魔族を憎んでおる」
「もしかしたら話が合うかもしれません」
「ふふ・・・そうじゃな」
「アリア、そろそろ上がろうか」
「・・・」
アリアは無表情だ。
「アリア?」
「・・・」
しかし、声をかけても返事がない。
そこでハッと気づく。
「お、おい平気か!?」
「きゃーーっ、のぼせてます!」
リサさんは立ち上がる。
「リサさんだっけ?運ぶの手伝ってくれ」
「わ、分かりました」
「ベットは何処にありますか?」
「客間の寝室がある、お前たちを寝せようと思っていたが・・・。
丁度良かった、そこに運んでくれ」
「ありがとうございます、王様」
僕らは王様を置いて、寝室に移動する。
「おわっ」
廊下でウェインと再会する。
驚いたのも無理はない、
バスタオルで包んであるとは言え、半裸のアリア。
同様に半裸のリサさん。
そして、全裸の僕がそこに居たからだ。
「アリアがのぼせちゃって」
「それは大変だ、王様に命じられてベットメイキングはしてある。
こっちに来てくれ」
ウェインに案内される。
「ん・・・」
アリアは苦しそうだ。
「水、飲めそうか?」
「少し・・・横になってればよくなると思う」
「そっか」
「体調が急変したらおいらか、メイドのリサを呼んでくれ。
すぐに駆け付ける・・・隣の部屋で寝てるから起こしてくれて構わない。
じゃあな」
ウェインは立ち去る。
「体調悪いからってチャンスと思って襲っちゃだめですよ♡」
「襲わないよ!」
「おほほほほ、それでは失礼~」
笑いながら、リサさんは変なことを言って立ち去る。
窓からは風が入る。
「冷たくて気持ちいいわ」
「隣で寝ていい?」
「どうぞ」
僕はアリアの隣に横になる。
半裸のアリアに、全裸の僕。
変な気分になるな・・・いかん。
冷静にならねば。
「ぶっ」
僕は鼻血を出す。
「ごめんなさい受け止められなくて」
「いや、いいんだ」
僕は近くにあったティッシュで鼻を拭う。
少し落ち着いてきた。
「・・・」
「・・・」
無言の時間が続く。
「なんだか眠くないな」
「私もだわ」
「まだ、寝るには少し早いかもしれないね」
「なんだか退屈だわ」
「ウェインに相談したら本でも貸してくれるだろうか」
「今、行ったら体調が急変したと思って飛び起きてしまうわ。
それはとても迷惑な気がする」
「それもそうだな」
アリアは体調が悪いにも関わらず冷静な判断をする。
「それじゃ少し話をしようか」
「どんな話?」
「さっきロストの話が出たから彼にまつわる話をしよう」
「聞かせて」
「あれは・・・7年前だったかな」
僕は語り始めた。
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