自害しなかった魔族

唐草太知

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第11話:最後の日

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朝、この日はいつもと違ってた。
人間、生きていれば誰だって経験を積む。
それが浅いか深いかという話では無い。
誰にでも、何度も思い出される日がある筈だ。
それが今日だった。
「ん・・・」
今日は1人で起きる。
何だか妙に静かだ。
その原因はすぐに分かる。
アリアが居ないからだ。
気になり、家の中を探すが見つからない。
きっと1人でパン屋に行ったのかもしれない。
そう思って、僕はマントを羽織って出かける。
店の前まで行くと、休業中の張り紙を見つける。
ということは、アリアも居ない。
一体、何処へ行ったのだろうか。
「探したぜ・・・レイ」
「ロスト?」
彼は妙に息が荒い。
いつもはそんなに息切れしないのにと思う。
「ついにこの日が来たんだ」
「なんだよ、この日が来たって」
「アリアが人を殺した」
「何だって?」
そんな馬鹿なって思う。
肉を食べることに抵抗感を覚えてるのに。
人の命を労わるようなことを言っていたのに。
何故、何故?
そのことが頭の中でぐるぐる繰り返される。
「詳しい説明は城でする、ついてこい」
「あぁ・・・」
僕は言われるがまま、案内される。
「何故だ・・・どうしてじゃ・・・」
アースベルト王は亡きがらに向かって涙を流す。
「王様、あっしも同じ気持ちです」
バイアスが慰めている。
「おいらが居ながら・・・こんな」
「リサは悲しいです」
「・・・」
僕は彼の亡きがらを見つめる。
布が被せられていて、顔は良く分からない。
誰だ・・・誰が亡くなったんだ?
「おおぉ・・・ブレット・・・」
「泣かないで下せぇ・・・王様・・・あっしがついてやす」
「・・・」
亡くなったのはブレットか。
「こいつはてめぇが招いたことだぜ、レイ」
「僕?」
「アリアの監視を怠ったから死人が出たんだ」
「そうだ・・・おいらは知ってるぞ。
あの魔族はレイの使い魔だってな・・・」
ウェインが剣を向ける。
「いやぁあああああっ」
「騒ぐなよ、リサ・・・おいらはこいつを切らなければならないかもしれない」
「悪いが状況が分からない」
「惚ける気か、レイ。おいらは知ってるぜ。
お前は相当魔族を気に入っていたな」
「それとこれと何の関係が」
「お前と手を組んで、ブレットを殺したんだろう!?」
「違う、僕はやってない」
「その辺にしておけ」
「ロスト、止めないでくれ」
「レイ、俺についてこい」
「何処へ」
「ついてくれば分かるさ」
「・・・」
僕は黙ってロストについていく。
そして、地下へと案内される。
「ついたぜ」
そこで見たのは、牢で衰弱してるアリアだった。
「平気!?」
「えぇ・・・私は大丈夫よ」
「良かった・・・さぁ、出よう」
僕は安心した。
そして、出ることを提案する。
「ダメよ」
アリアは否定する。
「どうしてだ、君の力だったら」
「もう、いいのかなって」
「アリア?」
「私は人間を殺してきた。
だから、報いなのかなって思ってる。
ここから出ないことが罪を償う方法なのかなって」
「そんなことない、アリア。
君は、ここから出るべきだ」
「私は疑われてるわ。
魔法の力で、ここから出てしまえば人からどう見られると思う?
そのことを想像すると怖いの」
「それは」
僕は言葉につまる。
「レイ、分かってると思うが魔族は疑われてる」
「あぁ」
「今から24時間後、処刑が始まる」
「何だって!?」
「民衆の前で魔族を処刑することで人々を安心させようって魂胆だ。
まぁ、一種のイベントだな」
「アリアの命でそんなことはさせない」
「お前なら、そういうと思ったよ」
「ロスト?」
「証明して見せろ・・・猶予はある」
「ロスト・・・」
「魔族は嫌いだが、そこまで盲目的ではないつもりだ。
先ほどの場所に居た連中では冷静な話は出来ないだろう」
「僕に何を期待してるんだ?」
「真実だ」
「真実?」
「そうすれば、お前のお気に入りの魔族が救われる。
まぁ、もしかしたら罪が暴かれて結局処刑かもしれないがな。
俺としてはどっちでもいいが」
「よくないよ!」
「ふっ、冗談だ」
「性質が悪い」
僕は困惑する。
「俺が知りたいのは真実だ、お前もそれを望んでるだろう?」
「証明するよ・・・アリアが救われるなら」
「ふっ、良い目をしてる」
ロストは笑う。
「アリア・・・待っててくれ。
そこから必ず出してあげるから」
僕は牢の方を見る。
「俺は俺なりに調査してみるからお前はお前で調査するといい。
無事、証拠が見つかると言いな」
「あぁ」
僕は決意を胸に決める。
「そうそう・・・言い忘れていたが」
「なんだ?」
「ブレットの死亡推定時刻は朝の7~8時の間だ」
「ロスト、そんなこと分かるのか?」
「医者が言っていたのを小耳に挟んだ」
「盗み聞きかよ」
「ないよりはマシだろ?」
「そうだな」
「じゃあな」
「それじゃ」
僕はロストと別れる。
さて、最初に調査するべきは何処か。
パッと浮かんだのは遺体だ。
それを確認しないことは始まらないだろう。
僕は王の間に向かう。
「おぉ・・・ブレット」
アースベルト王は今も泣いていた。
「泣いてる所申し訳ないんですが遺体を調べても良いですか?」
「貴様、それでも人間でやすか?」
「こっちも大切な存在の命が掛かってるでね」
「だからって・・・」
「すまん」
僕は周りの制止を振り切り遺体を調べる。
確かに顔はブレットだ。
彼が仏さんで間違え無さそうだ。
「おい、勝手に」
「・・・」
僕はシールドを展開する。
「あっ」
バチっとバイアスを弾く。
「ず、ずるいぞ・・・」
ウェインも手が出せずにいる。
「これで殺されたのか」
パン切りナイフ(22cmほどで胸に刺さってる)
「これで魔族がブレットを殺したに違いない。
おいらは勿論、バイアスさんだってそう思ってる」
「あっしもウェインと同じ考えでやす」
「そう決めるのは早計です」
「なんでやすと?」
「僕が犯人なら、凶器は隠したがるもの。
魔族なら魔法を使えます、魔法で出した狂気の方が証拠が残らないのでは?」
「そ、それは・・・そうかもしれないでやすが」
「アリアが犯人と決めるのは早いです」
「だけど、おいらが牢に連れて行くと素直に同行した。
それは罪悪感があったからでは?」
「可能性は・・・0ではないですが」
「ほら、ウェインの言う通りでやす。
やっぱり魔族が・・・」
「でも、まだ分かりません。
処刑の時間は24時間後のハズです。
調べる時間はあるでしょう?」
「ロストの奴め・・・余計なことを」
「え?」
今・・・誰が言ったんだ?
「少しだけでやすよ・・・」
バイアスは呟く。
「分かってますよ、バイアスさん」
「分かってるなら、いいでやす」
「さて、調査を再開だ。
ん・・・?」
遺体を調べてると妙なことに気づく。
「これ、何でしょう?」
「小さな穴でやすね」
「おいらにも見えます」
腕に不自然な傷跡(0,5mmほどの小さな穴)
それを見つけた。
「遺体には他に不自然な点はありませんね」
僕はすくっと立ち上がる。
「もういいでやすか?」
「ブレットさんのことは調べる点はありません。
ですが、皆さんに話を聞きたいです」
「あっしらに?」
「はい、今日の出来事を教えてくれませんか?」
「どうしておいら達が教えないといけないんだ」
「ウェイン・・・教えてあげて欲しいでやす」
「バイアスさん、貴方は優しすぎます。
この人は・・・魔族と結託して殺したかもしれないんですよ。
それなのに・・・情報を教えろだって?白々しい。
アンタが真実を握ってるのに、何が教えろだよ」
「本当に知らないんだ」
「惚けちゃって」
ウェインからは話が聞けそうにない。
「あっしから少しだけ」
「バイアスさん!?」
「最初の目撃者は・・・魔族の嬢ちゃんでやす」
「アリアが?」
「本人曰く、死んでいたから、
王の寝室に居たあっしらに助けを求めたと。
でも、あっしらからすれば、
第一発見死者である魔族のじょうちゃんが犯人としか思えないでやす」
「そうですか」
だから、アリアは捕らえられたのか。
事情は呑み込めた。
「発見したのは8時だったと思いやす」
「なるほど」
ロストの言っていた死亡推定時刻と合う。
となると、王様とバイアスにアリバイがあるということか?
2人は王の寝室に居たのだから殺せない。
アリバイが無いのはアリア・・・か。
捕まるのも頷ける。
「話は終わりでやすか?」
「あぁ、すまない。考え事をしてて」
「それじゃ、王様を寝室へお運びするでやす」
「王を寝室へ?」
「心身がとても弱っておられる、可哀そうでやすから」
「分かった」
「それじゃ」
バイアスと、アースベルト王は去って行く。
「おいらはここで遺体を守ってる」
「感心するぜ」
「殺した奴がよく言う・・・」
ウェインには完全に恨まれてる。
仕方がない、別の場所へ行こう。
僕は従者の部屋をノックする。
「はい?」
「リサか?」
「すみません、着替え中です!」
着替え?
この時間に?
まさか・・・血の付いた服を着替えてるのか?
「入るぞ!」
僕は犯人を見つけたかもしれないと思って強引に入る。
「あわわわわ」
そこには半裸のリサが居た。
手には新品同然のメイド服が。
「悪い・・・」
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「出てってください!」
僕は追い出される。
そして、しばらくするとリサがOKを出してくれる。
「血のついた服を処分してるんじゃないかって思って」
「鼻血が出てますよ」
「悪い・・・ティッシュ貰えるか?」
「えーと・・・はいこれ」
「すまない」
僕は鼻を拭く。
「それで、リサに何のようですか?」
「ここ最近、妙な出来事は無かったかと思ってね」
「妙なことと言われましても・・・」
「些細なことで良いんだ、何かなかったか?」
「そういえば」
「なんだ?」
「リサに休んで欲しいって言われました」
「休んで?」
「はい、今日は部屋でゆっくりしてくれって。
後、ウェインも言われたと思います・・・」
「誰にだ」
「バイアスさんです」
「バイアス?」
「優しいですよね、普段頑張ってるから今日ぐらいは休んだらって。
掃除とか後であっしがやっておきやすからって。
だからリサ、お言葉に甘えて休んでたんですけど・・・悲鳴が聞こえて。
それで表に出たら・・・ブレットさんが」
「そうだったのか」
「どうして・・・あの人が。
毎日王様にパンを届けるのが好きって言ってたのに。
優しい人なんです、誰かから恨まれるような人じゃないんです」
「そうか」
「ブレットさん・・・どうして」
「・・・」
僕はリサを抱きしめる。
泣いてる彼女を放っておくのは出来なかった。
「ぐす・・・すみません泣くつもりじゃなかったんですが」
「いいんだ」
「すみません・・・本当に」
「落ち着いてきた?」
「はい・・・少しは」
「悪いけど、僕は調べなきゃいけないことがあるから」
「そうですよね、魔族のお姉さんを助けないとですから」
「あぁ」
僕はアリアにも話を聞かなければならないだろう。
彼女の元へと向かう。
地下にある、牢屋へ移動する。
「アリア・・・調子はどうだ?」
「貴方が来てくれるから平気よ、レイ」
「ごめんな、今すぐにでも出してやりたいが」
「いいのよ、レイがそう言ってくれるだけで救われるわ」
「でも、どうして捕らえられたんだ?」
「それが、急に王様から呼び出されて」
「アースベルト王に?」
「行ってみたら、兵士も見張りが居なくて。
不気味だったけど、王が呼んでるからと思って城に入ったの」
「見張りが居ない?」
そう言えば、休暇を与えたとリサが言っていたな。
「そこで、ブレットが死んでるのを発見したの」
「そうだったのか」
「私は助けを呼ぶべく、王様とバイアスを呼んだわ」
「そうか」
「そこで、呼んだら・・・私が殺したんだろって」
「なるほどね」
バイアスとの話に矛盾は無いように思える。
どちらかが嘘をついてるということは無さそうだ。
「話は終わり?」
「いや、少し気になる点がある」
「何かしら」
「どうやって、呼び出されたんだ?」
「それは、これよ」
アリアは手紙を取り出す。
「これは?」
「城に来いと、アースベルト王よりって」
「何も書いてないように思えるが」
「文字が書いてあったの、本当よ」
「大丈夫、信じてる・・・安心して」
「良かった、やっぱりレイに話して良かった。
他に人に言ったら疑われそうで黙ってたの」
「僕に話してくれてありがとう」
「ううん、こちらこそ」
「となると、相手は文字を操作する魔法を持ってる?」
「私は血液を操る能力だと思うわ」
「血液?」
「手紙から、僅かに血の香りがしたもの。
恐らく、血で書いた文字を私に送り届けた。
そして、城に来たタイミングで文字を消した」
「そうか・・・」
アリアの言い分に一理あると思う。
普段、魔法を使うから魔法使いの心理が分かるのかもしれない。
となると犯人は魔族か。
だが、関係者は全て人間のハズ。
アリアを除いて。
僕の張ったスターコネクトの結界があるお陰で魔族は入って来れないのだから。
スターコネクトは僕が許可した魔族しか入れない。
そうなると、余計にアリアが怪しくなる。
くそっ、僕の所為で逆に疑われるんじゃないか?
そんな不安が押し寄せる。
「もしも犯人が見つからなくてもいいわ・・・私は恨んだりしない」
「アリア?」
「だって、レイが苦しそうだもの。
そこまでして私は生きたいとは思えない」
「ダメだ、アリア・・・君は生きなければならない」
「どうして、そこまで」
「時間が・・・無いんだ」
「え?」
アリアが不思議そうに見つめる。
「ぐっ」
僕は鼻血を出す。
「牢に幽閉されてなければ拭いてあげるのに」
アリアは牢から手を伸ばす。
けれど、僕には届かない。
「大丈夫・・・大丈夫だから」
僕は鼻を抑える。
「レイ?」
「くそ・・・っ」
僕はその場で倒れる。
「レイ・・・起きて」
「あぁ・・・悪い、少し倒れた」
「少し?」
「アリア?」
「もう・・・30分は気絶してたのよ?」
「なに?」
僕の中では少し倒れただけのつもりだった。
でも、アリアから見ればそのぐらいの時間が経ってたのか。
「ねぇ、可笑しいわ」
「何も問題ない・・・何もな」
「そんな訳ないでしょう?」
「大丈夫だってば」
僕は立ちあがるが、もう一度倒れてしまう。
「フラフラだわ、原因がある筈よ。
隠さないで教えて、黙ってられるのは嫌いだわ」
「そう・・・だな・・・もう話すよ。
包み隠さず」
もう隠すのは限界だと感じ始めていた。
語るしかないのだろう。
「何が原因なの?」
「アリア・・・君と戦った時のことを覚えてるかい?」
「主従の儀式を結んだ時でしょう」
「その時僕は勝つために何をした」
「成長薬・・・あれは副作用があったのね」
「そうだ、600年分の魔力。
それを体内に入れるってことは器よりも中身が多くなる。
通常であれば少しづつ変化する筈が急激な変化が加わることになる。
すると、どうなるか」
「容器が破裂してしまう」
「だから・・・僕は壊れるんだ」
「それじゃあ鼻血を出していたのは興奮してじゃなくて」
「副作用の・・・症状さ」
「どうして隠してたのよ」
「君に・・・心配されたくなくて」
「心配するに決まってるじゃない」
アリアは下を向く。
「こうなって欲しくなくて隠してたんだけどな」
僕は苦笑する。
「何か・・・助かる道は無いの?」
「無いよ」
「そんな」
「ごめんね」
「謝らないでよ・・・私は謝って欲しいわけじゃない」
「その他に言葉が見つからなくて」
「あぁ・・・レイ・・・」
アリアは牢屋から手を伸ばす。
僕はその手を握りしめる。
「必ず君を牢から出す、それが残された時間の最高の使い方だ」
「お願い、どうにかして貴方が生き残る道を探して」
「ごめん」
僕は牢屋を後にする。
「レイ・・・私を置いて行かないで」
暗闇の中から悲し気な声が聞こえる。
でも、今はそれを聞いてあげる訳にはいかない。
僕は証拠を探さなくてはいけないのだから。
廊下に出ると、ロストと再会する。
「お前を探していたんだ」
「僕を?」
「どうした、具合悪そうだぞ」
「な、何でもないさ」
僕は鼻血を拭う。
「嘘ついてないか?」
「嘘ついてどうするって言うんだ。
具合が悪いなら正直に言った方が利口だろ?」
「お前が大丈夫って言うなら・・・」
「それよりも、探していたって?」
「少し気になる点があってな」
「何だい?」
「殺害の現場だが、王の間じゃないと思ってる」
「なんだと?」
「ワインセラーに台車があってな、血痕がついていた。
恐らくは死体を運んだ際についたと思ってる」
「よく見つけたな」
「重要な証拠になるろう」
「ありがとう」
「他に証拠がないか、調べてみる」
「分かった、僕は考え事をしてみる」
「考え事に夢中になって、そのまま処刑の時間にならないといいがな」
「ロスト!」
「ふっ、じゃあな」
彼は去って行く。
ロストにとってアリアの命はどうでもいいんだろうなって思う。
魔族を嫌ってるからな。
でも、僕はそうじゃない。
ちゃんと考えなければ。
客間に移動する。
そこで考える。
アリバイが無いのは従者と僕とロストとアリア。
ウェインとリサは休憩を貰って部屋に居た。
僕は自宅で寝ていた。
自分自身がやってないと証明できるが他人にそれは通用しない。
ロストも同じだろう。
彼が何をしていたか不明だ。
そして、一番怪しまれてるアリア。
どうして・・・手紙を信じて行ってしまったんだ。
そのせいで疑われてる。
晴らしてあげないと・・・アリアはやってない。
そう信じたいだけかもしれないが。
それよりも、何だか騒がしいな。
僕は客間を出る。
すると、頭巾を被った巨大な斧を持った男が歩いていた。
「はぁー・・・ほー・・・」
処刑人だ。
どうする、証拠は不十分かもしれない。
でも、残りの時間は少ない。
会話の中で犯人を見つけ出すしかない。
僕はそう決めて、王の間へ向かう。
「なんだ・・・あんたか」
「皆を集めてくれ」
「犯人が分かったのか?」
「あぁ」
本当は分かってない。
でも、見つけてみせる。
そう、決意した。
「分かってると思うが・・・魔族のじょうちゃんは開放させないぜ?」
「分かってる、無実を証明してからでいい」
「そうとう自信があるんだな」
「勿論だ」
本当は怖い。
犯人が見つからないじゃないかって心の中で思ってる。
そうなればアリアが死んでしまう。
僕も何も役割を果たすことなく無駄に死を迎える。
僕のためにも、そしてアリアのためにも犯人を見つけ出してやる。
「つれてくる」
そう言ってウェインが人を集めてくれる。
「リサは言われたので来ました」
「いつまでも落ち込んではいられぬ、王として犯人逮捕に貢献したい」
「あっしは王が心配で、ついてきやした・・・」
「犯人が分かったのか、レイ・・・俺はまだなんだが」
「おいらは言われた通りに連れて来たぜ?
さぁ、犯人の名前を口にしてくれ」
「その前にまず、状況を説明させてくれ」
「おいおい・・・俺は犯人の名前を言った方が早いと思うが」
「ここで名前を言っても言い訳されるからね。
言い訳をされないように証拠を1つずつ出して言い訳させないようにする」
「早くしてくれよ・・・でないと魔族を処刑する時間においら、間に合わなくなる」
ウェインは殺意たっぷりだ。
「まず、気になる点から。
被害者はブレット・・・間違えありませんね?」
「はい、リサも間違えないと思います」
「死んだのは凶器のナイフ、これはブレットの持ち物ですよね?」
「間違えない・・・わしが送ったんじゃからな」
「ブレットは恐らく、王様にパンを届けようと城に出向いた。
しかし、何者かの襲撃に合う。そしてもみ合ってるうちに死亡。
僕はそう思ってますが、他に意見は?」
「その襲撃者ってのは魔族のアリアでやしょう?
あっしはそう睨んでるでやす」
「確かにアリアは現場に居ました、本人からも聞きましたし」
「ほら・・・魔族のじょうちゃんで間違えないでやす」
「慌てないでください、そう決まった訳ではないです」
「む・・・」
バイアスは不満そうだ。
「では、動機は何でしょう?」
「魔族ってのは人から嫌われてる、だから嫌なことを言ったんだ。
おいらが思うに、魔族は国民じゃないから出ていけ・・・とかな」
「ブレットさんはそう言う人に思えますか、アースベルト王」
「わしは・・・そうは思えん」
「僕もそう思ってます、現にブレットさんの店で手伝いをしたことがあります。
その際、アリアのことを悪くは言いませんでした。
僕が店頭に出ていた日、客と会話をしました。
店を手伝っていた証拠の裏が取れるはずです」
「アリアに動機は無いです」
「それじゃ、誰になら動機があるんじゃ?」
「襲撃者です、目的は不明ですが何か悪いことをしていた。
そのことをブレットに目撃されて口封じのために殺したんでしょう」
「ありえる話じゃ」
「そんなことを言ったら幽霊が犯人って線もありやす。
襲撃者が居たという証拠があるんでやすか?」
「証拠は・・・ありません」
「それなら、あんたの話は疑わしいでやすね。
やっぱり、殺したのは魔族のじょうちゃんってことになるでやす」
「・・・」
くそっ・・・ここまでなのか?
僕じゃ、犯人逮捕まで行くのは無理なのだろうか。
そんな風に思っていた時だった。
「証拠はあるぜ」
「ロスト?」
「血の付いた布切れだ・・・襲撃者が居た証拠だろう?」
ロストは証拠品を提示する。
「ロスト・・・持っていたのか」
「いざって時のための切り札に使おうと思ってな。
役に立ったようで何よりだ」
「助かったぜ」
「礼は早いぜ、レイ・・・っとダジャレに聞こえるな。
俺はそういう親父ギャグみたいなの嫌いなんだが・・・」
「これで分かった筈です。
襲撃者は確かに居ました・・・そして、この布はアリアのじゃない。
すぐに逮捕されて牢屋に監禁されたアリアに着替えをする瞬間は無かった筈です。
なので、今着てる服で布を切断した部分が無ければ・・・アリアは襲撃者ではないと言えます」
「ということは、アリアさんは関係ない?
リサの考えって当たってますよね?」
「僕はそう思ってます」
「えへへ」
リサは嬉しそうに笑う。
「じゃ、じゃあ・・・どうして魔族の嬢ちゃんは城に来たんでやすか?
用事もないのに来たのは可笑しいでやす!」
「アースベルト王、そういえば質問があるんですが」
「なんじゃ?」
「貴方は、アリアに手紙を出しましたか?」
「いや・・・出してないの」
「アリアは王に手紙を貰ったと言ってました。
だから城に来たと、バイアスさんへの答えはこうです」
「その手紙は?本当に書いてあったでやすか?」
「実は・・・文字は書いてありませんでした」
「なら、その魔族の嬢ちゃんの嘘って線もありえるでやす」
「確かにその通りです、だけど・・・封筒はどうですか?」
「封筒・・・でやすか?」
「封筒には手紙が出ないように接着剤となるものを使う必要があります。
そして、それには人の個性が出るのです」
「リサ、分かりましたよ。
シーリングスタンプですよね?」
「その通りです、リサさん」
「えへへ」
リサは嬉しそうにする。
「シーリングスタンプにはアースベルト王の印が入っています。
だからこそ、手紙を見たアリアは信じたのです。
これは、王からのメッセージだと」
「だが・・・わしはそんなもの」
「王様の言い分を信じるのならば、王を除いた従者。
バイアスさん、リサさん、ウェインさんが怪しいと僕は思ってます。
シーリングスタンプを盗んで使えるのは城内の人間だけですから」
「そ・・・それじゃあ・・・あっしは違うでやす」
「バイアスさん、何故、そう言い切れるんです?」
「あっしにはアリバイがありやす。
死亡推定時刻は7時から8時の間・・・王様と居たでやす」
「わしが証人じゃ・・・老眼で目が悪くての。
少し・・・身の回りの手伝ってもらっておったんじゃ」
「なるほど、そうだったんですね」
僕は頷く。
「り・・・リサはアリバイがありません。
バイアスさんに休憩を言い渡されて部屋で休んでいたので」
わなわなと震える。
「お、おいらもだ。でも、やってないぜ、本当だ!」
ウェインも先ほどと違い立場が悪くなって慌てる。
「そのアリバイは本当でしょうか」
僕は疑問をぶつける。
「どういう意味でやす?」
バイアスが疑った目で見てくる。
「僕は、こう聞きました。
医師は確か7時から8時の間に殺害した。
そう言ってたんです、皆さんもそうですよね?」
「間違えないと思うぜ、俺はそう聞いた」
「そのことに疑問は無いでやす」
「リサも、お医者様からそのように」
「お、おいらもだぜ!?」
「ワシも・・・そう聞いておる」
「でも、僕は思うんです医者の言い分は真実なのかと」
「いい加減なことを言うなでやす」
「いい加減ではないです、根拠はあります」
「なんでやすと?」
「医者が死亡推定時刻を判断するのに腐敗の進行具合を見るそうです」
「それが・・・どうしたでやす?」
「前に室内の温度を変化させることで腐敗の進行を操作した人の話を聞いたことがありまして。
そこで、ピンときたんです。アリバイは正しくない可能性があると」
「なんじゃと!?」
「しかし、遺体があった王の間。
入った時に温度に違和感はありませんでした」
「リサ、分かりました。
ブレットさんは服を脱いで温度調節をしたんですね!?」
「すみません、違います」
僕は咄嗟に否定する。
「あぅ」
リサは落ち込んだ顔をする。
「では、どうやってやす?」
「ブレットさんについていた不自然な小さな傷穴。
それは恐らく注射針のようなものを刺されたんでしょう。
そして、血液を抜き取りミイラ状にしたんです。
腐敗は水分があることによって起こる現象です。
ミイラになれば腐敗が進行しなくなる」
「でたらめでやす、そんなこと出来る訳」
「出来ます・・・襲撃者ならば」
「なんでやすと!?」
「王から来たとされる手紙は文字が消えてました。
それは何故か、血液操作の能力を持つ存在だからです。
そんな襲撃者ならば、遺体をミイラ化したり、通常の死体に変えることも可能でしょう」
「なるほど、血液で書いた文字なら魔法で消せるということじゃな」
「その通りです、アースベルト王。
ミイラ化した遺体の死亡推定時刻は信頼に欠けると思いませんか?」
「確かに、そうじゃな」
「そして、アリバイを作るためには誰か証言してくれる人が重要です。
襲撃者が選んだのはアースベルト王」
「ワシか?」
「そうです、最初見た遺体は恐らくミイラだったはず。
でも、それをミイラ化した遺体だと認識できなかった。
そうなるように仕向けたかった、だから王が適任なんです」
「そうだ・・・わしは目が悪い。
老眼じゃからな・・・。じゃから、遺体の確認を頼んだ」
「そうです、そうして襲撃者はまんまとアリバイを成立させたのです。
王様という、周囲から信頼されてる人物を利用して」
「じゃが・・・そうなると、それが出来るのは」
アースベルト王はちらと見る。
いや、王だけじゃない。
その場にいるもの全員が一点に集まる。
「あ・・・あっしじゃない。あっしはやってない!」
「まだシラを切るつもりですか、バイアスさん」
「あっしじゃないんだから、シラを切るもなにもないでやす」
「まだ否定するんですね」
「当たり前でやす、あっしじゃないのに犯人扱いされ・・・。
否定するのが普通でやす!」
「分かりました、それではもう少し続けましょう。
襲撃者はアリバイを作るためにミイラ化をしました。
ですが、偽のアリバイを作る途中で誰かに見つかっては元も子ありません。
そう考えると、遺体を隠す場所が必要です。
それは何処かわかりますか?」
「リサ、分かりました。
ワインセラーですよね!?」
「そうです、リサさん。賢いですね」
「えへへ」
リサは褒められて嬉しそうな顔をする。
「ミイラ化したのに加えてワインセラーという環境。
温度は一定で、しかも低い。腐敗は進行しにくいでしょう。
それに限られた人物しか入れない。まさに遺体を隠すのにうってつけです。
そして・・・ワインセラーにあった荷車に血痕がついていたそうです。
ロストが証言してくれました」
「俺が見つけたんだぜ?」
「うぐぅ・・・あっしじゃない・・・あっしじゃ」
「いい加減にしてください、バイアスさん。
ワインセラーにはあなた以外、入れないんですよ?」
「あっし以外だって、あっし以外だって入れるでやす!」
「バイアス・・・わしはお前を信じて・・・預けたものがあるだろう」
「あっ・・・」
バイアスの胸元がきらりと光る。
「ワインセラーのカギは誰が持ってますか?」
僕は尋ねた。
「・・・」
バイアスは黙る。
「バイアスさん・・・もう認めますね?」
「どうして・・・バイアスさん。
リサは信じられません、一緒に働いてるときに掃除の仕事を変わってくれたことがあったのに」
「おいらが見回りしてる時に暑いからって水を差しいれてくれたのに。
どうして、ブレットを殺したんだ、答えろよォ!」
ウェインは涙を流しながら剣をバイアスに向ける。
「あっしは悪くない、あっしは悪くない、
あっしは悪くない、あっしはあっしはあっしは悪くない、悪くない、悪くない。
あっしはあっしはあっしはあっしはあっしはあっしは。
あっしはあっしはあっしはあっしはあっしはあっしは・・・あっしは・・・。
あっしは・・・悪くない!」
「バイアス・・・どうしたんじゃ」
「あんたがいけねぇんでやすよ!」
「ワシが・・・何をしたんじゃ」
「あんたは老いた・・・とてもじゃないがこの国は任せられない」
「なんじゃと!?」
「この国には結界が張ってある。
だから、あっしは魔族の象徴である角を切断した。
痛かったなぁ・・・血が沢山出て。
そして、血液を抜いて人間の血と入れ替えたんでやす。
ドナー提供した人間が性格が変わるように、
魔族のあっしに人間の血を入れることで人間と誤認させたんでやすよ。
もっとも・・・そのせいで酷く弱りましたがね。
お陰で王に開放してもらってラッキーだったでやす」
「ワシが助けてやったのは演技だったのか?」
「そうでやす・・・王の懐に入るためにね。
そして、借りを返すという名目で住み込みで働けたでやす」
「どうして・・・ブレットさんを殺したんだ!」
「あっしは泣く子と地頭には勝てない。
という言葉を信じてるでやす、結局のところ、弱い奴は強い奴に従うしか生きていけないんでやす。
ですがね、その強いと信じてたやつが弱まっちゃあ意味が無いんでやすよ!」
「バイアス?」
「あっしは見られたのさ・・・この国の王となるべく存在との密会をね!」
すると、突然爆発音がする。
そのせいで、土煙が天井から出る。
「何だ!?」
「スターコネクト・タワーが壊れた音だ!
予行演習の結果が上手く行ったでやすね」
「予行演習?まさか、前に火事があったのは」
「ひゃはははははははははっ」
バイアスは逃げ出す。
「俺はあいつを追いかける・・・奴を殺さないと気が収まらん」
「おいらも、同じ気持ちだぜ!」
「ウェイン、待ってくれ」
「なんだ、急いでるんだ。要件を早く」
「牢のカギを」
「あぁ・・・そうだったな」
ウェインはカギを投げて寄越す。
僕は受け取った。
「ありがとう」
「疑って悪かった、魔族は・・・アリアは悪く無かった」
「疑う気持ちは分からないでもないさ、ウェインは悪くない」
「すまない」
そして、ウェインはロストのことを追いかけ始めた。
「ワシは・・・信じてたのに」
「王様、リサがついてますよ」
「・・・」
王様にはリサがついてる。
ここは彼女に任せておこう。
僕は、僕の役目を果たすんだ。
「レイ・・・無事なのね」
「ごめんな、こんな所で待たせて。
せめて、喫茶店だったら良かったんだが」
「デートじゃないんだから・・・」
アリアに冷静にツッコまれる。
「今、開けるぜ」
「お願い」
僕はカギを開けてアリアを牢から出す。
「アリア」
僕は彼女を抱きしめる。
「少し痛いわ」
「それぐらいの方がいいんだ」
「そうね」
僕らは少しの間、抱き合う。
「お帰り」
「ただいま」
「アリア、不味いんだ。バイアスって男が」
「分かったわ、捕らえるんでしょう?」
「あぁ、アリアが入ってた牢屋にぶち込んでやろうぜ」
「それは命令?」
「命令だ」
「命令なら聞くわ」
「その意気だ」
僕らは最後の戦いへと赴いた。
全ての決着をつけるために。




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