100万ℓの血涙

唐草太知

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俺は支度を始める。
トラベルバックに着替えとか、家具とかを詰め込む。
「こんなものかな」
部屋が大体片付く。
家具が無いと部屋ってのはこんなに広い物なんだなと感じる。
引っ越しを経験した人間なら理解できるだろう話だ。
「何してるの?」
そこにエナトリアがやってくる。
「何って見れば分かるだろう?」
「引っ越す気?」
エナトリアは少しイラついてるように見える。
「あぁ」
「何で!」
両手を広げて身体を大きく見せてくる。
まるで獣の威嚇だ。
「ここの住人に嫌われてるようだからな。
家を出るのさ」
「何で簡単に諦めちゃうのよ、クルバスが必死に説得すれば分かってくれるわ」
「必死に説得するより、俺は家を出た方が楽なんだよ」
「楽とか、そういうんじゃないでしょ。
誤解されたままなんだよ、それでいいの?」
「別に」
「別にって・・・」
「元々、ここに居る住人達と仲は良くなかった。けれど今までは距離があって交わることは無かったから、それで平和だと俺は感じていた。でも、向こうはそうじゃなかったんだろうな。顔も良く知らない人間が長年この地に居て、不気味というか、信用できなかったんだろう。それだったら俺が家を出ていけば、ここに居る連中は満足なんだろうよ」
「本当にそれでいいの?」
「あぁ」
「ダメ」
「ダメ・・・って」
「絶対に、絶対に、ぜーーーーったいにダメ!」
エナトリアは必死に訴える。
「何でお前がそんなに必死なんだよ」
「明るい別れだったら問題ないの、やりたい仕事があって、それをしたいからこの町を出る。周りの住民たちは夢に向かって頑張るのか、いいね、応援してるよって、前向きに貴方を送ってあげれる。そうしたら、いつ、また何処かで再開したのなら、笑顔で貴方のことを迎え入れることが出来る。でもね、クルバスの事を悪い人だって誤解されたままで居たら、次、もし再会した時に凄く嫌な顔をされる、それはとても寂しいことだわ。それでいいの?」
「あぁ・・・」
「私が嫌!」
「なんでお前が嫌なんだよ」
「クルバスは良い人なんだ、優しい人なんだ、誤解されたままなのは嫌だ!」
エナトリアは訴える。
「俺はお前に何かしたか?優しくした覚えはないんだが、それで善人扱いって・・・もしも俺が本当に魔族のスパイとかだったらどうするんだよ」
「一緒に踊ったじゃない」
「踊ったって、それだけかよ」
「うん」
「うんって」
俺は呆れるしかなかった。
「いけない?」
「当たり前だろう、人を信頼するってのは長い間時間をかけて積み上げるものだろう。それを昨日今日知り合ったばかりの人間に使う言葉じゃない筈だ」
「10年経ったら君のことを信頼してもいいの?」
「それは・・・」
「10年経ったら信頼できるのならば、今ここで信頼するのと何が違うの?」
「・・・」
俺は言葉に詰まる。
エナトリアの言葉があまりにも力強く、
眩しかったからだ。
俺にこれを否定できる言葉は見つからなかった。
「大丈夫、君は優しい人だ。私はそういうの分かるんだ」
「間違ってるかもしれないぞ」
「私が決めたことなんだ、問題ないさ」
「分かったよ」
俺は心が折れる。
ここまで説得されてはどうしようもない。
「ありがとう」
エナトリアは俺に抱き着く。
急に飛び込んでくるので受け入れるしかない。
「どうして君がありがとうなんだ」
「言いたい気分だったんだ」
「面倒だが家具を元に戻すかな」
「手伝うよ!」
エナトリアは俺のトラベルバックから物を取り出す。
「悪いが、勝手に触らないでくれ」
「何これぇ!」
「何処かの民芸品だったかな、ハニワって言うんだ」
「変な顔!」
エナトリアはけらけら笑ってた。
「魔よけの意味もあるらしい」
「へぇ、そうなんだ」
「魔族が来なくなるかもしれないな」
「そうだったらいいな」
「えぇっと、椅子は何処かな」
あちこちに包んである風呂敷がある。
このどれかが椅子だったような気がするが。
「ねぇ、クルバス」
「なんだ」
「どうかな」
「どうって・・・ぶっ」
俺は思わず吹き出す。
なんとそこには彼シャツを着てるエナトリアが居たからだ。俺の身長は180cmで、エナトリアは176cmだから丈は問題ない。だが、女性らしいラインというか、エナトリアは巨乳だから男にない部分が膨らんで見える。
「似合う?」
「下履いてるのか、それは」
「履いてなーい」
さも当然とばかりに言うエナトリア。
「履いてくれ、俺の目のやり場に困る」
「やだぁ」
「エナトリア」
「君が履かせてよ、そうしたら履いてあげてもいい」
彼女は腰を振って、アピールしてくる。
その動きは扇情的で情欲を煽り立てるものだったが、ここは我慢するのが正しい対応だと信じて何もしない選択を取った。
「全く、困った人だな」
俺はため息を吐くのだった。
そして椅子を探す作業に戻ったのだった。
「私に触れるチャンスだよ、次はいつ来るか分からないよぉ」
「そんなのいいから家具を元の位置に戻すのを手伝ってくれ」
「もぅ、ノリが悪いんだから」
エナトリアは作業に戻るのだった。
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