100万ℓの血涙

唐草太知

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すでに多くの人間が王城の前に来ていた。
人、人、人で埋め尽くされており、移動も普通に出来ない。
「くそ、なんだってこんなに人が居るんだ」
「むぎゅぅ」
人に押しつぶされて苦しそうだ。
「手を・・・」
俺は彼女に手を伸ばす。
「クルバス・・・」
互いに手を伸ばす。
指先が触れそうで触れない。
そんなじれったさを感じつつも、何処かで届くと信じて手を伸ばす。
しかし、無情にもエナトリアは遠くへ行くのだった。
「エナトリア!」
彼女の名前を叫ぶも、無残にも姿は消えてしまった。
完全にはぐれた。
「王の入場です」
兵士らしき男が高い所から皆に聞こえるように大声を出す。
そして、部下の男たちが管楽器でファンファーレを鳴らす。
音が鳴りやむと、
10mは超えてそうな無駄に大きい扉が開くのだった。
「諸君、おはよう」
「リブルス王だ!」
民衆の声が沸き起こる。
地面が揺れるほどの震えが起きた。
大勢の力というものを感じる。
「皆が集まって貰ったのは他でもない、
勇者を決める祭典だ」
身長は175cm。
体重は102kg。
大柄な体格をしてるなと思った。
お腹が分かりやすく出てる。
そして王様らしく王冠を被り、
派手なマントを身に着けてるのだった。
富豪としての立場を誇示したいのだろうか?
「どうやって決めるんだ?」
そんな声が民衆から聞こえる。
「そう思うのは無理もない、
勇者を決めるのだから、
何か特別なことをしなければならない。
でなければ意味は無いからな」
「それでは、王よ、どのようなお考えで?」
民衆の声が聞こえる。
「それでは答えよう、それはこれだ」
「何だあれは」
それは壊れた剣だった。
握る部分はかろうじて残っているが、
肝心の刃が無い。
あれでは何も切れやしない。
「この剣を人々の前で修復して見せるのじゃ」
「なんだって!」
ざわめく民衆。
「王よ、それでは鍛冶職人としての腕を見る。
ということでよろしいのですか?」
民衆の1人が声をかける。
「違う」
王は否定する。
「では、どのようなお考えで?」
民衆は尋ねる。
「この剣はな、実は聖剣と呼ばれるもので出来ておる」
「それでは、もしかして伝説の・・・」
「そうだ、かつてこの世界が暗黒に満ちた時。
ある1人の勇者が現れた。
その勇者は剣を振るうことで荒れ狂う海を断ち切り、
道を切り開いたと言う伝説を持つ。
そして、
人々が行くことが出来なかった魔王の住む島へ上陸し、
見事討ち滅ぼしたとされている。
この聖剣は魔力の力でどんな姿にでも形を変えるらしい。ゆ
その魔力を持って剣が巨大化し、
海を断ち切ったのではと言われておる」
「その聖剣が今ここに」
「そうだ」
「なるほど、勇者選定に相応しい競技というわけですね」
「もしも聖剣を扱えるほどの強大な魔力があるのなら、
魔王にも立ち向かえるだろう、そう、判断しての選定じゃ」
「それでは王よ、聖剣に選ばれた者以外は才能無しとして魔王討伐には行けないと?」
「いや、それでは1人で戦わせることになる。
むろん、聖剣は勇者のモノじゃ。しかし、それに同行するメンバーを募集しても構わん。そいつらも勇者として認めても良い。
勝利するためには人数で押し込むべきじゃ、そうした方が勝率があがるだろうしの」
王はそう説明する。
「こいつは・・・」
ざわざわと民衆が騒ぎ出す。
まぁ、俺には関係ないことだな。
聖剣を修復出来るほどの魔力があるとも思えないし。
「それでは誰か挑戦するものはおるか」
王が民衆に声をかける。
「それでは僭越ながらワタクシめが」
「よい、挑戦して見せよ」
「ははっ」
男が兵士に通されて階段を上がる。
そして聖剣の前に立つのだった。
「直して見せよ」
「来い、ヴァルゲリオン!」
男は聖剣の名前を叫ぶ。
しかし、剣は一瞬だけ発光したが治る気配は無かった。
「聖剣の名前はヴァルゲリオンじゃないんじゃがのう」
「あはは・・・カッコいい名前を言った方がやる気が出るもので」
男は恥ずかしそうに笑う。
「残念ながら不合格じゃ」
「そんなぁ」
「帰れ、無能め」
兵士は男を蹴飛ばす。
「あぐっ」
男は人ごみに飲まれるのだった。
「次は俺だ、私よ、いいや僕だ、自分が・・・」
そんな民衆の声が聞こえる。
「むぅ、これでは今日中に終わらないかもしれんの」
王様は困った顔をする。
「王様・・・※※※※※※」
兵士の1人が王に声をかける。
耳打ちなので何を言ってるのか分からない。
「なに?ほぅ、それはまことか」
「試してみては」
「皆よ、聞け」
王様が立ち上がる。
そして刃の無い聖剣に近づく。
「どうしたんだ、いったい何を」
民衆が不安そうにする。
「ふん!」
王はあろうことか大事な聖剣を民衆の中へ投げたのだ。
その驚きの行動に一瞬、呆気にとられたが賢いものは、すぐに気づいた。そして、行動に移す。
「取れ、あれを手にしたのが勇者になれるぞ!」
そんな声が聞こえて余計に混乱が深まる。
「くそ、こんな人ゴミの中でどう動けって言うんだ」
俺はただ人の海に飲まれる漂流者でしかなかった。
「苦しぃ・・・」
誰かがそんなことを言う。
運悪く倒れこんでしまい、人々の足に踏まれてる男が居た。
先ほどのヴァルゲリオンの人だった。
「勇者を目指してるんだろ、今ここで人が苦しんでるんだ。
聖剣より重要なことがあるんじゃないのか!?」
俺は叫ぶ。
しかし聖剣の魔力に取り付かれたのか、
人々は俺の声なんて聴く耳を持たなかった。
「たす・・・けて・・・」
ヴァルゲリオンの男が倒れて下敷きに。
「ghost past(ゴースト・パスト)!」
俺はヴァルゲリオンの男を握り、民衆から逃げ出す。
通常であれば、人は人にぶつかったら動きが止まるものだ。
けれど俺が使った魔法のお陰で人を通り抜けることが出来た。
聖剣を使えるほどではないが、俺にだって魔法は使える。
「げほっ・・・おえっ」
人ごみから一瞬で外に出た。
「平気か」
「ありが・・・とう・・・」
男は苦しそうにしながらも、何とか声を出して礼をしてくれた。
「おおおおおおおっ」
民衆の雄たけびが聞こえる。
それは何故か。
聖剣の持ち主が決まったからだ。
「わた・・・し?」
エナトリアが天使のような翼が生えて空を飛んでいる。
民衆はその光景を眺めることしか出来なかった。
そして、その手には聖剣が聖剣らしく美しい刀身を光らせていた。
聖剣が元に戻ったのだ。
「今ここに、勇者が誕生した」
王の号令と共に今世の勇者が生まれるのだった。
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