100万ℓの血涙

唐草太知

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また・・・この景色だ。
セピア色の、白黒の世界。
「・・・ス」
誰かが俺を呼ぶ。
「誰だ?」
「クル・・・バス」
「エナトリア?」
「良かった、君が死んでしまったのではないかと不安になったんだ」
俺は地面に横たわっていた。
そして、それを見下ろすようにエナトリアが居た。
「もしも・・・死んでたらどうする?」
「そうだな、君を迎えに行く。
冥界に行って、冥府の王を殺したら君が生き返るんじゃないかな?」
「冥府の王を死なせないためにも起きるよ」
「そうだね、それがいい」
俺はエナトリアに起こされる。
俺たちは、そうして旅を再開する。
そして、辿り着いた村に彼女が居たんだ。
「ようこそ、勇者様」
村人の1人が村に入るなり、挨拶してくれる。
「何か名物は無いのか?」
「名物・・・ですか?」
「そうだ、お腹が減ってる。私は何か食べたい」
「名物・・・はありませんが占い師が居ます」
「占い師?」
「はい、彼女には気を付けてください。
お金を盗まれますよ」
「大丈夫だ、泥棒に襲われても私は強いからね」
「それなら大丈夫でしょう、では」
そう言って村人は離れていく。
「どうする、エナトリア?」
「どうするって、その占い師をやっつけよう。
もしかしたら村人がお礼に何かご馳走してくれるかもしれない」
「エナトリア・・・」
俺は呆れる。
「いいじゃないか、美味しいものを食べるのは旅の醍醐味だ」
「いいのかな、旅を楽しんでも」
「いいじゃないか。魔王を倒して、ついでに旅も楽しむ。一石二鳥だ」
「二兎を追う者は一兎をも得ずって言うだろ?」
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うじゃないか。沢山やって1個でも掴めるものがあるのなら、それは良いことだろう、クルバス」
「分かったよ、君が正しい」
「そうこなくっちゃ」
エナトリアは楽しそうに笑う。
本当に彼女はとても前向きだった。
その明るさに俺も前に進みたいと思える何かがある気がした。
「ここが占いの館か」
「たのもーっ」
「それは道場破りじゃ」
「誰?」
面倒くさそうに返事する女性が居た。
そこにはあどけない表情をした若い魔女が居た。
「君を殺しに来ました、勇者のエナトリアです」
エナトリアはにこっと笑う。
「ひぇっ」
魔女は怯える。
「待って、話が飛躍しすぎ」
俺はエナトリアを止める。
「えー、面倒じゃん?」
エナトリアはぶつくさ言う。
「面倒で殺さないでください」
魔女は抵抗する。
「まずは話を聞こう、俺の名前はクルバス」
「クルバス?」
「そうだ、それで、えーっと、君が人から金を奪ってるって話は事実かい?」
俺は冷静に話を進める。
「あー・・・そのことね」
魔女は頭を掻く。
「知ってるなら話が早い、それで事実なのか?」
俺は尋ねた。
「違う・・・って言ったら信じる?
まぁ・・・どうせ信じないと思うけど」
「信じるよ」
エナトリアは力強く言う。
「分かってるよ、信じてくれないって。
それでもいいんだ。うちは・・・疑われたって。
え、嘘?」
「嘘じゃないよ、本当だよ、私は信じる」
「でも、だって、うちらあったばかりじゃん」
「それじゃ嘘ついてるの?」
「嘘ついてないけどさ、でも・・・普通は信じないじゃん」
「私さ、そういう何て言うのかな。不遇な人を見つけるのが得意って言うか、誰にも信じて貰えなかった可哀そうな人を知ってるんだよね。だから、誰にも信じて貰えないってのは辛いんだろうなって分かるんだ。だからまずは話を聞いてみようって思う」
エナトリアはそんなことを言う。
「誰の事だろうな」
俺は気づかないフリをする。
「誰の事だろうね」
エナトリアは俺の方を見て微笑む。
「でも、それでうちが嘘ついてたらどうするのさ」
「人のつく嘘に負けるほど、勇者は弱くない。
だったら1度は信じてみて、それから嘘をついてるのか、それとも本当のことを話してるのに、誰にも信じて貰えてないのかを確かめるの、ね?」
「なるほど・・・凄い人だ」
魔女は少し感心したようだ。
「私に話してみてよ、えーと、名前何だっけ?」
「ルル・・・未来視ルル」
「そう、未来視ルルね、素敵な名前」
「うちは占い師なんだ」
「占い師、名前の通りで未来を占うの?」
「そう・・・でもここの人たちはうちのことを少し誤解してる」
「誤解?」
「占いは未来予知じゃない。確定した未来を教えるのが仕事じゃないの」
「それじゃ、何を教えるの?」
「それは不確定な未来」
「それって何でもありなんじゃ」
俺はそう言う。
「そう・・・とらえられても可笑しくない。
でも・・・嘘は言ってない・・・未来は常に変化して・・・確定した未来など有り得ないのだから」
「なるほどね」
エナトリアは納得する。
「未来が・・・こうなるかもしれない。
そう・・・教えてあげて・・・自分だったらその未来に対して・・・こう行動をしたいって考えるキッカケを与えるのが占いの仕事なの・・・でも世の中の人は即物的なものを求めるから・・・うちと考えが合わない」
「って言うと?」
俺は尋ねる。
「宝くじの当選番号を当ててとか、好きな人が誰を思い慕ってるのとか、そういうことを当てるのが仕事じゃないの。もしかしたら、魔族に襲われるかもしれないから日々身体を鍛えた方がいいとか・・・そういうことを教えるのが仕事なの・・・でもそう言うと・・・皆は詐欺だって言うの・・・嘘をついてないのに・・・・どうして誰も信じてくれないのだろう」
「私は信じるよ、ルル」
「でも・・・」
ルルは俺たちの言葉を受け入れることに戸惑ってる様子だった。それも無理ないだろう。今まで信じて貰えなかった人が、急に信じてあげると言われても、そんな幸運をいきなり信じられるものだろうか?
いや、難しいはずだ。
でも、それでも、前を向くには信じてもらわねば意味は無い。
「俺も信じるよ、ルル」
「どうして君はそう言い切れるの?」
「俺も・・・・人から嫌われてたから」
「え?」
「人に嫌われることに慣れてしまうと、これでいいやって諦めちゃうんだ。どうせ俺の言葉なんて誰も聞き入れはしないんだって、俺は本気でそれでいいと思ってた。でも、それは間違えなんだって思えるようになってきた」
「それは、どうして?」
「ここに居るエナトリアと言う女性が居たからだ。また、人を信じてもいいのかなって思えてきた。心の中に信じられる人が居ると、とても心が温かいんだ。これは、人に嫌われていた時では感じなかった温かさだった。ルル・・・出来ることならば君も同じようになって欲しいって思ったんだ。だから、逆にそっちが嘘くさいって思うかもしれないけれど、俺たちは君を信じるって言葉を使うんだ。仮初の言葉かもしれないけれど、それがいつか本当になればいいと願って発言してる。やっぱり、言葉にしなければ伝わらないからね、思いはさ」
「クルバス・・・」
「今日はずっと一緒に居よう。
仲を深めないか、ルル」
「えっと、うちはいいけど・・・そっちのお姉さんは良いの?」
「私も問題なし、仲よくしよう。ルル?」
「分かった・・・少しの間かもしれないけれど・・・よろしく」
そうして俺たちは握手を交わしたのだった。
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