１００万ℓの血涙

１２－１

世界はセピア色に染まる。
建物や人々は白黒に映るのだった。
それは小さな村だった。
けれど、そこはすでに魔王に支配されていた。
村人たちは怯えて暮らすしかなく、
魔王が来ると必ず何かを献上しなくてはならなかった。この日も、魔王が来ると噂を聞きつけて、村人たちは献上品を考えるしかなかった。
「どうか、魔王様にこれを」
村人の男がパンを差し出す。
「不味そうなパンだな、これじゃ魔王様は喜ばれない」
魔族Ａが否定する。
「そんな」
村人は落ち込む。
「次」
「是非とも、魔王様にはこの宝石を」
村人の女性は宝石を差し出す。
「ふむ」
魔族Ａは何か考え込むしぐさをする。
「あ、あの？」
村人の女性は困惑する。
「綺麗だな」
魔族Ａはそんなことを言う。
「え？」
女性は急に褒められて戸惑う。
「こっちに来い」
魔族Ａは人気の少ない森へと入っていく。
「嫌、何をするんですか！」
「・・・」
魔族は無言で女性を連れて行くのだった。
「魔王様のおな～り～」
魔族Ｂが高らかに宣言する。
村人たちは土下座する。
顔をあげてはならないからだ。
顔をあげようものならば、魔王になにされるか分からないからだ。
魔王は馬車に乗ってやってくる。
小さな女の子が突然走り出す。
身長は１３４ｃｍほどで、
体重は３４ｋｇ。
おさげの髪が特徴の女の子だった。
「お母さ～ん」
魔王が来るという事の意味がよく分かってないのだろうか。
母親に近づく。
それも魔王が通るであろう、
馬車の道を通り過ぎて。
「ベラフィー、来ては駄目！」
母は叫ぶ。
「え？」
ベラフィーと呼ばれた少女は馬車に引かれる。
「何事だ」
魔王が馬車から降りる。
他にも魔族が２名、共に降りるのだった。
「申し訳ございません、魔王様。
何分少女ですので、分別がつく年齢ではありません・・・どうか許してくれませんか？」
母親が急いで魔王の元へ行き謝る。
「ふむ」
魔王は少女を見る。
「ひゅー・・・ひゅー・・・」
すでに少女は虫の息だった。
「魔王様、勝手なお願いではありますが、
どうか、この子を・・・ベラフィーを。
医者へ連れてってくれませんか？」
母は懇願する。
「そうだな・・・」
魔王は考え込むしぐさを取る。
「お言葉ですが、魔王様」
「なんだ、デンジャッタ」
魔王は幻惑魔導士に話しかける。
「馬車に引かれたのは子供の責任。
助けてやる義理は無いのでは？」
「ふむ」
魔王は考え込む。
「魔王様」
「今度はお前か、ヴォンハイター」
「魔王様に言葉を投げかけるなど、不届き千万。死罪に値する」
「そう、怒るな。汝・・・怒っては無い」
「これは申し訳ありません、魔王様」
ヴォンハイターは引き下がる。
「そなた・・・名は？」
魔王は母の名を尋ねる。
「ベラザと言います」
母は名を答える・
それを聞いた後、魔王は母親の肩を叩く。
「見たところ、身なりが貧しいな」
魔王は心配そうに尋ねる。
「それは・・・旦那がおらず・・・娘の世話もあるので満足に働けず・・・」
母親は不幸な境遇を語る。
「良かったではないか」
魔王はにこっと微笑む。
「え・・・あの？」
ベラザは何の事だか一瞬分からず困惑する。
「娘がもうすぐ死ぬ、
これで綺麗な服も買えるだろう」
魔王はそう言って、馬車に戻る。
「ふひゃははは、確かにそうだ。
魔王様は頭がいい」
幻惑魔導士も馬車に戻る。
「魔王様がそう決断なされたのならば、身共は従うのみ」
ヴォンハイターも馬車に戻る。
「ま、魔王様！」
母ベラザは叫ぶ。
しかし、その声は魔王に届くことは無かった。それは音としてではなく、心として。
「ついでにもう一度ひいておけ。
死期が早まる」
魔王は馬車の運転手に指示する。
運転手は指示通り、娘の上をもう一度踏む。
車輪が娘の身体を押しつぶし、魔族の馬が頭を踏んで行った。
そして、何処かへと走り去っていくのだった。
「うあああぁ・・・・」
母親は泣き崩れるしかなかった。
無残な姿になった娘を見て、
何もできなかったのだから。