100万ℓの血涙

唐草太知

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砂漠の真ん中で、俺たちは目覚める。
彩りを取り戻し、砂が茶色だと認識し、
空は青いと理解できる。
「今のは・・・」
俺は何か不思議なものを見ていた気がした。
「あいつの・・・記憶?」
ルルがそんなことを言う。
「ルルも見たのか」
「ええ・・・」
「あれを見たのは自分だけじゃないんですか?」
「僕にも見えた」
「皆にもか・・・俺だけじゃないんだな」
「あいつを倒したことで、ヴォンハイターの記憶が垣間見えた・・・それはあいつなりに幸せだった記憶何だと思う・・・だから最後の最後に・・・残したいと思って・・・羽となった・・・それがうちらに記憶として見えたんだと思う」
あいつにもああいう過去があったんだな。
決して許されるべき内容ではないが、
あいつにも仲間とか、そういう感情があったんだなと思う。
そこだけは救いがある気がした。
「あの・・・」
ギルシュバインは申し訳なさそうにする。
「どうした」
「僕って必要かな」
「急にどうしたんだよ」
「ヴォンハイターに怯えて、動けなくなったでしょ・・・またああなるんじゃないかって思うと皆に迷惑をかける気がして。戦ってる最中、ずっと考えていたことなんだけど、戦いに勝ったからようやく言えるかなって思って」
「ギルシュバイン・・・」
「いいんだ、分かってる。臆病な僕は必要ないってことをね・・・今まで旅をしたのは楽しかったよ・・・エナトリアを見つけたら・・・会いに来てよ・・・」
「ギルシュバイン、お前は臆病じゃない」
俺は力強く言う。
「でも・・・動けなかった」
「レスキィを守れたじゃないか」
「それは・・・でも・・・最初から動けていればそもそも守る状況に何てならなかったかもしれないのに」
「ギルシュバイン、大事な話だから聞いて欲しいんだ」
俺はギルシュバインに向き直る。
「なんだい、クルバス」
「お前は勇気ある人なんだ、自信を持て」
「でも・・・本当に勇気ある人は勇敢な人だ・・・何も恐れずに前を向いて生きる・・・それはエナトリアのように」
「確かに彼女は勇敢だ、でも、それはお前もなんだギルシュバイン」
「強大な敵の前で震えていた僕が?」
「あぁ」
「どうして言い切れるんだよ、納得のいく説明をしてくれ」
「君はカッコいいよ、一番カッコいいのは勇敢で何も恐れずに立ち向かえる存在かもしれない。でもね、2番目にカッコいいのは君だ。臆病だけれど、誰かを助けたじゃないか。
君は自分を卑下しなくてもいい、2番目にカッコいいのだから」
「あ・・・」
「ここまで一緒に来たじゃないか。
それだったら最後まで共に行こうぜ、
ギルシュバイン。俺はお前の事を仲間だって思ってるんだからさ」
「すまない・・・余計な時間をとらせて」
「いいんだ、俺だってお前たちに迷惑をかけたんだ。今度は俺が励ます番だ」
俺とギルシュバインは抱き合う。
「そうよ、ギルシュバイン。
ここまで来たのに途中退場だなんて、甘いんじゃないの?」
ルルは憎まれ口を叩く。
「そう・・・だな・・・ここまで来たんだ。
最後までいかないとな」
ギルシュバインは前を歩く。
「自分を守ってくれたんです。
自信もってください、ギルシュバインさん」
レスキィは微笑む。
「レスキィさん」
ギルシュバインは涙目になる。
「行こう、旅は終わりに近づいてる」
俺は宣言する。
皆はそれに同意するのだった。
歩を進める。
辿り着いたのは海だった。
砂浜で何人かが遊んでいるのが見えた。
「わぁ、楽しそうです」
レスキィがそんなことを口にする。
「それじゃ・・・一緒に遊ぶ?」
海辺の砂浜で遊んでいた人々が全員俺たちに振り返る。それらは全て、エナトリアだった。
「ひっ」
同じ顔が一斉に振り向くものだから、
妙な不気味さを感じる。
それにレスキィは驚いたのだろう。
「クルバス・・・もう少しで全てのエナトリアは居なくなるわ」
「分かったよ、ルル・・・こいつらを全員殺せばいいんだな」
俺は聖剣を抜く。
「ぼ・・・僕も戦う」
ギルシュバインは斧を構える。
「頼むぜ、ギルシュバイン」
「うん」
「あはは・・・死んでよ!」
エナトリアたちは先ほどまで砂浜で遊ぶ格好だったのにドレスアーマーに一瞬で着替える。
そして、おぞましい槍を持って俺たちに襲い掛かるのだった。
「エナトリアああああああ!」
俺は彼女たちを殺して歩く。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ルルはエナトリアと対面する。
「ねぇ・・・あの子は元気?」
エナトリアは薄ら笑いを浮かべる。
「なんのこと?」
「あの時・・・村を離れたのは少女が仲直りをして幸せになったから必要ないって思ったかもしれないけれど・・・本当は違うでしょ」
「さぁ、どうかしら」
「少女が仲直りしたから、あの村で仲良くなれる人が居なくなったから逃げ出したんでしょ・・・あはは・・・そうだよね・・・ルル!」
「ファイヤ・キューブ」
「ぎゃあああああああっ」
エナトリアは炎上する。
「確かに・・・そうかもしれない。
でも・・・今ではうちのことを認めてくれる仲間がいる・・・だから・・・あの村にうちは帰れる」
ルルはそう告げて、他のエナトリアを倒しに向かうのだった。
「君は臆病だ、ギルシュバイン。
魔族の穴に・・・まだ入れないのだろう?」
エナトリアがギルシュバインにそんなことを言う。
「確かに・・・そうかもしれない。
でも・・・僕には仲間がいる。彼らがもしも魔族の穴に連れていかれたのならば・・・穴に入って助けに行く・・・それは足が震えながらで・・・かっこう悪いけれど・・・それでも2番目にカッコいいと言ってくれた人が居るから・・・僕は穴に入れる・・・戦斧鬼!」
「ぎゃあああああああっ」
エナトリアは斧で両断される。
「僕は・・・戦える」
ギルシュバインはエナトリアの数を減らしに向かうのだった。
「お前は勇者になれない・・・矮小で弱い存在だから・・・いじめっ子に立ち向かえないものが何故・・・勇者になれる?」
エナトリアはレスキィを襲う。
「確かに・・・そうかもしれない。
でも・・・自分には仲間がいる。勇者になれなくても・・・戦う力は手に入れた・・・だから恐れず前に行ける・・・そう思えるようになったのは・・・この旅をして良かったって思えることだ・・・ピンポイント・ショット!」
レスキィは矢を放つ。
そしてエナトリアの瞳に命中する。
「ぎゃああああああっ」
「仲間のため・・・自分は戦います」
レスキィは他のエナトリアを退治に向かうのだった。
「クルバス・・・君じゃ無理なんだ。
幻惑魔導士に騙されるような弱い心の持ち主だ・・・そんな人間が私を本気で救えると?」
「確かに・・・そうかもしれない。
でも・・・俺はここまで来れたんだ。
仲間が居たから・・・皆・・・諦めずに来れたんだ・・・それはエナトリア・・・君を救うためにだ・・・弱くたってもいい・・・君を救えるのならば方法や心の持ちよう何てどうでもいいんだよ・・・それでも勇気が必要ならば・・・仲間がきっと・・・支えてくれる・・・だから俺は戦える・・・煌めく星は迷いを断ち切る光となる・・・黄金の魂は・・・聖剣に宿るのではなく・・・心に宿る・・・輝け極星!
煌炎剣サザンクロス!」
「クルバス・・・待ってるよ・・・」
エナトリアが消える瞬間、そんな言葉を投げ捨てるのだった。
「え?」
そうして、エナトリアは灰となる。
風と共に運ばれ海に消えた。
 
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