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第2話 旧校舎
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桜の通う女子高の歴史は古い。
戦前とは少し名前を変えたりしているらしいのだけど。
そんな大昔から存在していたと言う由緒正しい学校だ。
だから校舎も古かったのだけど。
数年前に新しい校舎が出来た。
ピカピカの建物、設備も新しくエアコン完備、冷暖房に加えて空気清浄機まで付いてる。
そんなピカピカの校舎に憧れて、入学してしまった進藤桜なのだ。
ところがその裏には幽霊の出る古い校舎が隠されていたとは。
だまし討ちに遭った気分である。
そして桜は現在、その旧校舎を目の前にしてる。
夜の闇の中でLED照明の灯りにぼうっと浮かび上がる、木造の建物。
所々壊れた壁、割れた個所の有る窓、今にも朽ち果てそうな外観。
「旧校舎?
立ち入り禁止になってるだろう」
昼間のコト、そう尋ねた桜に御門茉央は答えた。
「そうよ、だから深夜と言ってるの」
それは質問の答えになって無い、と進藤桜は思う。
桜は何故深夜なのかを尋ねてはいない。
なんだって旧校舎なんかに行かなきゃいけないのか、それを尋ねているのだ。
「ふふふ。
出るらしいわよ」
何が、と聞く必要は無い。
茉央は両手を前にして、手首の先を下に向けている。
古式ゆかしい、ユーレイのポーズ。
「やめてくれよ。
お化けは苦手なんだ」
「そうだったかしら?
ホラー映画は割と見ているでしょう」
「……それは『バイ〇ハザード』とか『ゴー〇トバスターズ』だろう。
恐怖映画じゃない。
ホラー風味のアクション映画だよ」
桜は怪談話は苦手。
『ホン〇にあった恐い話』なんか、テレビで見た日は夜眠れなくなってしまう。
そんな桜の顔を見て、茉央は口元に笑みを浮かべる。
「桜は本当に……
凛々しい外見と似合っていないわ。
そういう所も好きよ」
そうなのだ。
外見と似合ってない残念少女。
そのくらい桜だって自分で分かっている。
王子様扱いなんて自分には似合わない。
ならば何故、全校生徒に王子様扱いされているかと言うと。
目の前の少女のせいだ。
御門茉央。
文句のつけようが無い外見。
学年トップクラスの成績、おまけに実家は資産家。
正にお姫様。
彼女は何故か知らないが、進藤桜が気に入って学年が上の教室まで遊びに来る。
お姫様と王子様。
そんな風に呼ばれるまで時間はかからなかった。
学園で憧れるカップルナンバー1に選ばれているらしい。
私は……女の子とカップルになる気は無い。
誰に文句を言ったら伝わるのか、桜には分からない。
まあでも、分かってはいる。
自分は添え物なのだ。
白雪姫の王子様。
シンデレラの王子様。
どちらも憧れの王子様だけど、名前さえ出て来ない端役。
お姫様の為のオマケ。
桜もそうなのだ。
茉央の為のオマケの品。
本物のお姫様を彩る存在。
茉央は本物のお姫様。
桜は少しばかり背が高いだけの添え物。
そう思っておけばいい。
そして夜、進藤桜は自分の家を抜け出した。
もう高校三年生、遅い時間に近所を散歩するくらい許されていい筈。
と思いつつ、両親にはナイショ。
抜き足差し足で玄関を出る。
表には黒塗りのセダンが止まっていた。
後部座席はゆったり。
父親の乗る軽自動車とは比較にならない。
「なに?
制服なの、夜のデートなのよ。
オシャレしてきなさいよ」
後部座席に先に座っていた茉央が言う。
彼女は薄い生地のワンピースの上に革のショートコートを羽織っている。
桜だって私服で出ようかなとは思った。
だけど、夜の学校に忍び込む、見つかったらもちろん大目玉。
制服を着ておけば、あまり叱られもしないんじゃないかな。
そんな計算が頭をよぎったのである。
『立ち入り禁止』
そう書いてある札を無視して玄関から入って行く。
鉄錠がかかっていたのだけど、茉央はどこかから大きな鉄のカギを取り出した。
校庭にはLED照明が付いていて、校舎の入口までは見えたのだけど。
建物に入ってしまったら、明かりは届かない。
桜の目には何も見えない。
暗闇そのものに入って行く気分なのだ。
茉央が懐中電灯のスイッチを入れて、木造の廊下が照らされる。
アウトドア用なのか、茉央の細い指には不釣り合いなゴツイ不格好な電気器具。
桜は電灯なんて持ってこなかった。
見つかった時の言い訳に制服着といた方がいいかな、なんて知恵は回るくせに。
こういう所は頭が回らない。
小市民の思考だな、自虐的に思う進藤桜である。
戦前とは少し名前を変えたりしているらしいのだけど。
そんな大昔から存在していたと言う由緒正しい学校だ。
だから校舎も古かったのだけど。
数年前に新しい校舎が出来た。
ピカピカの建物、設備も新しくエアコン完備、冷暖房に加えて空気清浄機まで付いてる。
そんなピカピカの校舎に憧れて、入学してしまった進藤桜なのだ。
ところがその裏には幽霊の出る古い校舎が隠されていたとは。
だまし討ちに遭った気分である。
そして桜は現在、その旧校舎を目の前にしてる。
夜の闇の中でLED照明の灯りにぼうっと浮かび上がる、木造の建物。
所々壊れた壁、割れた個所の有る窓、今にも朽ち果てそうな外観。
「旧校舎?
立ち入り禁止になってるだろう」
昼間のコト、そう尋ねた桜に御門茉央は答えた。
「そうよ、だから深夜と言ってるの」
それは質問の答えになって無い、と進藤桜は思う。
桜は何故深夜なのかを尋ねてはいない。
なんだって旧校舎なんかに行かなきゃいけないのか、それを尋ねているのだ。
「ふふふ。
出るらしいわよ」
何が、と聞く必要は無い。
茉央は両手を前にして、手首の先を下に向けている。
古式ゆかしい、ユーレイのポーズ。
「やめてくれよ。
お化けは苦手なんだ」
「そうだったかしら?
ホラー映画は割と見ているでしょう」
「……それは『バイ〇ハザード』とか『ゴー〇トバスターズ』だろう。
恐怖映画じゃない。
ホラー風味のアクション映画だよ」
桜は怪談話は苦手。
『ホン〇にあった恐い話』なんか、テレビで見た日は夜眠れなくなってしまう。
そんな桜の顔を見て、茉央は口元に笑みを浮かべる。
「桜は本当に……
凛々しい外見と似合っていないわ。
そういう所も好きよ」
そうなのだ。
外見と似合ってない残念少女。
そのくらい桜だって自分で分かっている。
王子様扱いなんて自分には似合わない。
ならば何故、全校生徒に王子様扱いされているかと言うと。
目の前の少女のせいだ。
御門茉央。
文句のつけようが無い外見。
学年トップクラスの成績、おまけに実家は資産家。
正にお姫様。
彼女は何故か知らないが、進藤桜が気に入って学年が上の教室まで遊びに来る。
お姫様と王子様。
そんな風に呼ばれるまで時間はかからなかった。
学園で憧れるカップルナンバー1に選ばれているらしい。
私は……女の子とカップルになる気は無い。
誰に文句を言ったら伝わるのか、桜には分からない。
まあでも、分かってはいる。
自分は添え物なのだ。
白雪姫の王子様。
シンデレラの王子様。
どちらも憧れの王子様だけど、名前さえ出て来ない端役。
お姫様の為のオマケ。
桜もそうなのだ。
茉央の為のオマケの品。
本物のお姫様を彩る存在。
茉央は本物のお姫様。
桜は少しばかり背が高いだけの添え物。
そう思っておけばいい。
そして夜、進藤桜は自分の家を抜け出した。
もう高校三年生、遅い時間に近所を散歩するくらい許されていい筈。
と思いつつ、両親にはナイショ。
抜き足差し足で玄関を出る。
表には黒塗りのセダンが止まっていた。
後部座席はゆったり。
父親の乗る軽自動車とは比較にならない。
「なに?
制服なの、夜のデートなのよ。
オシャレしてきなさいよ」
後部座席に先に座っていた茉央が言う。
彼女は薄い生地のワンピースの上に革のショートコートを羽織っている。
桜だって私服で出ようかなとは思った。
だけど、夜の学校に忍び込む、見つかったらもちろん大目玉。
制服を着ておけば、あまり叱られもしないんじゃないかな。
そんな計算が頭をよぎったのである。
『立ち入り禁止』
そう書いてある札を無視して玄関から入って行く。
鉄錠がかかっていたのだけど、茉央はどこかから大きな鉄のカギを取り出した。
校庭にはLED照明が付いていて、校舎の入口までは見えたのだけど。
建物に入ってしまったら、明かりは届かない。
桜の目には何も見えない。
暗闇そのものに入って行く気分なのだ。
茉央が懐中電灯のスイッチを入れて、木造の廊下が照らされる。
アウトドア用なのか、茉央の細い指には不釣り合いなゴツイ不格好な電気器具。
桜は電灯なんて持ってこなかった。
見つかった時の言い訳に制服着といた方がいいかな、なんて知恵は回るくせに。
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小市民の思考だな、自虐的に思う進藤桜である。
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