ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。

Scene16 五古河逆と俺のビジネスホテル

第99話

ビジネスホテルの一室。
魔王の四将、獣人サイツォンが言う。

「生命力をパワーアップさせる」

「だから病気なんかは注意が必要だ。
　免疫力がパワーアップするものの、
　病原菌まで活性化しちまう場合もある。
　老人なんかもダメだ。
　生命力を上げようにも元々の生命力があまり残ってないんだ。
　下手すりゃ老化が進む」

傷つき、意識を失っている逆を指す。

「まあこいつは若いし。
　見たところ肉体も鍛えてるようだ。
　何とかなるだろうよ」

逆は自分の兄にやられた。
傷つきボロボロになった肉体。
青痣だけでは無い。
不自然な身体の黒ずみ。

凌は言っていた。
臓器を傷つけた。
普通の人間なら三日と保たずに死ぬ、と。

「分かった、やってくれ」

俺は大男サイツォンに頼む。
五古河逆は付き合いの長い女では無い。
だが、せっかくの若く美しい肉体。
朽ちさせるのはもったいないだろう。

「そうだな。
　お前、アレ出来るか」
「アレか」

「そうだよ、あの技けっこう魔力を食うんだ」
「体力は有り余ってるだろ」

「体力じゃねーんだよな。
　やっぱ魔力なんだよ」

サイツォンがワガママを言う。
仕方ないな。
俺は軽く大男の肩に手を置く。
何かが大男の身に溢れ出す。

「おおっ、キタキタ。
　来たぜ。
　これなら楽に使えそうだ」

大男はコキコキと肩を鳴らしながら逆に近づく。
ベッドに寝ている逆。
意識は無い。
表からホテルの部屋に連れ込むまで。
一瞬も意識を取り戻さなかった。
血の気の引いた顔。
健康な状態で無いのは医者じゃ無くたって分かる。

大男が逆の脇に立つ。
獅子の頭部、身体は筋肉に覆われた獣人。
魔王の四将、獣王サイツォン。
少しばかり緊張した面持ち。
拳を握りしめ、力を漲らせる仕草。

『ワイルドビーティング』
野生よ、鼓動を打ち鳴らせ！

サイツォンが何かが漲った拳で逆を打つ。
身体の中心、心臓部。
逆の左胸に大男の拳が当たる。

逆が、大男が一瞬光った気がする。
大男から逆へ、何かが伝わった。

逆の肉体から汗が吹き出す。
今は冬。
ホテルは空調が入ってるが暑いという程では無い。
汗など一つも無かった肉体。
玉のような汗が迸っている。

「この女、大分鍛えてるな。
　良い筋肉だ。
　これなら大丈夫だろうぜ」

サイツォンが言う。
大男は少し疲れた風情。
顔に赤みが刺し、息が荒い。
五古河凌との格闘戦では息も切らしていなかった。
今の技は彼が疲労するような何かであったらしい。

見ると逆の顔にも赤みが刺している。