184 / 191
Scene.EX04 女社長七鮎川円花と俺のいない世界
第184話
しおりを挟む
「……あの。
貴方はどなたですか?」
草薙真悟は電話口でそう言った。
わたしはショックを受けると同時に分かっていた事だとも思った。
クリスマスの日、空から降りしきる雪を手で受け止めた時に分かっていた。
でも、どこかでもしかしたらと思っていた。
今日、病院に行ったのは最後の確認作業とも言える。
あの人の顔をした男の人。
入院患者『草薙真悟』を見て最後の踏ん切りがついたと思う。
あの日出会った勇者、わたしの運命の人はもういないのだ。
“水流のブレスレット”を拾ったわたし。
自分が魔法少女になってマモノと戦う。
言葉にしたらバカみたいなおとぎ話。
そんな事がわたしの身に起きるなんて。
わたしは子供みたいに興奮していた。
だけどそれはおとぎ話じゃなかったのだ。
残酷な現実、敵はバケモノ。
角を生やした狼に似た獣が笑う。
「クククカカ」
わたしの身体は傷ついている。
数匹の魔犬に切り裂かれた身体。
もう剣を持つのもやっと。
ここでわたしは死ぬのだろうか。
七鮎川の令嬢として産まれて。
優等生として生きていて。
魔法少女として死ぬ。
誰も愛さないまま。
誰にも愛されないまま。
七鮎川円花は死ぬ。
そう思った。
ところが、あの人が現れた。
普通の高校生だと思ったのに。
何故この人はこんなに落ち着いてるの。
傷ついたわたしを抱きしめて囁く。
「これからは俺が付いてるよ」
マンションに帰って。
「円花さま、遅いです」
ネコが小言を言うのを聞きながら。
わたしの頭の中は彼の事でいっぱいだった。
唇に触れる。
彼の唇の感触が残ってる。
そんな事は起きないと知りながら。
ずっと願っていた事。
わたしが七鮎川の人間だと知らないで。
わたしを好きだと言ってくれる人。
そんな人が現れる事。
日本の六大財閥の一つ、七鮎川。
わたしはその一員として産まれた。
幼い頃から、わたしにすり寄って来る人間は多かった。
学校の教師でさえも、わたしの機嫌を取った。
わざわざ、六家と関わりの無い高校に進学した。
メガネで変装をしたりもしてみたけれど。
滑稽なだけね。
誰もがわたしの事を知っていた。
だけど、あの人はわたしの事をまったく知らなかった。
次の日、わたしはまた彼の家に行ってしまった。
いきなり自宅に続けて訪問するなんて、露骨過ぎるかしら。
そんな事も思ったのだけど。
彼と近付きたい、もっと話したい。
そんな欲求には勝てなかった。
そして。
彼の手がわたしを抱き寄せる。
さすがに早すぎるのではないか。
抵抗すべきなのかも。
そんな思いもチラリと頭を掠めた。
でも。
彼の目がわたしを見つめる。
もう明らかだった。
この人は七鮎川の事を知らない。
知らないで、わたしを魅力的な女性と思っている。
金持ちのお嬢様と知って口説いてくる。
そんな男がいなかった訳では無い。
ワイルドな男っぽいフリ。
強引に私を誘う。
お嬢様はホントはこんなのが好きだろう。
でも男達の目は何処か卑屈だった。
その目はわたしを見ていない。
わたしの後ろにある七鮎川を、その金を、その権力を見ている。
わたしは出会ってしまったのだ。
ずっと願っていた人に。
貴方はどなたですか?」
草薙真悟は電話口でそう言った。
わたしはショックを受けると同時に分かっていた事だとも思った。
クリスマスの日、空から降りしきる雪を手で受け止めた時に分かっていた。
でも、どこかでもしかしたらと思っていた。
今日、病院に行ったのは最後の確認作業とも言える。
あの人の顔をした男の人。
入院患者『草薙真悟』を見て最後の踏ん切りがついたと思う。
あの日出会った勇者、わたしの運命の人はもういないのだ。
“水流のブレスレット”を拾ったわたし。
自分が魔法少女になってマモノと戦う。
言葉にしたらバカみたいなおとぎ話。
そんな事がわたしの身に起きるなんて。
わたしは子供みたいに興奮していた。
だけどそれはおとぎ話じゃなかったのだ。
残酷な現実、敵はバケモノ。
角を生やした狼に似た獣が笑う。
「クククカカ」
わたしの身体は傷ついている。
数匹の魔犬に切り裂かれた身体。
もう剣を持つのもやっと。
ここでわたしは死ぬのだろうか。
七鮎川の令嬢として産まれて。
優等生として生きていて。
魔法少女として死ぬ。
誰も愛さないまま。
誰にも愛されないまま。
七鮎川円花は死ぬ。
そう思った。
ところが、あの人が現れた。
普通の高校生だと思ったのに。
何故この人はこんなに落ち着いてるの。
傷ついたわたしを抱きしめて囁く。
「これからは俺が付いてるよ」
マンションに帰って。
「円花さま、遅いです」
ネコが小言を言うのを聞きながら。
わたしの頭の中は彼の事でいっぱいだった。
唇に触れる。
彼の唇の感触が残ってる。
そんな事は起きないと知りながら。
ずっと願っていた事。
わたしが七鮎川の人間だと知らないで。
わたしを好きだと言ってくれる人。
そんな人が現れる事。
日本の六大財閥の一つ、七鮎川。
わたしはその一員として産まれた。
幼い頃から、わたしにすり寄って来る人間は多かった。
学校の教師でさえも、わたしの機嫌を取った。
わざわざ、六家と関わりの無い高校に進学した。
メガネで変装をしたりもしてみたけれど。
滑稽なだけね。
誰もがわたしの事を知っていた。
だけど、あの人はわたしの事をまったく知らなかった。
次の日、わたしはまた彼の家に行ってしまった。
いきなり自宅に続けて訪問するなんて、露骨過ぎるかしら。
そんな事も思ったのだけど。
彼と近付きたい、もっと話したい。
そんな欲求には勝てなかった。
そして。
彼の手がわたしを抱き寄せる。
さすがに早すぎるのではないか。
抵抗すべきなのかも。
そんな思いもチラリと頭を掠めた。
でも。
彼の目がわたしを見つめる。
もう明らかだった。
この人は七鮎川の事を知らない。
知らないで、わたしを魅力的な女性と思っている。
金持ちのお嬢様と知って口説いてくる。
そんな男がいなかった訳では無い。
ワイルドな男っぽいフリ。
強引に私を誘う。
お嬢様はホントはこんなのが好きだろう。
でも男達の目は何処か卑屈だった。
その目はわたしを見ていない。
わたしの後ろにある七鮎川を、その金を、その権力を見ている。
わたしは出会ってしまったのだ。
ずっと願っていた人に。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる