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その6 危険な瞳

第73話 アシャ・ワヒーシュタ

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あの猛獣が突進して来たら、サイラスの槍程度でにゃんとか出来るとは思えにゃい。

イザとにゃったら、わたしも姿を見られちゃってもしょうがにゃいかしら。
石でもあれば、にゃげつけるのだけど。
この辺は湿地帯。
見渡す限り、泥だらけの地面。
石にゃんて見つからにゃい。

エラティ隊長。
浅黒い肌の美少年は剣を握りしめている。
軽く目を瞑って、長い睫毛が見えているの。
その下で形の良い唇が言葉を紡ぐ。


「アシャ・ワヒーシュタ。
 天測を司る正義の方。
 穢れを焼き尽くす聖なる火よ。
 僕に力を貸して。
 目の前の汚れたドルグヴァントを滅する。
 その為の力を僕に」

そうして。
エラティ隊長は瞳を開ける。

普段涼し気で眠たそうにゃ眼差しの美少年にゃのだけど。
彼の瞳に一瞬炎が燃え上がる。
強い意志で開かれた瞳。
現在の彼に眠たそうにゃんてコトは誰も言わにゃいでしょう。


タウエレト。
重たげにゃ巨獣は様子を見てたんだけど。
遂に攻撃態勢。

サイラスが槍で牽制しているのを気にも止めず、走り出す。


「うわっ、うわあっわわわわわ」

槍をタウエレトの顔面に突き出すサイラス。
それでも突撃してくる巨大なカバ。
槍の刃先は刺さったのだけど、頭蓋骨に阻まれてるのかしら。
深くは刺さらにゃい。
槍ごと前進して来る魔物ダェーヴァ
柄の部分がしにゃって、ポッキリ折れちゃう。

「ああっ?!
 俺の槍が……」

すでにタウエレトは目の前。
サイラスの手には折れた槍の柄。
タダの短い木の棒があるだけ。


「ありがとう、サイラスくん」

タウエレトとサイラス。
その間にサイラスより小柄な青年がすっと入って行く。
魔物ダェーヴァは戸惑ったりしにゃい。
そのまま突撃する。

ゴォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

にゃに?!
今の。
スゴイ轟音がしたわ。
エラティ隊長が美しい剣を振り上げ、魔物に向かって振り下ろしただけにゃの。
だけど、辺りに響いたのはそんにゃ音じゃにゃい。

大木でも折れたか、崖崩れでも起きた。
そんにゃ凄まじい音よ。

さっきまでいた存在感の有る巨獣。
それが。
それが。
真っ二つに切り裂かれているわ。

それだけじゃにゃいわね。
その魔物がいた地面まで切り込みが入ってる。

そして剣を振り下ろした姿勢の美少年。
エラティさんが全てを斬り裂いたの?!


「よっこいしょ。
 アレ、重いな。
 サイラスくん、手伝ってよ」

「え、えええ?
 何でしょう」

「剣を持ち上げるんだよ」

その手にしたダマスカスブレードは地面に深く刺さってるのね。

「……は、はい?」

良く分からにゃいと言う風情でサイラスが近付くわ。
エラティ隊長と一緒に剣を引き抜こうとするけど。
剣は少し動いただけね。

「これは……一体?」

「身軽にするのと反対でね。
 剣を重くしてみたんだ。
 普段はやらないんだよ、これ。
 だって疲れるからね」
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