上 下
16 / 33
貧民街の魔少年

宿に辿り着いた男Ⅰ

しおりを挟む
休暇中だってのに俺はアリスに無理やり仕事させられる。
平和な広場でコーヒーを楽しんでいると、見境ないマント姿のヤツが襲ってきた。
平和な広場は血みどろになった……
なんてツイてないんだ。


俺とアリスは逃げ出す。
マント姿のヤツが追ってくる。

離れた場所にいた人間達はまだ何が起こったか分かっていない。
騒動が起きたのは感づいても、ケンカくらいに思っているのだ。

「ちょいとゴメンよ!」
「通してください!
 あなた達も危険です。
 逃げてください」


アリスの警告は誰の耳にも入らなかった。
放っておいたら、人々を無理やりにでも避難させようとするアリス
その手を捕まえて強引に引っ張る。

正直、今は他人に構っている余裕が無い。
俺は人ごみを強引に掻き分けて逃げ出す。


追って来たマントの奴はホントーに見境が無かった。
平和な昼下がりを楽しむ人々の中に突っ込む。

何てこった!

山刀を収めようという気がヤツには一切なかった。
ヤツの周囲に居た人間がバタバタ倒れる。

「キャーッ!」

「刀! 
 刃物持ってやがるぞ!」
「あーっ
 血、俺の血が!」

老人、女、子供 みな切られていた。
さすがに見境が無さ過ぎるだろう。

俺はちょっとばかり頭に来ていた。

アリスの手をほどいてヤツに向かう。

「ジェイスンさん!」

マントの奴が俺に向き直り山刀をかまえる。

俺はこいつの動きにも慣れて来ていた。
こいつは確かに動きが早いが、まっすぐ飛び込んでくるだけなのだ。
だからこそ早いとも言える。

俺に向かって一直線に飛び込んでくる凶器!

おれはヤツの顔に向かって屋台から貰って来たビンを投げつける。

刀でビンを叩き切るマント。
ビンの中からドロリとした液体がヤツの顔にかかる。


「ガァッーーーーーーーーーー」
「目がっ……
 メガァーーーー!!!!」

チリソースのビンだ。
ビンのラベルにトウガラシの絵が描いてあるのを俺は見逃さなかったのである。

奴は顔を抑え呻き声を上げている。
これでしばらくはまともに目が見えない。

やっと追いついて来た警備隊が奴に近づいていく。
今度は慎重にシールドを前に押し出している。

マントの奴がめくらめっぽう刀を振るが、さっきまでの鋭さは何処にもない。
後は任せていいだろう。


「アリス、行くぞ」

俺はへたり込んでいたアリスを抱え上げて逃げた。

俺は広場から出て、かなりの距離を走りまくった。
まったく安心できなかった。
いつ後ろの人間が真っ二つにされて、マントが現れるかとビクビクしながら走り続けた。

「…………ジェイスンさん。
 ジェイスンさん、もう大丈夫ですよ」

俺は大通りを相当な距離移動していた。
すでに冒険者ギルドも近い場所だ。

「降ろしてください。
 ……恥ずかしいです」

俺は自分の腕がアリスをいまだに抱え上げてることに気が着いた。
少し残念に思いながら柔らかい身体を下す。



「アハハハハ……助かりましたね……アハハハハ」
「イヒヒヒヒ……助かったぞ……イヒヒヒヒ」
「ウフフフフ……怖かったです……ウフフフフ」
「クケケケケ……怖かったな……クケケケケ」

俺とアリスは顔を見合わせて大笑いした。
二人ともちょっとばかり頭がおかしくなっていた。
しおりを挟む

処理中です...