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貧民街の魔少年

引っ繰り返す男Ⅰ

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俺は最大のピンチを抜け出した。
薬にぼーっとして、犬と交尾する姿を銀髪少年に見られるところだったのだ。
良かった、俺ツイテるじゃん。
そんな俺をマフィアの女ボスが訪ねてくる。




サラ子爵を見る。
顔に傷痕が刻まれた老婦人。
品の良いお婆ちゃん、なんてシロモノには絶対見えない。

プロフィールを知らなかったら、若い頃は女子プロレスラーだったのか?、と訊いてしまいそうだ。
この世界にプロレスがあるかどうかは知らないが。

マフィアのマッチョ男アーニーでも震え上がる迫力がある。
無駄に偉そうにしてる人間が嫌いな俺だが……
この老婆を嫌いになる事は難しそうだ。


「サラ子爵、話は分かった。
 だが、俺に何の関係がある?」

「『赤いレジスタンス』捜索に力を貸せってんなら見当違いだ。
 俺はこの街に来てひと月と経ってない。
 チンピラの居場所なんて分からない」

「まずは一個、礼を言っておきたかったのさ。
 この間の侯爵の件、あれはアタシも気にしてたんだ。
 証拠もなしに神殿や侯爵を敵に回せないからね」
 アンタが動いてくれて助かった。
 この街の顔役の一人として礼を言うよ」

彼女は俺に丁寧に頭を下げる。


「「ゴッド・マザー!」」

アーニーとケイトが仰天した声を出す。
どうやらこの老婆が頭を下げるのはそうそうある事じゃないらしい。


「あんたたちも礼を言いな!」

サラが鋭い声で言う。
筋肉二人組と周囲に居た黒服の連中が俺に頭を下げてくる。

マフィアと一目で分かるような黒服の男どもが全員、俺に頭を見せるのである。
俺は得意になるよりも閉口した。
隣の席ではアリスが、何事かと言う顔で俺を見たりもしている。


「……おいおい、あれは偶然だ。
 礼を言われるほどの事じゃない」
「そういう所が気に入ったのさ。
 アンタに勲章を出そうとしたら、とっとと断ったってね」

「大きな声じゃ言えないが、あの儀式に参加したバカの中には娘婿もいたのさ。
 コナー・ファミリーも大きく成り過ぎちまった。
 アタシの娘も息子もクソばかりだよ。
 ……見どころが有るのはコイツラくらいだ」

アーニーとケイトを指して言う。

「頭は足りないけどね。
 自分を鍛えようって意識が有るだけマシさ」

「……アンタ、うちの身内にならないか?
 ケイトの婿なんてどうだ。
 アタシ直系の孫だ。
 うまくすりゃファミリーのトップになれるよ」

サラはとんでもないことを言い出す。
俺は思わず食べていた料理を吹き出した。

「ジェイスンさん!
 ……あの!……サラ子爵は立派な方だと思います。
 ……けど……マフィアの一員になるというのはですね……
 オススメ出来ないと言いますか……」
「アリス、真に受けるな。
 サラ子爵も冗談は止めてくれ」

「冗談でもないけどね……
 まぁ本題は別さ」

立ち上がってしまったアリスを落ち着かせる俺。
サラはそんな俺を笑いながら見ていたが、やがて真顔で話の続きを始める。


「ジェイスン、アンタに護衛を付ける。
 もちろんコナー・ファミリーがだ」

「『赤いレジスタンス』って連中は厄介でね。
 決まったアジトがない。
 公園や毎回違う店で集会もしてる。
 リーダーもいないんだ。
 どうも年のいかないガキが入れ知恵をしてるってウワサだが、マユツバもんだね」
 
「アタシのコネの有る貴族から聞いたんだけどね。
 アンタを捕まえるのに高い報酬をヤツらは要求してるのさ。
 必ずアンタを捕まえに来るはずだ」

「要するにおれを囮にするつもりか」

「ふふん ケイト! ジェイスンにピッタリ貼りつきな! 未来のムコだよ 大事にしな」
その冗談は止めろってのに。

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