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『春は筍ご飯が美味しいのです!』の章
第1話
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「ふにゃー。
疲れたよう」
玄関の扉を閉めるなり叫ぶ和泉さん。
土間に足を置いたまま、玄関にへたり込む。
長尾家は古い日本家屋。
玄関の土間は本物の土が置いてある。
コンクリで覆ってさえいないのだ。
土埃が舞うけど、気にしない。
座っちゃう。
スーツを着てると言うのに、そのまま寝転ぶ和泉さん。
「もう~動けない~」
甘えた声を出す柿崎和泉さんだ。
誰に甘えてるのか。
歩いてくる着流しの男性に。
「土間にしゃがみ込むのは感心しませんてば」
叱っているようにも聞こえるけど、声は優しい。
六郎さん。
長尾六郎さんが歩いてくる。
和泉さんが六郎さんの好きなところその1、優しい声。
声が柔らかいの。
声質自体は男らしく低い声なんだけど、しゃがれたところが無い。
甘く優しい響き。
声を聴いてるだけで荒れた精神に、不毛の大地に恵みの水が沁み込む。
そんな気がして来ちゃう。
「しゃがみ込んでるんじゃないんですー。
倒れてるんですー」
和泉さんは唇を尖らせる。
ツーンとタコみたいに口を出す。
可愛くない仕草。
「仕方ないですね、和泉さんは。
スーツが汚れちゃいますよ」
やっぱり六郎さんは優しかった。
和泉さんに肩を貸す。
玄関に寝転んだ可愛くない女を抱き上げ、支えて歩いてくれる。
「えへへへー」
柿崎和泉さんと長尾六郎さん。
苗字が違うから夫婦じゃない。
夫婦別姓とかそんな事もしていない。
あまりメンドクサイ事を考える和泉さんじゃないのだ。
じゃあ何故一緒に暮らしてるのか。
大学生だった和泉さんはお金が無かったのだ。
本気でアパートの家賃が払えない。
どうしようも無くなった彼女は近所の古い家に住み込みで雇って貰った。
家政婦兼大学生。
掃除や料理をする。
その分家賃は無料。
働き具合によってはバイト代もくれるらしい。
一も二も無く飛びついた。
大学生だった和泉さんは既に社会人。
もうそろそろ20代じゃなくなる年齢。
なんてこったい。
月日が流れるのは早いよね。
だけど未だに和泉さんは古い家に住み込んじゃってるのだ。
それなりに収入は有る筈なのに出て行こうなんて気は無い。
少しも無い、これっぽっちも無い、一切無い、さらさら無い、まったく無い。
社会人してたら家事なんて満足に出来ないぞ。
もちろんそうだ。
六郎さんはすでに定年退職。
60歳で定年。
会社と交渉で65歳まで延長してもらえるのだけど。
六郎さんにその気は無かった。
ちっとも無い、毛頭無い、欠片も無い、全然無い。
今や家事をしているのは全て六郎さん。
和泉さんはせっせこせっせこ会社に通う毎日なのだ。
ホントウは今やじゃない。
和泉さんが大学生だった時からほとんど六郎さんが家事全般をしていたと言う説も有る。
ツーン。
そんな事無いもん。
そんな説にはそっぽを向く和泉さんだ。
「六郎さん、今日のご飯はなーに」
「アスパラガスのベーコン巻と筍ご飯ですよ」
「わーい、ベーコン巻好きー」
「知ってますよ」
疲れたよう」
玄関の扉を閉めるなり叫ぶ和泉さん。
土間に足を置いたまま、玄関にへたり込む。
長尾家は古い日本家屋。
玄関の土間は本物の土が置いてある。
コンクリで覆ってさえいないのだ。
土埃が舞うけど、気にしない。
座っちゃう。
スーツを着てると言うのに、そのまま寝転ぶ和泉さん。
「もう~動けない~」
甘えた声を出す柿崎和泉さんだ。
誰に甘えてるのか。
歩いてくる着流しの男性に。
「土間にしゃがみ込むのは感心しませんてば」
叱っているようにも聞こえるけど、声は優しい。
六郎さん。
長尾六郎さんが歩いてくる。
和泉さんが六郎さんの好きなところその1、優しい声。
声が柔らかいの。
声質自体は男らしく低い声なんだけど、しゃがれたところが無い。
甘く優しい響き。
声を聴いてるだけで荒れた精神に、不毛の大地に恵みの水が沁み込む。
そんな気がして来ちゃう。
「しゃがみ込んでるんじゃないんですー。
倒れてるんですー」
和泉さんは唇を尖らせる。
ツーンとタコみたいに口を出す。
可愛くない仕草。
「仕方ないですね、和泉さんは。
スーツが汚れちゃいますよ」
やっぱり六郎さんは優しかった。
和泉さんに肩を貸す。
玄関に寝転んだ可愛くない女を抱き上げ、支えて歩いてくれる。
「えへへへー」
柿崎和泉さんと長尾六郎さん。
苗字が違うから夫婦じゃない。
夫婦別姓とかそんな事もしていない。
あまりメンドクサイ事を考える和泉さんじゃないのだ。
じゃあ何故一緒に暮らしてるのか。
大学生だった和泉さんはお金が無かったのだ。
本気でアパートの家賃が払えない。
どうしようも無くなった彼女は近所の古い家に住み込みで雇って貰った。
家政婦兼大学生。
掃除や料理をする。
その分家賃は無料。
働き具合によってはバイト代もくれるらしい。
一も二も無く飛びついた。
大学生だった和泉さんは既に社会人。
もうそろそろ20代じゃなくなる年齢。
なんてこったい。
月日が流れるのは早いよね。
だけど未だに和泉さんは古い家に住み込んじゃってるのだ。
それなりに収入は有る筈なのに出て行こうなんて気は無い。
少しも無い、これっぽっちも無い、一切無い、さらさら無い、まったく無い。
社会人してたら家事なんて満足に出来ないぞ。
もちろんそうだ。
六郎さんはすでに定年退職。
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会社と交渉で65歳まで延長してもらえるのだけど。
六郎さんにその気は無かった。
ちっとも無い、毛頭無い、欠片も無い、全然無い。
今や家事をしているのは全て六郎さん。
和泉さんはせっせこせっせこ会社に通う毎日なのだ。
ホントウは今やじゃない。
和泉さんが大学生だった時からほとんど六郎さんが家事全般をしていたと言う説も有る。
ツーン。
そんな事無いもん。
そんな説にはそっぽを向く和泉さんだ。
「六郎さん、今日のご飯はなーに」
「アスパラガスのベーコン巻と筍ご飯ですよ」
「わーい、ベーコン巻好きー」
「知ってますよ」
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